56 捧げる覚悟 (後編)
後編です。
と、その時ニキアスがわたしに質問をしてきた。
「…マヤ、先程の行動は本心からか?嘘では無いな」
「さ、先程のとは…」
わたしは思わずニキアスを見上げて尋ねた。
あの地面に平服した――預言者であれば神の前で行う誓いの礼の事だろうか。
「はい、そうです。本心からです」
わたしの返答を聞いて、ニキアスは再びわたしに尋ねた。
「君が褒賞の物の様に扱われても構わない、とも言ったな」
「あ……」
『俺が望めば、戦勝の褒美として君をもらい受けることも出来る』
『分かりました。全てニキアス様の望む様にして頂いて良いです』
(確かに)
どんなにニキアスを愛してても、誇り高いマヤ王女には受け入れ難い話かもしれないわ。
本来のマヤ王女であれば、こんな行動も取らないだろうし。
『自らの意思で全てをアウロニア帝国将軍ニキウス=レオスへ様と捧げます。どうぞお受け取りください』
自分が言った言葉を思い出して、思わずわたしは下を向いてしまった。
(言葉の意味を考えるとかなり際どい内容に成るのかもしれない)
けれど、わたしもきちんと覚悟を決めて言ったつもりだった。
「はい。あの、ニキアス様の戦勝の御褒美(?)…ですから」
わたしはやっとしどろもどろに答えた。
「――…」
「――…」
ニキアスの返答が無いのでちらと見あげると、彼は黙って俯いたまま動かない。
「…あの…」
「不思議な事だ」
ニキアスはわたしを見つめて、ふっと破顔一笑した。
この場に似つかわしくない明るい爽やかな微笑みだ。
「あんなに欲しくても自分のものにならないと思ったからこそ、絶対に
手に入れて見せると思っていたのが」
ニキアスはいきなりわたしを引き寄せると、わたしの顎を指先でつまんで上に向かせた。
わたしはそのままニキアスの美しい金色の虹彩の入る濃いグレーの両目に捕らえられてしまった。
(あ…逃げられない)
ニキアスの瞳に魅入られた様に、わたしは身体を動かせなくなった。
「今はもっとお前が欲しくなった」
******************
戸惑っているわたしをニキアスは抱きしめた。
「あ…あの」
「マヤ…お前は俺のものだ」
耳元で熱い吐息まじりの声でニキアスにそう囁かれると、そのまま倒れそうな程頭がくらくらした。
ニキアスはわたしを抱き上げて、そのままそっと寝台に横たわらせた。
そして声を上げようとするわたしの唇の上に、シーっとするように指を置いた。
「マヤ、今のお前には分からないと思うが。俺は今…焦れて気がおかしくなりそうな位お前が欲しい」
小さな掠れ声で囁く情熱的な言葉とその内容に、わたしは思わずびくっと身を引いてしまった。
「約束通りアウロニアに入る直前まで破瓜はしない」
ニキウスはわたしをひょいとうつ伏せにすると、そのまま背中にのしかかってきた。
わたしの伸ばした手の甲に彼の大きな掌が重なって、そのまま指を包むように絡めてくる。
背後から乗られても決して重くなかったが何故だか、昔テレビで見た肉食獣に捕食される草食動物の映像が浮かんだ。
「…どうやら今回は神の横やりは無いらしい」
ニキアスはわたしの首に顔を埋めて、くぐもった声で少し笑った。
「俺のこの欲を鎮め…来るべき日に慣れてもらう為に、ほんの少し可愛らしく啼いてもらうか」
ほんの少しだけだが。
覚悟してもらおう。
ニキアスがもう一度耳元で囁いた甘い声は、抜け出せない沼のようだった。
お待たせしました。
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