表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
1.嘘つき預言者の目覚め
47/260

46 遭遇 ③



「…そう言えば…マヤはどうしている?」

黒仮面を外し面布へ付け替えたニキアスは、鎧のまま野営の準備中にバタバタと走り回るユリウスへ尋ねた。


「――え?何ですって?」

「いや…」

ニキアスは失言をしたと言わんばかりに下を向いて口元をおさえた。


「…ご自分で行かれたらどうですか?第三部隊にいらっしゃいますから。すぐそこですよ」

「……」


ニキアスは動かずに立ったままだ。


「珍しいですね。こんなに歯切れが悪いニキアス様なんて」

「いや、…そうだな。分かった」

その言葉に背中を押される様に、ニキアスは渋々と第三部隊の方へ歩いて行った。


マヤ王女は野営組と決めた様だった。


テントの準備を着々としている。

荷物をナラと共に自らも持ち、設営の支度をしている。


「あ…やだ、危ないわ。踏んじゃいそう」

笑いながらマヤ王女が屈むと、その周りを纏わりつくように白い子犬がクルクルと走り回っている。


「――ニキアス様!」

顔を上げてニキアスの姿を見ると、マヤは立ち上がり小走りに近づいて来た。


「――待て!俺がそっちに行く」

ニキアスは思わず彼女を留めさせてしまった。


(…転ばれては困るのだ)

怪訝な顔をして立ち止り待っているマヤの方へ、ニキアスは早足で近づいて行った。


「見てください、あの子犬。ハルケ山にいましたよね?また会えたんですよ」

足元に走ってきた子犬を抱きかかえ笑いながらニキアスを見上げるマヤは、今まで見た事が無いほど無防備で輝いていた。


「…そうか」

無表情でニキアスは頷いた。


(来なければ良かった)

とニキアスは心の中でため息をついた。


 ******


『ありがと。ニキアス…ありがと』

白い小さな手で泥で汚れたニキアスの顔を僅かに撫でた。


背中が震えて丸くなる。

小さな身体はさらに幼さを増したように見えた。


『いいんです…遅れましたが、姫さまお誕生日おめでとうございます』


そのちいさな手には小さな白い可憐な花弁の花が握られていた。


『うん…ありがとうニキアス』

服の袖で涙をふくと、瞳は涙で滲ませ鼻の頭を赤くさせたまま、彼女はふわりとニキアスを笑顔で見上げた。


己の記憶力が忌々しい程鮮明に覚えている。


ニキアスが、彼女を初めて「可愛い」と思った瞬間だったのだ。


(…そんな風に笑ってくれるな。色々と思い出してしまう)

子犬を抱きながら話をするマヤを見ると、ニキアスは何故かまた自分の心が騒めき落ち着かなくなるのを感じていた。


 *******

 

ニキアスは、胸の前で腕を組みわたしを見下ろしたまま、美しい戦士の彫像のように固まって動かない。


表情の変わらないニキアスを見て、わたしは何だか心配になってしまった。

(大丈夫かしら?…もしかしてすごく忙しいのに話がくだらなかった?迷惑だったかしら)


「あの…大丈夫ですか?」

そっとニキアスに手を伸ばして彼の腕に触れた瞬間、ビクっと電流が走ったようにニキアスの身体が揺れた。


「…あの…???」

ニキアスの反応に驚いてわたしは思わず手を引っ込めてしまった。


ニキアスは暫く無言だったけれど

「――何かあれば、ユリウスか近くの兵に言ってくれ。できる限りは準備する」

と背中を向けてその場を去って行った。


(あの反応は一体何だったのかしら)


入れ違いに水の入った桶を持ったナラが

「ニキアス様」

と頭をペコリと下げてニキアスとすれ違ったが、怪訝そうな表情をして戻って来た。


「ニキアス様…お疲れなんでしょうか。お顔がお熱があるみたいに赤くなっていましたけれど」

『気のせいでしょうかね…?』とナラはしきりに首を捻っていた。


 *******


野営の準備をナラとしていると、もう日が沈みかけていた。


「きゃあ…!マヤ様…危ないです!」

すると大きな犬がテント脇の雑木林から白い影の様に現れた。


見覚えのある犬だ。

(…ハルケ山で手当したあの犬だわ)


「大丈夫よ。知っている()だから」

とナラへと言いながらわたしはゆっくりと近づいた。


「…わたしの事覚えてる?」


白い大きなシルエットの前に屈むと体長はニメートルは以上あるだろう。

銀交じりの毛並みを見れば見る程、犬と言うよりも狼に似ている気がする。


掌を前に出すと彼(彼女)はふんふん匂いを嗅いで、わたしの手をぺろっと舐めた。


わたしが顔を撫でると少しずつわたしに近づいて、首の毛も撫でさせてくれる。

思っていたよりも柔らかく滑らかな手触りだった。


左の後ろ足のケガが気になって

「傷はどう?…少しいいかしら?」

と訊くと、言葉が分かったように犬は後ろ足を持ち上げた。


「大丈夫?…良かった」

と言うと更に犬は身体を寄せてきた。

わたしが犬の首や背中など手が届く処を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じていた。


子犬はずっとわたしと親犬の回りをクルクル回り続けていた。


お待たせしました。


読んでいただきありがとうございます。

良ければブックマーク評価いただけますと嬉しいです。



なろう勝手にランキング登録中です。

よろしければ下記のバナーよりぽちっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ