69 筋書き ⑥
盗賊団の一部の中にはわたしの言葉に動揺する者がチラホラと居る様だった。
「いや、だってよ。いくら嘘つきって言っても、流石に自分自身が死ぬっつう嘘はつかねえんじゃないか?」
「そうだよなあ…」
盗賊の一人が言い出すとそれに同意する者や
「イヤ、どうせ姫さんが逃げる為のでたらめにちげえねえ」
と言う者もいてその場は一時軽く騒然となった。
(多分今ここに集まって居るのは…五十人前後位よね)
後に次々と集結するのかもしれないが、傭兵の様に隙の無い空気感を漂わせるいかつい人達ばかりでとにかく怖い。
その集団に向かってわたしは、震える声で地面につきそうなくらい頭を下げてお願いをした。
「お願いです…アナラビにわたくしから話しをさせて欲しいの。今ハルケ山は本当に危険です。もう少し待って頂けませんか?」
その様子を見て、タウロスの表情が少し和らいだ。
どうやらわたしの必死かつ低姿勢な様子が若干気になってきたらしかった。
******
「預言内容が嘘であるという事は本当にありませんか?」
「マヤ王女、貴女の信仰するレダ神にかけて誓えますか?」
アナラビの部下であるタウロスはマヤ王女へと尋ねた。
「自分の命も関わるこの状況でどうして嘘など申せましょうか。わたしの神にかけて誓います。嘘などついてはおりません…災害は必ず起こります」
マヤ王女は両手を前に組み、厳かに答えた。
僅かに小雨をはらむ風の中で祈る様な姿は可憐な彼女を少女にも見せた。
そしてそれを見る者の気持ちまで落ち着かなくさせていたのだった。
「…土砂崩れというものを具体的に教えて欲しい」
盗賊の1人が恐る恐るマヤ王女へ質問した。
マヤ王女は盗賊へ『土砂崩れと言う事象について』と同時に『現在のハルケ山は危険であり、かなりの確率で土砂災害が起こる可能性がある』という事を丁寧に説明した。
そして前回マヤ王女がハルケ山に入った時に起こった地震らしき事象も伝え、今回また土砂と地震が同時に起きれば間違いなく大惨事になると話をした。
話を聞くと皆一様に真剣かつ深刻な顔になって、マヤ王女から離れた場所へ移るとぼそぼそと話を始めた。
「お頭の方は大丈夫だろうか?」
「お頭はまだコルダ国からはまだ帰ってきていないし、ハルケ山の金庫に移したのはまだごく僅かだから、失ったとしても大したことは無いが…」
「今はアナラビが代行だから、やはり彼が帰るまでは何とも判断がつかんな」
******
盗賊達がザワザワと話し合いを始めたのを見て、わたしは『もしかしたらアナラビを待てるかもしれない』と淡い期待を抱いたけれど、タウロスは見た目だけではなく性格も岩の様に固く融通が利かなかった。
結局タウロスは『ここでアナラビを待っていたら、アウロニア兵らに見つかる可能性も高くなる』と、アジトへ戻るという選択を優先するという自分の意見を曲げなかったのだ。
一部反対する者も居たが、結局再出発の準備をする事になった。
(ああ、もう絶望的…)
せめてハルケ山へ完全に入る手前でアナラビが戻ってくるのを期待するしかないと思った時。
――グラっと地面が揺れたのだ。
直ぐに収まったが、確かに少し大きめの地震が一瞬起こったのだ。
(――ナイスタイミングだわ!)
わたしは内心で拍手喝采をしていた。
日本であれば多分震度三かそこいらだろうが、こちらの人々は体験が滅多にない分結構大変な地面の揺れだったらしい。
「な…何だよ、今のは…」
「足元が完全に揺れたぜ…」
「やべえ…また今度地面が揺れたら一体何処に逃げりゃいいんだ…」
みんな一斉に恐怖に声を上げていた。
ごついおじさん達が一様に悲鳴を上げているのはどこか滑稽ではあったけれど、もともと地震が起こりにくいザリア大陸でこれは珍事らしい。
「じ…地面がこんなに揺れるなんて、ヴェガ神の怒りか?」
「ハルケ山が噴火するんじゃねえか?」
「地面が割れて地の底の死の国へ引きずり込まれるんじゃねえか?」
仕舞いには神様の名前を出し始め、次々に顔面を蒼白にして話し合っている。
けれど――少なくともタウロスは、これでわたしの話を信じる気になった様だ。
「姫君大層失礼な事を言った。申し訳ない」
と青白い顔で、わたしに直ぐに謝罪をしてきたからだ。
*******
「何だと?…土砂崩れ?」
ギデオンは白い大きな犬に戻ったボレアスと話をしていた。
「マジかよ?そんな現象、オレは聞いた事ねえぜ?」
アウロニアのように平原が続く国だと尚更そう思うのだろう。
アナラビの危機を救った白い長い髪の男が、森の中でどこからか黒い馬(よく見たらニキアスが乗ってきた軍馬だ)を連れてくるとギデオンに乗るように言った。
最初アナラビはこの白い髪の男をメサダが送った誰かかと思っていたが、いきなり男が白い犬――ボレアスに変わると、流石のギデオンも驚いた。
「へえ…ヴェガ神の加護って特殊で面白しれえな」
感心した様に呟くギデオンに、
「早く進まないとニキアスがやって来るぞ」
と言ってボレアスは先を急ぐ様に急かした。
「おいマジか?あそこまでやって?ちょっと王女に執心しすぎじゃねえか?」
ギデオンは本日何度目かの『マジか?』を呟いた。
「しかも預言者なのに…王女は嘘をつくって云うじゃねえか?預言者としては考えられねえぜ」
とギデオンはボレアスに言った。
『…そうだと聞いてはいるが、彼女は何故かただ嘘を言うのではない感じがするのだ。所謂普通の預言者では無い気がする』
ギデオンは鼻を鳴らして言った。
「お前の言っている事も分らねえし、あのやせっぽちの王女の価値も分からねえ。だからニキアスの気持ちも分らねえな」
ニキアスの愛憎混じる執着は
(まだ少年のギデオンには分からないのかもしれない)
とボレアスは思った。
だからこそ――このままニキアスが諦めると思えない。
『取り敢えず早くニキアスから距離を稼ぎ、マヤ王女達に合流しなければ危険だ』とボレアスは強く感じていた。
お待たせしました。
読んでいただきありがとうございます。
良ければブックマーク評価いただけますと嬉しいです。
なろう勝手にランキング登録中です。
よろしければ下記のバナーよりぽちっとお願いします。




