63 奪取 ⑦
「…このままあんたを連れて行く」
ギデオン王子は、にっと笑いながらわたしを見下ろして言った。
「あんたの事をどうするかゆっくり考えたいからな」
(えっ?何故?ちょっと…それは困るわ)
マヤ王女が自分を捧げるまで彼に伝えて、やっとニキアスが少し心を開いてくれた(?)所なのに。
(それにこれ…意図しなくても、ニキアスに対して裏切りになるんじゃない?)
いわゆる敵方になるギデオン王子と接触するのは、後々まずいんじゃないか、と色々わたしは考えてしまった。
でも今は言葉が出せないし、指一本動かす事もできないのよ。
(不思議なのはまばたきは出来るし、呼吸も苦しくならない)
もしこれがメサダ神の加護によるものならかなり特殊な力かもしれない。
ギデオンは先程まで着けていた白い仮面をまた装着すると、わたしをそのままお姫さま抱っこして、静かに座って待っているボレアスの前に姿を現した。
『まさか…穢したのか?』
ボレアスが静かに訊いた。
「もう、ニキアスにヤられてんだろ?」
と、ボレアスにギデオン王子が答えになってない返答をすると、そのまま
「この女、連れていくぜ」
とボレアスに向かって宣言をしたのだった。
『…ニキアスが血眼になってお前を追うがいいのか?』
やめておけと、ボレアスはギデオンへ忠告するような口調で言った。
「はッ…ニキアス将軍がそんなにね。それ程大事にしている女なら、増々面白いなあ」
ギデオン王子はわたしを見下ろしながら、目を細めて挑戦的に笑った。
わたしはギデオンを睨みながら、やめてよー!と心の中で叫んだ。
(面白くも何とも無いんですけど…!)
『亡国の皇子』の中で、ニキアスとギデオン王子が直接出会うのはもっとずっと後の話なのだ。
しかも数年後、ニキアスが現皇帝を弑逆してアウロニア帝国の皇帝になった後、ギデオンがその地位を取り返すという、極めて正当派主人公の活躍の流れなのに。
これでは、ギデオン王子が落ちぶれて盗賊稼業をしているのを、アウロニア帝国の将軍ニキアスが成敗するという、なんだかよく分からない展開になりかねないのが恐ろしい。
「俺達のねぐらはハルケ山の中にある。そこまで連れていく」
そう聞いた途端――わたしの血の気が引いた。
(嘘でしょ…?)
折角ニキアスに帰路を変えてもらって、ハルケ山を迂回してきたのに。
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『私たちも一緒に行こう』
その時ボレアスが(動かなせないけれど)焦るわたしの顔を見て、まるでわたしの思考を察してくれた様に言った。
わたしをお姫様だっこで抱き上げたままのギデオンが、ボレアスの方を振り向きながら、皮肉気に笑った。
「冗談だろ?お前がオレと?メサダ神を毛嫌いしてるじゃねえか」
『お前じゃない。マヤ王女に恩義がある』
彼女の意思を無視した行いは許さない。
とボレアスは言うと、硬直したままの子犬の身体を背中に乗せた。
「監視のつもりか?オレの邪魔すんなよ」
まぁ好きにすればいいさと呟いて、ギデオンはテントの外へ出た。
外はどうやら盗賊軍団が投下し続ける火炎弾の様な物で、軍隊のテントも含めてあちこちで火の手が上がっている。
朝霧の中消火活動に忙しい兵等は、わたしを抱えて音も立てずに移動するギデオンには、目もくれなかった。
雑木林に入る直前、目の前にいきなり岩のような大男が現れた。
普段だったら悲鳴を上げるところだったが。
「アナラビ…足止めはしましたぞ」
「ありがとよ。結果的に子犬とマヤ王女と…」
ギデオンはボレアスを見やって
「ボレアスもついて来たぜ。まあ良い成果なんじゃね?」
と笑いながら言った。
「国爾は見つかったのか?」
ギデオンの質問に
「まだ仲間が帰ってきてないので、確認できていません」
と答えながら岩男はわたしをギデオンから受け取った。
今度はわたしは荷物の様に横抱きにして抱えられたのだった。
お待たせしました。
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