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呪われた鉄の棒

 今日、俺は14の誕生日を迎えた。成人だ。家族も喜んでいる。

 しかし、俺はそれをめでたいことだとは一切感じない。

 そこら辺の農家の三男以下は、よっぽどの事態でも無い限り成人したと同時に家から追い出される。

 貧乏農家の四男で、長男も既に結婚して子供も出来ているとなれば、家に残るだなんてことは万が一だって有り得ない。


 つまるところそれに該当する俺は、今日をもってこの家を去らなければいけないというわけだ。

 家族が喜んでいるのも、俺とかいう家計の負担が家から消えるからに他ならない。

 まぁ俺としても毎晩のように響いてくる、両親&兄夫婦の情事による騒音から解放されるという点においては救われたとも言えるが、それを差し引いたとしても酷い話である。

 今まで俺がどれだけの畑を耕してきたか、連中はしっかりと理解しているのだろうか。


 …………まぁ、多分理解してはいるのだろうな。

 しかし、それでも俺という存在はこの家に不要なのだろう。

 まだ10歳の五男はしっかりとした俺以上の働き者だし、俺の仕事だった牛の世話も既に次女が完全に覚えた。

 それに、そろそろあの八男だって鍬を持てる頃合いだ。

 俺の働き分など、もはや軽く補える。

 そうなってしまえば、俺みたいな育ち盛りの大飯食らいはとっとと追い払うに限るわけだ。

 俺が親の立場でも、きっとそうするだろう。むしろそうしなければ一家全員飢えて死ぬ。


 しかし、俺が親だったとしたら、絶対にしっかりとした餞別を旅立つ子供に送ってやる。

 というか、普通の家ならばそうする。先月旅立った隣の家のアイツも、先々月旅立った向かいのアイツも、それぞれ立派な靴と、革手袋を両親から貰っていた。

 実に羨ましい。ウチとは大違いだ。


 いや、聞いてほしい。あのクソ親父、襟巻き一つ用意しようとせず、こともあろうに『納屋の中から適当なモン一個持って行って良いぞ』とか抜かしやがったのだ。

 可笑しいだろうが。これから巣立ってゆく可愛い子供だぞ。

 俺だったならばどこをどう間違えたとしても、絶対にそんな台詞を愛情込めて育ててきた子供には言わん。


 ……ああいや、愛情なんて特に貰った記憶無いな、うん。なんなら「なんで生まれてきたんだオメー」みたいなことすら容赦の無い拳と共に言われた。

 つまり、俺はあの両親どもにとっては、愛情込めて育ててきた子供どころか、望んだ子ですらないわけだ。

 そう考えると、何かを貰えるという一点だけでも有り難いと思えてしまう。

 ゴミクズ共め、とっとと病気でも拗らせて死ねばいいのに。


「はぁ……こんなところに、碌なモンがあるわきゃねぇだろうが」


 ぶつくさと文句を言いながら、立て付けの悪い納屋の扉をガコガコと開ける。

 すると中から生暖かい空気が不快な臭いと共に噴き出し、むわりと俺の体を包んだ。

 思わず顔が強張る。どれだけ掃除していなかったんだこの納屋は。


 確か一応、あのゴミ共(両親)がよく使って……ん?まさか、そういうことか?

 ってことはつまり、連中はまさか子供達にだけ働かせて、この納屋でしっぽりと……?

 クソ、有り得ないと言い切れないのが嫌だ。

 ってなると、この納屋には連中の痕跡が染み付いて…………うわぁ、マジであった。

 うぅん…………気持ち悪ッ。


 はぁ……まぁいい。どうせもう二度とこんなところに来ることは無いのだ。

 さっさとこの中で一番有用そうな物を探さなくては。


 俺は野垂れ死ぬつもりなど毛頭無い。

 兄妹達の中では一二を争う程に器用で、あの物知りの爺さんの弟子である俺だ。町に出ればある程度の職は見つけられるはず。

 それに、まぁ、職が見つからなかったとしても、最終手段として冒険者になるという手もある。

 しかし、それは本当に最後の最後。完全に詰んだ時に使う切り札だ。

 冒険者なんて命の幾つあっても足りないようなゴミ職業など、そもそも就かないことが一番に決まっている。


 さて、そうなれば、どのような物を持っていくべきだろうか。

 考えられる選択肢は幾つかある。しかし、こんなクソみたいな場所に碌な物が置いてある訳が無い。

 実際、中身はほとんど何も入っていないスカスカだ。

 

 しかし、何も入っていないと言うわけでも無い。

 例えば、この棒。一見ただの長い棒に見えるこれだが、この表面に浮かぶ特徴的な赤い錆を見れば、その材質は一目瞭然。

 この世で最も使われている金属こと、鉄だ。

 鉄は良い。とても良い。鍛冶屋あたりに持って行けば割と高く売れる。

 しかもこの程度の長さであれば、金貨一枚……いや、町で売るのなら三枚は堅いだろう。


 ってか、あー……そうだな。この手で行くか。

 高く売れそうな物を持って行って、それで職を見つけるまでの足しにするとしよう。

 では、他にも何かしら高く売れそうな……


「…………ん?」


 …………棒が手から離れない?

 馬鹿な。そんなことがあるはずがない。超高熱に熱されていたというわけでも、凍結していたというわけでもないんだぞ。

 パッと手を開いてみる。離れない。

 外に出て、思いっきり腕を振り回してみる。離れない。

 足で踏み付けて、手を剥がそうとする。離れない。


「じょっ、冗談じゃないぞ……」

 

 い、一体何だってこんな………………

 ……いや、これの正体を知ってはいる。それの特徴は物知りの爺さんから嫌と言うほど聞かされていた。

 しかし、そんな……そんなことが有り得るのか?ただ農家だぞ、ここは?

 だが、それ以外に説明のしようがないと言うのも事実。

 このような現象を起こす道具など、これ以外に存在しない。


「か……呪われし武具(カースド・ウエポン)…………」


 うーん、これは……詰んだか?

 主人公


 今作で一番酷い目に遭う人。

 そこらの農民とは比べ物にならないほど頭が良い。

 呪われた。


 鉄の棒


 今作で一番得をする人(?)

 呪いの武器。

 ご主人様を得られて大満足。



 評価くれ。くれくれ。

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