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第1話 部活を新設しよう!

 音楽を聽くのが好きだった。

 流行りの曲から世界のクラシックまで。

 一日中パソコンの画面に耽っていることもあった。

 引っ込み思案でもあった僕は、逃げるよう音楽に縋っていた。

 そのくせ学校では普通ぶって。

 ひたすらに陽キャ紛いの事をして。

 本当の自分は心の内に閉じ込めたまま、誰にも打ち明けたりしなかった僕は、偽りの陽キャ精神と、そこから生まれる孤独を感じながらただPCを眺めて、音楽を聴いているだけのつまらない人間だった。

 中学入学直後、そんな僕、天ヶ瀬玲桜の前に電光を走らせたのは、親友であり幼馴染の狭霧椿のこんな言葉だった。


『音楽の部活を新設しよう!』


 最初は言っている意味がわからなかった。

 吹奏楽部があるじゃないか。

 そっちに行けよ。最初はそう思った。

 それに僕らは中学校の新入生。馬鹿なのか?

 しかし、そんな事を考えているのを見透かしたように彼は言った。


『既存の曲の演奏なんかに留まらない、俺達だけの音楽を創り出すんだ!』


 自分たちで、この世にないオリジナルの音楽を作り出そうということらしい。

 椿ももう中学生だ。イキりたくなる年頃なのは分かる。

 どうせ口だけだろうと思っていた僕は「おう、そうかそうか」としか返さなかった。

 次の日、彼はまた、僕の考えを見透かしたように言ってきた。


「玲桜、俺の言ったことが冗談かアニメの主人公の真似事かなんかだと思ったろ。」


 椿とは昔から仲がいいのだが、この様に勘が鋭い…というか、僕の心を読めるかのように。


「お前の考えてることは何となく分かんだよ、玲桜」

「勘の良いガキは嫌いだよ」


 昔から椿は、事あるごとには突っ込んで、その度決まって砕け散る。

 そして「次があるさ!」なんて言って、また砕け散る。

 僕も悪循環じゃないことは分かってる。

 がしかし、こう、いつもいつも巻き込まないで欲しい。


「いつもそんな事言って、成功した例はあるのか?」

「無いっ!」

「分かってるなら良し」


 親の目を掻い潜って電車で遠出したものの、偽情報に騙されていただけだったり、おばけが出来てきそうな不気味なトンネルに行ったものの、椿自身が怖がって何もせずに帰ったりもした。

 これだけには収まらず、他にも沢山のこと付き合わされた。

 僕はなるべく関わりたくないので適当にやり過ごそうとしたのだが、椿がこれ以上無いくらいのキラッキラの目で見つめてくる。


「ズバリ、作曲部!みんなで、まだこの世に存在しない、真新しい音楽を創り出すんだ!『作る』じゃない!『創造』の『創る』だ!そして世界中に発信する!俺らで世界中に希望を届けるんだよ!」


 世界征服を目前にした大魔王か、と思うまでに雄弁に語る椿の顔は希望に満ちていた。

 しかし!この椿の顔は、先を見通さずに一時的な感情から作られたもの。

 その証拠がコチラ。


「んで、部員はどこにいるんだ?部員が居ないとどうにもなんないだろ?」

「…………」

「作曲するったって楽器はどうすんだ?吹部の楽器借りるとか言うなよ?」

「…………」

「仮に吹部の楽器を借りられたとして、椿、それ使えるのか?鍵盤ハーモニカとタンバリンくらいしか使えないだろ。あとカスタネット。」

「…………」

「きゅーいーでぃー。」


 というわけで、この話は終わりっ!


 end.


「って、終わらせてたまるか!」


 僕がせっかく降ろした幕をこじ開けやがった。


「学校から支給されたタブレットがあるだろ?あれでやるんだよ!それなら楽器が弾けなくてもなんとかなるじゃないか!」

「あぁ、なるほど」


 うちの学校は全校生徒にタブレット型PCが支給されている。

 時代だな。これが令和の力。

 椿曰く、そのタブレットならなんとかなる、らしい。


「俺もちゃんと、先を見通す力を持ったのだ!」

「嘘つけ、今思いついただろ」

「バレたか」


 僕の心は正確に汲み取ってくるのに、こういう時はとことん馬鹿だ。


「そもそも、なんで入学早々ド派手にやり散らかそうとしてんだ?」


 中学校入学早々、部活を新設って。

 そんな新入生ごときにできるんだろうか。

 しかも椿は「世界中に発信する」と言った。

 これは動画配信サイトで、その『創った』音楽を投稿するということ。

 教育委員会が許してくれる訳がない。

「気ぃ狂っちょんですか?」なんて言われてもおかしくない。

 でも、彼もそこまで馬鹿じゃない。

 今までの経験から、僕らが今から創ろうとしている未来が無謀なことだということは分かってるはず。

 もしや彼の頭の中にはとてつもなく莫大な計画が……!

 僕は椿の言葉を待ち固唾を飲む。


「うーん、何となく!こういうのは勢いだよ、勢い!今はそんな事考えなくたってい良いんだよ!」


 訂正しよう。

 彼はそれほど馬鹿だった。

 それでも椿の目には、希望の灯火が再び灯っている。

 気付けば僕は、散々酷い目に遭わされた椿の言っている無謀そのものにワクワクしていた。

 この気持ちは何なのだろう。そんな事は分からなくっていい。


「はぁ、まぁ良いや。今回は付き合ってやろう。それなりの覚悟はあるんだろうな?」


 そんな事、分からなくたってなんとかなる。

 今は、椿のそんな言葉を信じてみることにする。

 たとえどんな未来が僕らを苛もうとも。


「もちろんさ!期待しときなって!」


 ――――だって、この不安とワクワクこそが青春なのだから!


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