72 正直な気持ち ①
短くてごめんなさい…。
『では…ここからはお1人でも大丈夫だと思う』
ボアレスは、ニキアスが来ているからここからひとりで帰るようにと、黒毛の馬を誘導してくれた。
「分かりました。…色々とありがとう」
とボアレスへお礼を言うと、子犬がわたしに向かってワンワンと吠えた。
『オリエンスがまたきっと逢えるといっている。彼がそう言うならそうなのだろう』
子犬はわたしの方を向いてしきりに吠えたと思うと、次第にキューンと鳴き声がボリュームダウンした。
『姫君と別れるのが寂しいらしいな』
ボアレスが笑うと子犬はまたワンと吠えた。
『…また逢える運命ならそうなるだろう』
ボアレスはオリエンスと呼ばれた子犬を慰める様に、その額の毛を舐めた。
「そうね…また会えるといいわね」
わたしが子犬へ笑いかけると、オリエンスはわたしと黒毛の馬の周りを走り回った。
『ではマヤ姫…ヴェガの糸の結びつきがあればまた出逢えるだろう』
わたしがその言葉に質問する間も無くその場を走り去って――二匹とも木々の間にその姿を消した。
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黒毛の馬は森の中を迷いなく進んでいく。
まるで誰かに呼ばれているかのようなスムーズな足の運びだった。
わたしが時々黒い馬の首筋を撫でてやりながら、木々の隙間を縫うように
馬は順調に歩き、2時間弱ほど経った頃だろうか、いきなり馬が止まった。
「あら?どうかした?」
馬の顔を覗き込もうとすると、いきなり馬が走り出した。
「きゃあ!…ちょ、ちょっと待って!」
驚いて落馬しそうになりながら、わたしは必死で手綱にしがみついた。
その時。
「マヤ!」
聞きなれたニキアスのわたしを呼ぶ声が聞こえたのだった。
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「マヤ!」
ニキアスの声だった。
「ニキアス…」
全身が安堵に包まれ、その場で力が抜けそうになった。
わたしに駆け寄ったニキアスは、わたしを落馬しない様に注意深く馬の背から降ろすと、そのままぎゅっと抱きしめた。
普段は隙無く整えられている姿が何処へ行ったのかと思うくらい、
衣服と顔が泥で汚れ、疲れているように見える。
「良かった。無事でまた会えて…」
「ニキアス、ごめんなさい」
痛い位わたしを抱きしめるニキアスの背中に手を回すと、黒毛の馬が(かまって)と言わんばかりに近づいて、ニキアスの身体を押した。
「お前…戻っていなかったのか」
驚くニキアスに、馬はブルルっと嘶いて返事をした。
「お前もマヤも…戻って来れて良かった」
馬の顔を撫でるニキアスの口調がとても切なげで、思わずわたしは涙が出てきてしまった。
(ニキアスがこんなに心配してくれるなんて)
「マヤ…」
ニキアスはわたしの頬の涙を指の腹でそっと払ってくれた。
ニキアスの仕草に、攫われてから今まで自分自身がどんなに気を張っていたかが分かって、また涙が溢れた。
ニキアスはそっとわたしの顎に指を掛けると、わたしの額と唇に触れるか触れないかくらいのキスをそっと落とした。
それか、ニキアスは囁いた。
「…一緒に戻ろう、マヤ。もう大丈夫だ」
お待たせしました。
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