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10.逃げられるはずがないじゃないか

「さて、それじゃ、宣言通り背負ってもらおうかな」

「物理的に重いものだったら限界はあるぞ」

「さぁ?どうでしょう」


ケラケラと楽しげに笑っている。

あの後、シロさんと別れ、家へと戻ってきた。

背負うって結局何を背負わされるのだろう。

ハルを背負うくらいだったら造作もないことではあるが。


「ん?ハル、また出かけるのか?」


ハルが扉に手をかける。

こちらに振り向き、さも当然とでも言いたげに。


「当たり前じゃん。こーいうのはムードとかそういうのが大事なの」




「もう今となっては懐かしいなぁ。この道も」


灯台へと続く道。

いったい何度この道を通ってきたのだろうか。


「ミナトは覚えてないかもだけど、ミナトってば、嫌がる私を引きずりながら灯台へと向かったんだよ」

「ちょ!なんだそれ!マジで!?マジならホントごめん!」


ケラケラと、仕返ししてやったと言いたげに笑う。

歩くペースが少し遅くなった、そんな気がした。

一歩一歩、星空の下を踏みしめるように。


灯台へと着いた。


「ここ、実は私の秘密基地なんだよね。誰も来ないはずなのに、なーんか、誰かさんはいつも訪ねてくるんだよなぁ」


いつも、とはいえ、まだ1回しか来てなくないか。

昔もそんな高頻度でここへ来てたのか。


こっちだよ、と灯台の奥へ進む。

もう使われていないであろう、ボロボロの船着き場とは反対の森の中へと入っていく。


「どこへ行くんだ?こんな森の中」

「いやー、絶対に見つからないであろう場所。結局キミには見つけられちゃったけどね」


慣れた歩調でズイズイと進んでいく。

ポツリ……

雨が一滴、僕の頬を掠めた。


「ハル、雨が……」

「あぁ、大丈夫。もう見えてきたからさ」


洋館が、そこにはあった。

とても、なぜか絶対に、知らないはずなのに、知っている。

雨は次第に強くなっていた。


「いやー、ここも教えちゃった。このミナトには私の秘密基地、全部バレちゃったね」

「全部?てことは、灯台と洋館か。確かに一部キレイに保たれてるもんな」


どうりで、灯台の中がキレイだと思ったわけだ。


「いや、違うよ?秘密基地は全部で4つ」

「へ?」

「灯台でしょ?あとは洋館。それに神社も秘密基地にしてるんだ。もう一つはねぇ……」

「……おい、あと一つはどこだよ……」


ニヤリと笑う。


「キミの家だよ」


……ふぅむ。

普通こういうとき、僕の家を勝手に秘密基地にしないでくれってツッコむのが正解なのだろう。

でもなぁ。


「別に秘密にしなくても、いつでも来たらいいじゃないか」


ちょっと僕の顔が熱くなるのを感じる。

かくいうハルは


「ミナト、そんな歯の浮くようなセリフで女の子口説いてきたの……?」

「うっせ、口説いたのはお前が初めてだよ」

「それはどーだかね」


ハルは持ってきたコーヒーを置いてあったカップに注ぐ。

なんか僕の家とは違う、特別感がある雰囲気だ。


「だから言っただろ?ムードは大事って。……さて」


ズズッと一口、コーヒーを口に含む。


「アチッ」


これから核心に触れるんだろう?

なぜそんなすぐにこけるんだ。


「ミナトは覚えていないかもしれないが」


何事もなかったかのように、ハルは語り始めた。




小さな、小さな頃。

私が初めてミナトに出会った頃の話だ。

幼い頃から、島は私の庭だった。

いろんな場所を知っていた。

だから毎日いろんな場所を歩き回って、探検していたんだ。


ミナトもよく私に付いてきて、一緒に探検したよな。

でも、キミは3日ほどで帰ってしまった。

まぁ、この島じゃよくあることだ。

それは別に気にしていない。

でも、さよならを言わなかったことは、子供の頃の話とは言え、許しちゃいないよ。


ミナトがいなくなった次の日。

ミナトがいなくなったなんて知らない私は島中探し回った。

南端から北端、東端から西端、余す所なく。

探しているうちに暗くなって、雨も降ってきた。

私はミナトが寂しがるといけない、寒がってるかもしれないって、探索を続けるため一度この洋館に避難したんだ。


この洋館は外から見た景色は知っていたが、中には入ったことはなかった。

いやだって、不気味じゃないか。

絶対何か出るんだよ。

蜘蛛でも、ネズミでもない、何かがね。


私はそんなこと、途中から忘れて洋館の探索に夢中になった。

無造作に引き出しを開け、棚を物色し、そしてキレイな青色のガラス玉を見つけたんだ。

そしたら案の定、出たんだよ。

はっきりと、ガラス玉の中にそれはいたんだ。

そこに封じ込められていた、記憶が。





「で、これがその時のガラス玉だ」


小さな頃の行いとはいえ、身勝手な行いを悔いて僕は土下座していた。

ハルは張り付いた右手をベリベリと痛々しい音を立てながら開く。

中からはキレイな青色のガラス玉が出てきた。


「もし、それに触れたら最後、やっぱりやめたはなしだよ?逃げるなら今のうちだけど……どうする?」


どうする?と言われる前に、僕はそのガラス玉を手に取っていた。

ハルは苦笑していた。


一拍置いて、ドッと記憶が流れ込んでくる。

これは……もしかして、僕の記憶か?

それともう一つ。

この記憶は……誰のだ?

『……カナメ』。

そう呼ばれる、声がした。

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