道中
さて、そんなわけで俺は家族と近隣の家の方々、それと物知りの爺さんに挨拶を済ませた。
その時、近隣の方々は俺に今までのお礼として一握りの銅貨をくれたし、物知りの爺さんは卒業の証として綺麗なネックレスを俺にくれた。
銀色の鎖と何かの紋様の入った青い宝石が、非常にいい味を出している。
売れば金にはなりそうだが、絶対にそんなことはしない。
これは、俺が死ぬまで肌身離さず持っておくとしよう。宝物だ。
それに対して、ウチの家族共はさっさと出ていけムーブを俺にかましてきた。
家へ入った瞬間に腐った果実を投げつけられた時は、本当にぶっ殺してやろうかと思ってしまったが、まぁ、下の三人くらいは別れを惜しんでくれたし、どうせもう会うことも無いというわけで許してやった。
そして俺はそのまま家を飛び出して、今現在町までの道中を辿っているわけだ。
何と言うか、非常に清々しい気分である。これが自由というものだろうか。
しかし、この先の事を考えてしまうと憂鬱でもある。
冒険者稼業というものは、散々言っているがやはりクソすぎるのだ。
冒険者というのはつまり、冒険者ギルドという国営の組織に加入する者達の総称であり、主な仕事は各地から寄せられ、ギルドによって斡旋される依頼をこなすこと。
雑用からモンスター退治まで幅広い業務を行う、正に国の便利屋。
また、有事の際には騎士団の下部組織として行動もする、言わば第二の騎士でもある。
……とまぁ、こんな感じで表面だけの説明をすれば、まだ良い職に見える。
むしろ、誇り高い職業なのではないかと勘違いする者もいるだろう。
しかし、その実情を知れば、それがどれだけ愚かしい勘違いであったかわかるはずだ。
まず第一として、人間性がどいつもこいつも最悪。
冒険者というのは基本的に、まともな職に就けなかった社会不適合者共の集合なのだ。
いや、ちゃんとした現実的な目的があり努力できる者や、普通の良い人、しっかりと現実を理解できている人。
それと、神官職にも就けるような人格者も一応居たりはするのだが、それを差し引いても余りあるそれ以外の圧倒的クズ度。
世界は自分を中心にして回っている。自分が主人公。
自分以外は全員囮。自分を生かして帰すためだけの人柱。
自分は他人に何でもして良い。その逆は有り得ない。
そんな事を本気で思っているような農民上がりが何人いる事か。
もう現実を見ろとしか言えん。
そして、第二の問題点として、その仕事の過酷さが挙げられる。
ここで一つ、六つほどに区分される、冒険者の主な依頼の内容を確認してみよう。
圧倒的な仕事量、割の合わない報酬、失敗すれば多額の請求。当然だろう、お前はウチの家政婦でも何でもないんだぞ。
正に受け損、『雑用業務』
屋根の上から下水の中まで。屋根から落ちての転落死も、伝染病に罹って、隔離された上で殺されるのも日常茶飯事。理不尽?ちゃんとやらなかったお前が悪い。
文字通りの汚れ仕事、『清掃業務』
その辺に生えている薬草、獣の毛皮、高価な鉱石、珍しいモンスターの素材等々……欲しくなったので持ってこい。勿論、一定期間内にな?
史上最悪のタイムアタック、『採集任務』
ちょっとこの辺よく分かんないので、調査お願いして良いっすか?……え?安全の保証?それが無いんだから貴方に頼んでるんでしょうが。
別に死んでも良い実験動物扱い、『調査任務』
常に命の危険と隣り合わせ。完全自己責任。殺されたとしてもギルドは一切の責任を負いません。理解したならいざ出発。
正直これが一番まとも、『討伐任務』
理不尽で殺意と悪意に満ちたダンジョン。さあ行け、歴戦の猛者たちよ。金銀財宝は目の前だ。一攫千金を夢みるならば、この機を逃して何とするか。(持ち帰った金品の8割はギルドの取り分になります)
最大の敵はギルドでした、『迷宮攻略』
と、このように、どれもこれもクソなのである。
まぁ、慣れれば討伐任務あたりはどうにでもなりそうだが、それ以外があまりにもクソ。
本当に命がいくらあっても足りない。
そうなると、俺は討伐任務を受けるべきなんだろうが、いくらまともな仕事が討伐依頼だけと言えど、初っ端それは自殺行為だ。まだこの棒の扱いすらよく分かっていないのだぞ。
なので俺はまず、清掃業務と採集任務を受けつつこの棒の扱いに慣れて行き、来週程度には討伐任務を受ける、という感じで行こうと思っている。
っと、そろそろ町が見えてきたな。
あー……不安だが、やるしか無い。最悪死ななければそれでいいのだ。
…………よし、覚悟も決まった。行くぞ。
主人公
遂に念願の家出。
物知りの爺さんからネックレスを貰った。
もう少しで町。
鉄の棒
ご主人様が新しい女を連れて来たが、鎧でも武器でも無いのでセーフとする。
物知りの爺さん
結構凄めの魔術士。
主人公の魔術の素質を見抜き、主人公に魔術を含めて色々教えてた。
ただ爺さんの魔術が凄すぎて、主人公本人は自分に魔術の才能があるとか一切思ってない。
弟子の門出にちょっと泣きそう。
評価くれ。くれくれ。