13.これからはこれも、背負うんだ
とても重たく、苦しい。
永遠に結ばれたい人と結ばれない。
そんな苦痛を、あたかも僕が体験したことのように映し出される。
最後に書かれた似顔絵が、僕の頭から永遠に離れない。
みんながこっちを見ている。
ずっと、僕を見つめている。
気味が悪い。
カナメさんは、あの後どうなったのだろうか。
まだ、サクラさんに見つめられたままなのだろうか。
そんなシリアスな回想と共に、変なものも流れてきた。
『あぁ、きっと運命の人ってこういう人を言うのだろう』
『この人が、きっと僕にとって運命の人だったんだって』
『僕、その、さ。考えたんだ。でもやっぱり運命って変わらないんだなって』
「よっ、運命マスター?」
「うがあぁぁぁぁあ!」
頭が破壊されるようだった。
いや、むしろ破壊してくれ。
僕はこれまで知らないうちに何人もの人と関係を持ってきたのだ。
リノはとりあえずいい。同級生だし、運命感じちゃうのも仕方ない。
おい駄菓子屋。駄菓子屋閉店したのって僕が関係持ったから、それで消えていって閉店したのかよ。
御年72だぞ。その人に向かって運命の人なんてよく言えたな。
カナメさんだって演技じゃなきゃ、こんな歳の差言えてなかったじゃないか。
ふぅ……落ち着いてきた。
「それにしても、ホントよくここまで関係持てたよねぇ。あ、近所の悪ガキ、アイツもミナトと結ばれて消えたんだ。男なのに、よく行くねぇ」
キャッキャとハルは僕の黒歴史を覗き見して楽しんでやがる。
「この、浮気者」
……少しゾクッとした。
「……聞こえなかったから、もう一度いい?」
「……なにその間は。間違いなく聞こえてたでしょ」
さて、とハルはポンと手をたたく。
決意を固めたように。
「それじゃ、私らもイチャイチャしますか」
「なんだよ、唐突に」
んー、と軽く伸びをした。
あくまでも軽い気持ちで進めたい、との意思表示にも見えた。
「いやさ?私ってこの島で唯一の記憶持ちだし、消えるに消えれなかったわけよ」
だからさー、と前置きしながらフラフラと歩いている。
落ち着きのない、きっと緊張を表に出さないよう必死なのだろう。
「だからさ、試してみたくなったんだよね。その、さ」
椅子にダラーっともたれかかりながら軽く言う。
「運命の人チャレンジ?」
とても重たい内容を。
「いやいやいやいや、待て待て、え、もし運命の人に選ばれなかったら、僕は一人になっちゃうだろ?」
「何言ってんのさ」
シロちゃんがいるじゃないのさ。
その言葉は暗に、私は選ばれないと自覚しての言葉に思えた。
「ちょっ、待て待て、早い!早いって!ムードはどうしたムードは!」
言うが早いか、するが早いか、唇を尖らせてこちらに向かってくる。
僕は必死にその唇を避け続ける。
「止まりなさい!私のキスが!当たらない!」
「止まるのは!そっちだー!」
約5分の格闘の末、ようやく収まった。
お互い息も絶え絶えだ。
「なんでそんなに、急ぐんだよ」
様子が少しおかしいくらいに、ハルは僕とのキスを急いでいた。
何か事情があるなら聞いておきたい。
「……から」
「ん?なんて?」
ハルにしては珍しく、ボソボソと喋った。
「ミナトに!私が照れてるとこ!見られたくなかったから!」
「……えっとぉ……」
「あぁ、もぅ……」
お互い、顔が熱くなるのを感じる。
ハルってこんな可愛かったっけ。
「こうなるから、嫌だったのよ……」
いじけたように、そっぽを向いてしまう。
「……ハル」
「……何よ」
僕は喉の奥で絡まった、その言葉を吐き出した。
「キスしよっか」
「……うん」
向かい合う。
いざすると決めても、緊張するものだ。
「ねぇ、ミナト」
僕が決めあぐねていると、声をかけてきた。
「もし、さ。私が運命の人ってやつだったら、ちゃんと、ずっと一緒にいなさいよね」
「もし運命の人じゃなくても、ずっと一緒にいる。約束するよ。これは忘れない」
「……ばーか」
最後まで残っていた、ハルがいない中でやっていけるかという不安は、完全に僕の中から消え去った。
唇と唇が軽く触れる。
何度も経験してきたのだろうけど、僕の心臓は毎回はち切れるほどの大きな音を鳴らしている。
「……そっか」
諦めたように、ハルは呟いた。
ハルの体が徐々に透けていくのがわかる。
「ハル!……ハル!」
「もぅ、なに……泣いてるのよぉ……」
ハルも大粒の涙が頬を伝う。
ぐしぐしっといつものように顔を拭うと、僕の方を指差した。
「約束!忘れるんじゃないわよ!」
「あぁ」
「あと、ちゃんと暖かくして寝るのよ!」
「あぁ」
「あと、出かけるときはハンカチを」
「オカンかよ……」
最後まで、結局この調子だった。
「なんで、来ちゃったのかなぁ……」
いつか僕に対して叫んだ言葉をぼそっと呟いた。
ハルが完全に消えてしまった。
何度も経験した苦しみ。
みんなに運命の人と言ってきた。
でも、なぜだか、今は特に。
胸が痛むんだ。
僕はゆっくりと立ち上がる。
そう、あと一人、運命の人に出会えず、寂しく待ってる人がいる。
僕が、迎えに行くんだ。