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霧子再び

〈彷徨へば霞の向かう霧が立つ 涙次〉



【ⅰ】


 と、こゝ迄讀み進めてきて、一つの問題點に、讀者諸兄姉は突き当たらないであらうか? それは、カンテラと悦美のカップルの事である。

 悦美は生身の人間である。従つて年々齡を取る。アンドロイドであるカンテラには、加齡と云ふ生理的現象が起き得ぬ。將來、數十年後、悦美はお婆さんとなり、カンテラは靑年の儘。それで二人の交際は、成り立つのだらうか...



【ⅱ】

 安保さんから「カンテラ一燈齋事務所」に電話があつた。「急ぎの會議が入つてしまつてね。惡いがそちら迄出向けない」と云ふ。

「カンさん、あんたから依頼の件、こゝで答へるが、宜しいか」「結構です」

「例の加齡の件についてだが、こゝ數年のあんたの冩眞を大焼きにして、一年每に比較してみた。だうやらあんたには、年齡と云ふものが芽生えたやうだ。確かに老化は進んでいる。ゆつくりとだがね。私は魔術の事はよく知らないが、例の鞍田と云ふあんたの造り主の魔法は、次第に解けていつてゐるやうだ」

「専門外の事までやつて頂いて、恐縮です」「なに、あんたの躰については、私が責任を持つよ」

 カンテラは安保さんの「こゝ數年」と云ふ言葉を聞いて、安保さんともさう云ふ年月を共にしてゐるんだなあ、と感慨のやうなものを抱いた。



【ⅲ】


 霧子來訪。差し出した名刺には「間司霧子(まつかさ・きりこ)探偵事務所・所長」とある。

 カ「間司、とは?」霧「私の旧姓ですわ。新城とは結局離婚しました。それでかう云ふ稼業を始めた譯です」

 カ「用件は何でせう」霧「いや、いゝ事を聞いた、と思ひまして」カ「?」霧「加齡の話ですよ。悦美さんだけでなく、自分もお婆ちやんになつて迄、カンテラ様を追つかけるのは、ご免ですから」

(盗聴か)カンテラと安保さん以外には知らぬ事を、彼女は知つてゐる。探偵ごつこの手慰みだな。さう思つたカンテラではあるが、電話に盗聴器が仕掛けられてゐるのか、テオに命じて検査させた。


 テオはリヴィングの電話から外した、盗聴器を持つて、「やられてますね。いつ仕掛けたのだらう?」と明らかにむくれ顔。



【ⅳ】


 仲本「日本警察が盗聴器を使つたのは、連合赤軍のメンバーを検挙する、あの一件だけ。FBIぢやあるまいに、今更(ケータイ王國である)日本で、警察による盗聴などあり得ない。それに、刑事罰に値ひする盗聴なんか、わたしは知らん。大體、探偵事務所がやつてゐる事の全ては民事扱ひで、警察の口出しする範疇には、ない」

 かう「丸投げ」狀態では、流石のじろさんもたゞ辟易とするだけで、それ以上は深入りしなかつた。



【ⅴ】


「かう云ふおイタは、已めて貰ひたい」-霧子を呼び出して、カンテラは不興さをぶちまけた。「あんた、俺の刀の錆になりたいのか?」霧子「あら怖い。ぢや、電話で大事な要件を話すのは、お已めになつたら。ほゝゝ」霧子はどこ吹く風と涼しげな顔をしてゐる。


 カンテラの事務所では、カンテラが依頼者の話を訊く、「相談室」以外に、特に結界を張つてはゐなかつた。結界- それは、カンテラの外殻から、古くなつて取り外したビスなどを四方に巡らせ、張るのである。結界の外にあるトラブルについては、だうにもカンテラには責任の取りやうがないのであつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈夢埋む春の風花ちらと吹き 涙次〉



【ⅵ】


 霧子は續けた。「ところで、盗聴器、政府與党の大立者のところにも仕掛けまして。所属政党の依頼があつて」カ「?」霧「そこで【魔】に身を捧げたその大立者の陰謀を摑んだのです」カ「陰謀とは?」霧「ルシフェルと云ふ【魔】に、その議員は、かう申してゐたのです」


「東京に直下型の大地震を起こして下されば、混乱に乘じ、必ずやこの(わたくし)めがクーデタ政権を樹立致します。後は、ルシフェル様の思ふ通りに...」

 丁度電話が、魔界との通信口になつてゐたらしい。

「さあカンテラ様、この件、幾らでお買ひ上げ下さる?」

(こ、この女、俺をゆするとは...)カンテラ暫し絶句した。



【ⅶ】


 その情報(タレコミ)には百萬圓の値が付いた。「じろさん、ご足勞だが、與党の連中と掛け合つて下さい」「ラジャー」

 與党の連中はたゞその大立者に刃向かふ勇氣など持つてをらず、唯々諾々とカンテラ一味に後始末を頼むばかりだつた。



【ⅷ】


 與党の出したカネは一千萬圓。これも國民の血税である。カンテラは、この國の未來について、暗澹たる思ひを抱かざるを得なかつた。


 さて、仕事(ヤマ)。並みゐる書生たちは、皆【魔】の者らと見ていゝ。じろさんの「古式拳法」が冴える。(くだん)の議員の屋敷内に入り込んだカンテラ、

「貴様、國賊めが」「うわ、カ、カンテラ」「しええええええいつ!!」



【ⅷ】


「で、ルシフェルは、だうするんです?」とテオ。「ルシフェルが本氣で立ち上がつたら、今の俺たちには到底太刀打ち出來るものではないよ」どことなくさばさばした顔で、カンテラは云つた。


 霧子- 侮れぬな。カンテラには寧ろその事の方が氣がゝりだつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂



〈靜寂をカネで賣り買ひ今日我ら明日の我らとだう違ふかだ 平手みき〉



 お仕舞ひ。

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