84 アウロニア入国の前夜に
R15になります。嫌な方お気を付けください。
アウロニア帝国迄の道のりはあと一週間程で到着ではあったが、ニキアスは、将軍職らしく昼は軍の先頭で指揮を執り、夜はマヤ王女を必ず自分のテントで休むよう申し付けた。
泥酔して副将軍としての責務を全うできなかったとして、ダナス副将軍の処罰を望む声も上がったが、ニキアスは将軍預かりの形をとり、その処分を保留にした。
そして『後に皇帝へ報告するかどうかを考える』と告げたのだ。
ユリウスは自分の父親の事ながら、冷静に言った。
「その方が、あの人は帰路の間、真面目に働くでしょう。父は陛下の叱責を何よりも恐れていますから、しっかり脅してやってください」
確かにダナス副将軍は、いつもより脱線無く真面目に軍隊を指揮しているよう見えた。
ニキアス将軍への風当りも弱められたどころか
「今回の遠征の偉勲が立てられたのは将軍のお陰だ――」
とダナス副将軍はまさに手の平を返したような態度をニキアスへ取ったのだ。
ゴマすりされているとあからさまに分かるのは愉快ではないが、ニキアスにとっては陥れようとされるよりはずっとマシであった。
******
「明日はいよいよ首都ウビン=ソリスに向けてアウロニア国の領土にはいる」
湯あみが終わって、洗った髪を後ろに束ねたニキウスが、ガウンのような羽織を羽織って長椅子に腰掛けた。
「そうですか…いよいよですね」
「…皇帝陛下が怖いか?」
「いいえ、あ…ええ…」
(…正直、良く分からないわ)
わたしは冷たい水の入ったカップをニキアスへと渡しながら言った。
側付きの奴隷の仕事でもあったが、わたしはそれをするのが嫌ではなかった。
マヤ王女が生きて首都ウビン=ソリスに入った事は無く、この先の展開はわたし自身にも分からない。
(ガウディ皇帝がわたしをどう扱うか予測がつかなくて不安だけど)
小説内での設定ではわたしはガウディ皇帝に直接は会っていないし、敵国の王女だからと言っていきなりの処刑は無いと思う。
次にわたしは香油の入った壺を手に取ってニキアスへ正直な自分の心境を言った。
「…そうですね。けれど…今色々考えても仕方がありませんわ」
「ふふ…その言葉、勇ましいな」
ニキアスは少し前かがみに上体を曲げて、ベンチに乗せた左足の膝に左肘をつきながら、壺から香油を出し手のひらで伸ばすわたしを面白そうに見つめている。
「レダ神の預言者のマヤ王女殿に香油を塗っていただくのは、大変光栄だ」
その言葉にわたしは思わず吹き出した。
「だって...ニキアス様が『塗って欲しい』と仰るから」
「昔の君なら、頼んでもやってくれなさそうだがな」
「…それは…そうかもしれませんね」
『そんなのは奴隷や売春婦のする事よ、絶対イヤですわ!』
誇り高い王女の彼女だったら、すぐさまそう言うのが目に浮かんできそうだ。
(まぁ彼女が言いそうな台詞も実際はその通りなのだが、それもわたしは気にしていなかった)
温めた香油はムスクのような良い香りがする。
ねっとりとしていて仄暗いテント内で金色に揺れていた。
わたしはそれを取って手の平で練って伸ばした。
ニキアスの頸から逞しい肩と胸部と腹筋の割れた腹部に薄く塗り、それから背中から回って腰まわりまで手のひらに乗せた香油をマッサージをする様に伸ばす。
ニキアスの前に戻って彼の前に軽く跪き、鍛えられた腓腹から太腿に向かって残りのオイルを丁寧に塗っていくと――。
ニキアスの低く掠れた声が聞こえた。
「マヤ…頼む…」
「…はい」
わたしは頷いてから香油の入った壺を床に置いた。
ニキアスのそこに何度か軽くキスを落とすと、根元から舌を這わせて口腔内に含んだ。
(ニキアス…色気が凄いわ…)
ニキアスの伏せた長い睫毛の落とす影に思わずわたしは見とれてしまった。
同時にニキアスの呼吸が少しずつ速くなり、筋肉の付いた長い頸から顎が少しずつ上がるのが見えた。
わたしの口腔内のニキアス自身は更に力強い存在感と圧迫感を増している。
「…ああ…マヤ…マヤっ…愛してる、愛してる…」
ニキアスはわたしの名前をずっと呼びながらも、片手はわたしの髪の毛を緩やかに撫でたり優しく手のひらで弄んでいる。
わたしはそれも心地好かった。
「マヤ…!―――――はぁ……」
一度だけわたしの頭を抑えるように少し力が入った瞬間、ニキアスの喉が露わになってから、そのまま大きく息を吐いた。
わたしの名前を呼んで、瞳を潤ませ薄っすらと微笑むニキアスは、彫刻のように完璧な美しさと壮絶な色気のフェロモンが漂う。
そんなニキアスを見上げていると、わたしの背中がざわっと震えていきなり欲情が芽生えるのが分かった。
(…ニキアスが欲しい。抱いて欲しい。彼のものにして欲しい…)
強烈に淫らな思いがわたしの中から驚く程湧いてきて、自分の身体がかあっと熱くなる。
「…マヤ、お前にもお返ししよう」
そう言って彼の足の間に膝まづくわたしをニキアスは丁寧に掬い上げると、お姫様抱っこしながら寝台の方に連れて行った。
わたしを寝台にそっと横たえてると、わたしと自分の手の指を絡めてうっとりする程甘く笑いかけた。
「もう分かっていると思うが、俺はお前に夢中だ」
「わたしも…」
わたしは手を伸ばしてニキアスの頬を撫でながら、明日の朝は自力で動けないだろうなと覚悟をした。
(ナラに迎えに来てもらわないと……)
「マヤ、好きだ。愛してる…」
彼の身体の重みと熱を感じながら、わたしは目を閉じた。
あとは彼の唇と心地好い手の感触に集中するだけだ。
彼の運んでくる快楽と熱に溺れれば良いだけなのだった。
お待たせしました。
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