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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
1.嘘つき預言者の目覚め
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74  神の庭 ①

小雨が少しずつ止んで太陽が昇ってくると、森の中の湿度も上がって少しムシムシし始めた。


何だか、日本の梅雨のような気候だった。


「何だか…蒸し暑いわ」


わたしは呟いたが、ニキアスは眉根を寄せて様子を伺っているようだった。


太陽の昇るこの時間になっているのにも関わらず、不思議な事に何故かまた靄がかかっていく。


「ニキアス様…」

異常事態に思わずわたしがニキアスを見上げると


「マヤ…俺から離れるなよ」

わたしの身体に回すニキアスの手の力が強くなる。


暫く馬を進めると、あっという間に真っ白い霧に巻かれてしまった。


しかしニキアスの馬はこの霧に動ずる事なく、滑るように進んでいく。


そして本当にふいに、と言った言葉がぴったりなのだが、いきなり視界が開けた。


そこにはただ――草原が広がっていた。


古代形式の小さな神殿が草原の中にぽつんと立っている。


そして何故か――先ほど迄の太陽の姿は無くて、藍色の空には小さな月が数個と無数の星が瞬いている。


虫の声も良く聞こえている。


けれどよく聞くと、その声の中にくすくす笑う声や

「マヤ…マヤ王女よ…」と呟く声が聞こえるのだった。


「…ど、どうしてこんな所に?…」


思わず疑問を口にしたわたしは、後ろのニキアスが異常なほど緊張しているのに気がついた。


「マヤ…俺のドゥーガ神の加護が全て無効になる。気を付けろ…ここは他の神の(領域)だ」

 

すると神殿の奥から白いボアレスに似た犬――よく見るとこちらの方が身体も大きく、顔つきも鋭い――がゆっくりと歩きながら現れた。


「――白狼だわ」

神の遣いと言われている動物だ。


頸から三日月の形をしたチェーンの首輪をぶら下げている。


ニキアスの声は珍しくかすれていた。

「…ここは――ヴェガ神の社だ」



その時だった。


「おやおや…珍しい。人間の客人が…迷いましたかの?」


小さいお爺さんが、粗末な木の杖をついて神殿の奥からちょこちょこと身体を揺らしながら歩いてやって来た。


マヤ王女より更に身長が低いお爺さんだ。


白狼は、お爺さんにまとわりつくように身体を擦りつけると、神殿の奥の方へゆっくりと歩いて行った。


「ほうほう…人間が迷い込んだのは、いったい何百年ぶりか…。」


お爺さんはうんうんと頷いたと思ったら、小首をかしげて


「…はて?儂が呼んで無いのにどうやって来られたのかな?」

としきりに不思議がっている。


小さなお爺さんの頭の真上はつるっとしていて、こめかみ辺りから長い白い髪が床まで伸びている。


おまけに眉毛と髭も白くふさふさで、ローブのような白い服と相まって、何だか絵本でみたサンタクロースや仙人の様な雰囲気を醸し出していた。


「まあまあ、ええです、ええです、細かい事は。えーと…マヤさんですかな?お茶でも出しますから、ほれ、中に入りなされ」

とまたちょこちょこと歩きながら、うっすらと浮かび上がる神殿の奥へ消えた。


わたしはニキアスと顔を見合わせた。

「…どうしよう、行ってみる?」


ニキアスは目に見えて気が進まなそうだった。


「何とも言えんな、あのハゲじ…いや、御老人に何の魂胆…いやお考えがあるのかさっぱり解らんしな」



*******************



――でもここに居ても事情は分からないし、元の森に帰れないのではと二人で話し合ってから、結局お爺さんが消えた神殿の奥へ行ってみようという話になった。


ニキアスと乗っていた馬から降りると、馬は心得た様で自分で下草の多く生えているところを見つけて食んでいる。


馬も落ち着いている様を確認してから、ニキアスと二人で並びゆっくりと神殿の奥へ歩を進めたのだった。


ニキアスに手を繋いで欲しいとわたしが言うと、照れながらしっかりと繋いでくれた。


神殿の奥へと続く通路は、あたたかな蝋燭の光がそこかしこに溢れていた。


遠くの方から

「――足元に気を付けなされよ」

とあのお爺さんの声が響いて聞こえる。


「あ、はい…」

とわたしは慌てて返事をした。


古い神殿なのか石畳もゴツゴツとして年季が入っていたが、不思議と懐かしい田舎のお爺ちゃんのお家に遊びにきたような感覚があった。


隣で筋肉を強ばらせ、息を詰めていたニキアスも、いつも訪れる神殿とつくりは何も変わらない――というのが分かったようで、警戒感は持ちながらも周りをみる心のゆとりが出て来たらしい。


「…わあっ…」


小さな――蛍のような光がゆっくりといくつも浮遊している。

不思議と(お化け的な)不気味な感じはしない。


暖色系だったり青白く光るそれは、神殿の中をただふわふわと漂っていた。


わたしが触ろうと、それに指先を伸ばそうとすると――また神殿の奥から声が聞こえてきた。


「光に触るのはあまりお勧めはしませんぞ、マヤさん。見たくない記憶が見えてしまう場合がありますからな」


それから、ふぉっふぉっふぉっと笑う声が聞こえたのだった。


お待たせしました。


読んでいただきありがとうございます。

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