71 アナラビの決断 ②
「何だ…?」
いきなり横に地面が揺れたか?――と思った次の瞬間、激しい縦の地鳴りが起こり出した。
ハルケ山の方を見上げると、鳥達がけたたましく鳴きながら木々の上を飛び立つのが見えた。
ニキアスがドゥーガ神の加護を祈って見なくとも、ハルケ山の様子は手に取るように分かった。
木々がひしゃげ倒れる音や、それらを巻き込んで、泥水混じりの岩が山肌を削りながら凄まじい勢いで土と共に下ってくる音。
その濁流にのみ込まれない様に逃げ惑う小動物らの気配――匂い、音、そしてまた地鳴り。
先日体験したあの土砂崩れが、以前よりもはるかに大きな規模で起こっているに違いなかった。
(アナラビと言ったか…あの男の加護はまだ消えていない)
もしすでに――彼が盗賊団と合流していると仮定するならば、アナラビとその仲間は多分、ハルケ山の土砂災害には巻き込まれてはいない。
(まだマヤは無事だ…彼女を取り戻せる)
ニキアスはそう考えると、もう森の中だともいえる木々の中を、いまだ続くアナラビの加護を強く感じる方向へと足を進めたのだった。
**************
タウロスの言葉を聞き顔を見て、アナラビは無言になった。
(確かにオレにはやるべき事がある)
それに、タウロスだけではない。
この盗賊団は元々義賊として形成され、お頭を中心に活動していたのが、偶然にもギデオンを拾ってしまった所から、皆運命共同体になってしまった。
お頭はギデオンを育てながら、各地で『打倒アウロニア帝国』の為の組織づくりや地道な協力者との接点をつくって、少しずつ確実に、あの蛇のように狡猾なガウディ皇帝の目を掻い潜りやっとここまで大きくしてきたのだ。
「分かったタウロス。お前の言う通りにする」
ギデオンがタウロスを安心させるように伝えると、タウロスは全身で大きく安堵のため息をついた。
「アナラビ、貴方が思いとどまってくれて良かった。貴方が本当に珍しく彼女にこだわるので、どうにかなってしまったのかと心配になりました」
「そうか?…そんなにこだわっていたか?」
「はい。女性にここまでしつこく食い下がった事はありません」
「しつこくって…おい…」
タウロスとギデオンの会話はまだ続いていたけれど、どうやらアウロニア軍に戻してもらえそうで、わたしはほっとひと安心した。
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わたしは盗賊団に別れを告げた。
と言っても一方的に連れてこられたのだが。
ギデオンはわたしに記憶を忘れる様にメサダ神の加護の力を使おうとした。
「なんでアンタには掛からねえんだよ…」
ギデオンはわたしの顔を触りながら、しきりに首を振っていた。
わたしはギデオンの朱い両眼を見ながら、大人しくされるがままにしておいた。
(そんなの、こっちが分からないわ)
自分が何故この世界にいるのかも分からないのだ。
マヤ王女の設定まで知る由もない。
埒があかないので、適当にかかったフリをしておいた。
ギデオンは懐疑的だったが、わたしにいつまでもくっついて行動するギデオンを剥がして、タウロスは盗賊団の仲間のところへ連れて行ってくれた。
(はぁ…助かったわ)
ありがたいと思ってタウロスへお礼を言おうとしたけれど、その時のタウロスの顔は忘れられない。
彼は明らかに警戒と懐疑がないまぜになった複雑な表情をしていた。
ニキアスの元へは、獣人族のボレアスが途中まで連れて行ってくれる事になった。
ヴェガ神の加護は他の神と違うらしく、加護の力を使うとニキアスのレベルになると加護を使っている事がバレてしまう為、ニキアスの匂いを辿って近くまで一緒に来てくれるらしい。
わたしが乗った黒毛の馬は、何故かボレアスを警戒する仕草をしていた。
「どうして?」
とボレアスに尋ねてみたけれど、彼は笑って教えてくれなかった。
『私たちも新しいねぐらを捜さなければならない』
ボレアスは自分の足元にじゃれつく子犬を見下ろしながら言った。
『ハルケ山はしばらく近づけないだろうから』
「気を付けてね。チビちゃんも…。奥様によろしくね」
わたしが現代での挨拶のような言葉を口にすると、ボレアスは笑って答えた。
『私に妻はいない』
(えっ?)
「え?じゃあ、この子犬は?」
『白狼から預かった。この子は獣人族ではない純粋な白狼だ』
驚くわたしにボレアスは飄々と言った。
『でも今は、取り敢えず私の子として育てている』
お待たせしました。
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