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社会で踊る

作者: 和歌山みかん

23時、俺は普段の仕事に加えて、少しの残業と上司からの少しの叱責を受けていつもより重い体を寝室に運ぶ。

俺はそのまま暗闇の中のベットに横たわった。

仰向けで手に持ったスマホを顔に近づけると、人工的な明かりに照らされる。

寝る直前にスマホの画面から発せられるブルーライトを浴びることは睡眠の質を低下させ、あまり体によくないらしい。

俺もそれは認識しているが、それでも見ないと眠れない。

画面に規則正しく並んだ小さい正方形の中から、目的のそれを指でタップする。

俺が開いたのは若者に人気のショート動画アプリ。

アプリが開く瞬間、寝る前だというのに体の奥の方から興奮がこみあげてくる。

画面の中で、若い女の子が曲のリズムに合わせて踊る。

数十秒後、画面を縦にスクロールすると別の若い女の子が踊り始める。

その後も、俺の指は止まることなく画面を撫で続ける。

俺は、このショート動画アプリで若い女の子ばかりを見ている。

しかし、決して若い女の子を見て得られる性的な興奮を求めているのではない。

むしろ俺は年上の女性の方が好きなくらいだ。

では、なぜ俺が自分の睡眠の質を犠牲にしてまで若い女の子を見ているのか。

それは、画面上の女の子の自分が世界に肯定的に受け止められるという確信をもった表情を見ると、俺の存在を認めない冷たい世界がどんな人でも受け入れてくれる優しい場所のように思えるからだ。

俺は彼女らが放つ肯定的な世界の輝きの中で、瞼を閉じる。


朝6時。

昇った太陽の光とともに自分の存在が否定される世界も動き出す。

体に少しのだるさを覚えつつも、朝食を食べ、身だしなみを整える。

俺はいつもと同じ時間に家を出て、俺を会社まで運ぶいつもと同じ電車に乗った。

電車の揺れとともに目の前にある窓に映る俺も左右に揺れている。

生きる輝きを放つことのない真顔の俺が社会で踊っている。



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