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4.いつもの場所、違う人

「……何してんの、ミナト……と……」


ライトをハルの顔が分かるくらいに上げると、無表情で、そこに立っていた。

ハルはイマイチ状況が掴みきれていないようだった。

焦りなのか、安堵なのか、様々な感情が入り乱れているように見える。


「あぁ、キミ、シロちゃんか。あたしだよ、ハルだよ」

「え、あ、あの」


集落の中でもシロの家とハルの家は対照的な位置にある。あまり顔を合わせる機会がないのだろう。シロは少し困った様子ではにかんだまま固まってしまった。


「ミナトもこんな夜遅くまで何してたのさ。夜闇から現れるんだから、そりゃ何してんのって聞きたくもなるよ」


取り繕うように、不自然なほどハルが喋る。

不自然なくらいに笑顔で。

何かを頑なに隠すように。


「いや、シロと少し遊んでいたら遅くなっちゃって、これから送っていくところ」

「そっか。気をつけなよ」


ヒラヒラと、手を振って、慌ててその場を離れようとする。


「また灯台か?こんな時間に?」

「こんな時間だからこそだろ」


星でも見に行くのだろうか。

ハルにとって珍しいものでもないだろうに。


「……帰ろっか」

「……はい」


その後の会話とかも特になく、家まで送っていった。


「あ、明日!」


別れ際、シロが僕に叫ぶ。


「また……明日……」


家に帰り、布団に潜り込む。

今日は何かと疲れた。

目を閉じるとスッと夢の世界へと落ちていく……。


カンカンカン!


はずだった。

けたたましい音が周囲に鳴り響く。


「な、なんだ!?」


外を見ると山で煙がごうごうと立ち上っていた。

山、そう、あの位置は……。


「神社が!」


僕は服装などお構い無しにサンダルを急いで履いて駆け出した。

外は軽く、雨が降っていた。


山道入り口には人だかりができていた。

島にはこんな人がいたのかと驚いてしまう。

どうやら雨のおかげで山火事にはならずに済んだようだ。

ただ、神社は全焼してしまったようで、そこまで立ち入らせてはくれなくなっていた。




翌日。

また明日ね、の約束を守るため神社へと向かう。


「……」


立ち入り禁止。

そう書かれた札が僕らの行く手を塞いでいた。


「行かないのか?」

「ふぁ!?」


間の抜けた声が出てしまう。

後ろから突然誰かに声をかけられた。


「なんだよハル……」


イタズラっぽく笑う仕草もなく、無表情で、何してんのとでも言いたげにこちらを見ている。


「こっち、こっちだ」


僕の手を引いて、山道をすいすいと登っていく。

バリケードが所々張り巡らされ、それを横目に通り抜けていく。


「ほらついた」


そこには朽ちた鳥居と、炭になった元神社があった。

一応は神様の敷地だし、と鳥居まで回り込み、一礼をして中央を通らないよう鳥居をくぐる。

それをハルは、変な生き物を見るように見ていた。


「ま、いいや。とりあえず神社はこんな状態だけど、待つんだろ?どうせ」

「もちろん」


力強く意気込んで、炭の上に腰を下ろす。

ハルは座布団1枚敷いて僕の隣に腰掛ける。


「うわずるい、炭の上だとやっぱり固くて長時間座るの辛いんだよなぁ」

「逆にミナトはよく座れるね。私は服が汚れるから、それをみこして持ってきたまでだよ」


汚れる?

立ち上がり、少し確認して気づく。


「うわぁ!」


真っ黒だ。この汚れはそうは落ちないと直感的に分かる。

その様子を見て、ハルは少し笑う。


「一応この抜け道はあるけど、ミナトも知っての通りなかなかに危険な道だ。行くなら私を誘って欲しい」


なんかここまで協力的なハルに、少し込み上げてくるものを感じた。


この日は結局日の落ちるギリギリまで粘ったが、シロが現れることはなかった。


「そうだ」

「ん?」

「そうだよ、なんで僕は家を訪ねることをしなかったんだ。真っ先に行くべきだろう」


盲点だった。

いや、盲点ですらなかった。

わざわざ集合場所に行かなくても、家にはいるんじゃないか。


「あー、でも」


ハルは何かを言いかける。


「いや、実際に見たほうが早いか」




シロの家の玄関は半分ほどなくなっていた。


「雨の影響で火災はそこまで広がらなかったが、シロちゃんの家までは届いたみたい。ご覧の通り家が半焼しちゃってる。たぶんだけど、もうここにはいないかな」


いったい、シロはどこへ行ったんだ。




次の日


「ハルー!そろそろお弁当食べようぜ!作ってきたんだ、ホントはシロと食べるつもりだったんだが」

「それ、一緒に食べる人の前で言うかな、普通」


また次の日


「ハルー!これ、好きだっただろ!?メンコ!家掘り起こして見つけてきたんだ!」

「いつの話をしているんだ?いやまぁ、やるけど」


そんなシロに会えないけど、なんだかんだで楽しく日々は過ぎていった。


「今日も会えなかったなぁー」

「ねぇ、ミナト」


神妙な面持ちで、ハルは僕の方を見てくる。

夕暮れのせいか、顔が少しオレンジがかっている。


「まだ、シロちゃんを運命の人って思ってるの?」

「え、あぁ、当たり前だろ?」


突然何を言い出すかと思えば。

そんな当たり前なことを聞いて何になるのか。


「これだけ会えないのに、それでも運命の人って信じてるの?」

「むしろ会えないからこそ信じたいじゃないか」


青い髪が、風に揺られる。

シロとは対照的な短い髪がサラサラと揺れている。


「ねぇ、ミナト、運命の人って……私じゃダメなの……」


表情からは感情がイマイチ読み取れない。

恥じらいながらも、何か諦めに近いものを感じる。

僕はそんな問いに対して、


「すまん。やっぱり僕の運命の人はシロだって、そう思うんだ」


殴られてもいいから正直になろう。

そう決めて、ハルの顔を見た。

目を真っ赤にして、唇を噛み締めている。


「ばか」


一言、それだけ言って、顔を見せまいとそっぽを向いてしまった。

そこから喋ることなく、山道を下っていく。

山道を下りきったとき、ハルは小さくつぶやいた。


「……もう今日で終わりだから。これで良かったんだよ」


でもその声は、風とともに流されていった。




家に着いて、今日もシロが来なかったことを考えている。

いったい、どこへいるのだろうか。

ふと窓から外の景色を見る。

灯台、いつかシロと遊んだっけ。

ふいに懐かしくなった。


「!?」


灯台の上、誰も登れない場所にもかかわらず、そこで白い何かが揺れた気がした。

神社でも感じた、ほのかな光を。

行かなきゃ。

僕は慌てて着替えて、自転車の鍵を取る。

急がないといけない。

何かが僕の感情を急き立てた。


「ダメだよ」


ドアを開けたら、そこには人がいた。

青い髪に、無表情。

そこにはいつものハルがいた。

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