ソーシャルディスタンス
今日は月曜! 月曜真っ黒シリーズです!!
オレの高校時代は感染予防の“ソーシャルディスタンス”が盛んに叫ばれていて、入学式からオンラインだった。
1年の時は大半がオンライン授業で……体育祭や文化祭はおろか、2年時の修学旅行も中止となった。
今、勤めている会社の“爺様”達が口端に上らせる『失われた10年』ならぬ『失われた3年』がオレの高校生活と言ってもいい位だ。
もとより“陰キャ”だったオレにとって、それが良かったのか悪かったのか……
自分のクラスは“クラスライン”で顔写真が開示されたが、他のクラスや学年はその範囲では無く、卒業までマスクの下の素顔を知らないままだった人は結構居た。
こんな状況だから、クラスの「ヒューマンリレーションズ」は主にネット環境で構築された。
ネット環境であろうとも、いやそれ故かもだが……しっかりと“スクールカースト”は構築されて、三軍男子”のオレはクラスの中で最も唾棄すべき存在だったのだろう。
しかしオレにとってそんなのは別にどうと言う事では無かった。
だって、オレの家には同い年の女の子が居たから……
高校受験直前の1月にオヤジと志乃さんが結婚して、その連れ子として一緒に住む事になったのが彼女だった。
初めて会った時にサラサラのボブがキラキラと輝いていて……
「ああ……綺麗な子だなあ」なんて意識してしまったから真面に目も合わせられなかったけど、日々生活していく中で段々と緊張が解けて……時折見せてくれた笑顔は本当にキラキラしていた。
だからオレの高校時代は決して暗い物では無かったんだ!
そして忘れられない思い出が一つある。
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数日前から様子がおかしかった彼女が学校から戻って来るなり、制服のままリビングに入って来た。
そして、ソファーの上でギターの練習に没頭していたオレの前に彼女は仁王立ちになって、宣った。
「独りでエレキギターなんか弾いてて意味無くない? 洋輔君って軽音部とかバンド組んでるとかじゃないよね」
「まあ……そうだけど……」
「じゃあ何でそんなに頑張るの? SNSで配信でもやってるの? あ、私、別に見に行かないから、アンタに投げ銭する気ないし」
こんな事を言われてオレは自分の片想いの胸を思いっ切りヤスリで擦られた様な気がして、つい声が荒くなった。
「してねえし!」
「そんなのつまんなくない?」って返す彼女の唇が僅かに開いていて……潤んだ瞳にドキリ!とする。
まさかだけど……オレの声で傷付いた??
「ゴメン!外から帰って来たままでうがいもマスクもしなかった」
そう言って彼女は学シャツのポケットからマスクを取り出して耳紐に指を引っ掛けた。
「洋輔君もマスクしなよ」
「えっ?!」
「早く!」
オレは咄嗟にマスクの有りかを探したら彼女は向うのテーブルを指差した。
「あれじゃない? テーブルの上に置くなんて不衛生だなあ~!あとでアルコールで拭いておいてよ!」
慌てて取りに行って振り返るとマスクをした彼女の目が笑っている。
「こっち来て!」
彼女が絨毯の上にペタン座りしているのでオレも絨毯に正座すると、彼女がいきなり目を瞬かせた。
「目にゴミ入った! 見て!!」
「えっ?!」と覗き込むと彼女は辛そうに「もっと近く!」と言う。
戸惑いながら更に顔を近付けると、彼女の両手がいつの間にか後ろに回っていて、いきなり後頭部をグイッ!と押された。
マスクとマスクがぶつかり合い胸と胸がくっ付く。
最初に蠢いたのは彼女のマスクの方だったけど……二人の唇は2枚のマスクを挟んでお互いの吐息を貪り合い、胸の熱さと早鐘の鼓動を分け合った。
永遠の一瞬なのか一瞬の永遠なのか、それとももっと長い時間だったのかは分からない。
彼女が両手を緩めてなだらかにオレから離れる時、マスクを通して彼女のうなじのコロンが香った。
「お風呂先にいい?」
「うん! どうぞ!」
彼女を先に行かせたのはオレの“事情”
でも、ようやく“正常”になってギターを片付けて自室へ帰る時も彼女が部屋から出て来る気配は無かった。
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オヤジと志乃さんは三年持たなかった。
今までのオヤジの傾向からすれば、良く持った方なのかもしれない。
オレと彼女も赤の他人に戻ったけれど……オレの片想いの火はなかなか消えなかった。
やっと踏ん切りが付いたのは、彼女が行きずりの男とのベッドの上から寄越したメールから。
それ以後、人づてに彼女が合コンの度に“お持ち帰りされる”サセ子と化していると聞いた。
一方、オレは……フーゾクのお姉さんと交わした初めてのナマキスの甘い味と香りが忘れられず……相変らず素人童貞を続けている。
おしまい
今日は“青春ほろ苦”系でしょうか……(^^;)
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