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精英大師よ、あなたは素晴らしかった

作者: 中山 泰蔵

入場券の抽選に漏れてしまったので怒りの投稿。


記憶と主観に基づいて執筆したため、細かいところは違うかもしれませんがご容赦を。

 この日、私は朝早くから中山競馬場にいました。なにしろ当時の私は競馬熱が最も高かった時期で、G1ともあれば開門ダッシュをかまして良い席を取るのが当たり前でした。それにこの年のスプリンターズステークスには香港の英雄と謳われた競走馬が出走するのですから、競馬ファンにとっては見逃せないレースだったのではないでしょうか。


 サイレントウィットネス。香港表記、精英大師。


 地元香港で十七連勝し、前年の香港スプリントでは日本馬を含む世界の強豪を一蹴したのですから、その強さは底が知れません。


 私がサイレントウィットネスを初めて見たのは、この年の安田記念でした。そのときの印象があまりにも鮮烈だったのです。


 ――本当にサラブレッドか? 新種の競走馬じゃないのか?


 なにしろ異質な馬体でした。筋骨隆々の雄大な馬体に圧倒されそうになった思い出があります。たしか安田記念のときの馬体重は五五〇キロぐらいだったと思います。それでも前走、香港のチャンピオンズマイルよりも馬体重を減らしての出走でした。素人ながらもこの馬の能力が抜けていると思ったものです。


 しかしよく考えてみると、これだけの筋肉を纏った競走馬なのだから生粋の短距離馬ではないかとも思いました。


 競馬のことをあまり知らない方には陸上競技に例えてみるとわかりやすいかもしれません。短距離走の選手は鍛え上げた体つきをしていますが、長距離走の選手だと極限まで体重を絞った細身の体をしています。サイレントウィットネスは明らかに前者の方で一六〇〇メートルだと長いのではないかと考えました。現に同じ距離のチャンピオンズマイルでは惜敗していました。不向きな距離な上に、海外遠征ともあれば厳しいだろうと、私は見立てました。


 しかしそんな不利な条件でもサイレントウィットネスはハイペースにもかかわらず先行し、勝馬アサクサデンエンとの着差なしで三着に入線しました。おそらくこの馬のポテンシャルのみで三着に持って来たのだろうと思います。


 そしてこの年のスプリンターズステークス、サイレントウィットネスは再来日を果たします。今回は得意の一二〇〇メートル戦ということもあってか、一番人気に推されました。

 やはりサイレントウィットネスは他とは一線を画した雰囲気があり、よほどのアクシデントがない限り負ける要素はないと感じました。


 ただ、他に食指の動く競走馬がいました。二番人気のデュランダルはあまり状態が良くないのではないかと言われていましたが、この馬の末脚は異次元の切れ味を発揮するので、ひょっとしたらサイレントウィットネスに一泡吹かせる場面もあるのではないかと思ったのです。


 どちらにせよ、荒れる要素の少ないレースになりそうだと踏んだ私は、サイレントウィットネスとデュランダルの馬連一点のみに千円を賭けました。

 馬単や三連単でどちらかを一着固定にする馬券を買う勇気はありませんでした。それなら馬連一点に大枚をはたくのも手ですが、さすがにその度胸はありません。どうも肝心な時に日和ってしまう悪癖が出てしまったようです。


 さて、レースの方はというと、サイレントウィットネスが先頭からやや離れて先行し、デュランダルは定位置の最後方に構え脚を溜めていました。ハイペースでレースが進み、最後の直線に入るとサイレントウィットネスが仕掛け、残り一〇〇メートル手前辺りで先頭に躍り出ます。さすがは最強のスプリンターだと思った瞬間、大外から一気にデュランダルが驚異的な末脚を繰り出し、サイレントウィットネスに迫ってきます。

 結果、サイレントウィットネスが粘り、先頭でゴールを駆け抜けました。鞍上のコーツィー騎手は左手を力強く振り、喜びを露わにしました。


 馬券を当たった人も外れた人も、最強の短距離馬に惜しみない拍手喝采を送ります。さすがサイレントウィットネス、と。


 追い込んできたデュランダルもさすがでしたが、相手が悪すぎました。ハイペースというお誂え向きの展開になったのにも関わらず、先行して押し切ったサイレントウィットネスを褒めるしかありません。


 しかし、二〇〇五年のスプリンターズステークスがサイレントウィットネスの最後の勝利となってしまいました。帰国後凱旋セレモニーを行ったのですが、これが原因で調子を崩し、連敗を重ねてしまいます。二〇〇六年に再びスプリンターズステークスに出走しましたが、去年感じた圧倒的な雰囲気がもはやなく、四着に敗れてしまいました。次走の香港スプリントを最後に現役生活に別れを告げました。


 私は単なる一ファンにすぎませんが、その素人にもわかるほど、雰囲気や佇まいで他の馬との違いを見せつけた競走馬はサイレントウィットネスだけだったように思います。


 十代のころから競馬を見続けている私ですが、サイレントウィットネスの印象は未だに脳裏に残っています。


 今度の日曜日はスプリンターズステークス、毎年この時期になると思い出す一頭です。




 お読みいただきありがとうございました。


 本文を書いたあと、東スポ競馬のサイトで二〇〇五年スプリンターズステークスの回顧録を読みました。

 それによると、サイレントウィットネスはレース前日に放馬、暴走したため出走取り消しも考えられたそうです。それであれだけのパフォーマンスを見せたのですから、やはり異次元のスプリンターだったのでしょう。


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