43 街道の盗賊団 ③
「やたら長い行軍だよなぁ」
くせのある鳶色の髪と更に赤味がかった瞳の少年は、小高い丘の上からアウロニア帝国の軍列を見下ろした。
腕をぐねぐねと生物のように動かして、
「大蛇だ」
自分の言葉を気に入ったように笑った。
とても端正なつくりの顔立ちと口元に印象的な黒子がある少年だ。
ニキアス程では無いけれど、背も高く戦士のような細身の筋肉の付き方をした肢体である。
「なぁ、そう思わないか?タウロス」
隣のしっかりと鎧を装着し、巨岩のように佇む大男に向かって訊いた。
「…そうですね、ただ隊列の編成が分かりやす過ぎますな」
宝物の護衛団がどこなのか直ぐ分かると、見かけのわりには高い声で少年へ返答した。
「ふ…そうだな、でもやり易い。目的は金品と玉璽だしな。狙いがピンポイントでいけるのは有難いぜ」
少年は端正な口元をニヤリと歪めて笑った。
歳のわりに大人びた表情だった。
「将軍殿は誰だ?エロ親父さんか?」
行軍の最初の方を確認すると
「…嘘だろ?あの黒仮面…見覚えがある」
おどけた口調から一気に冷たい刃の様なそれに変わった。
「面白い。準備しろ――やるぞ」
少年はニヤリとしてニキアスとは対照的な白い仮面を被ると、タウロスの方を向き、ぽきぽきと指を鳴らしながら言った。
*************
思っていたよりも順調に進んでいる。
ニキアスは思った。
(順調すぎるくらいだ)
街道の行軍はスムーズで、兵らは皆緊張を解きながら進んでいる。
このままいけばハルケ山の真横を通り順調にアウロニアへ入れるだろう。
(マヤはどうしているだろうか?)
気になって
ユリウスへ様子を見に行かせたが、特に不便はなさそうだ。
「ただ何故か街道の様子を気にしています」
ユリウスが言うには、マヤがこの街道を通る際に何かを気にしていて、少し落ち着かなそうだったとの事だ。
「何かの内容は言っていたか?」
「いえ…ハッキリとは分からないと」
しかしマヤはとても不安そうに言ったという。
『とても嫌な感じがするんです。少しずつからめ捕られていくような』
「…そうか」
(預言者として何か感じるところがあるのか)
マヤの処に行き訊いてみたい感情にかられたが、堪えた。
その代わりにユリウスへ
「各隊に、気を緩めるなと周りに気を配れと伝達しろ」
と命令をしたのだった。
**************
(何だろう…この感じ)
わたしは妙な胸騒ぎと、気持ちの悪い感覚がつき纏うのを感じていた。
まるで誰かに監視されているようだ。
実際今は馬車の中で傍にいるのはナラだけなのだが、常に見られている様な感覚が気になって仕方がない。
(感覚的な物だから説明出来ないのがつらいな…)
「ナラ…誰か外から見てる?」
と何度か彼女に訊いたが、彼女はキョトンとするだけで
「いえ…どなたもいらっしゃらないですよ」
と馬車の覗き窓から外を確認しながら言った。
「きゃっ…!」
ガタンッと一際大きく馬車が揺れて、わたしは車体に伝わる振動で座席から飛ばされそうになった。
「大丈夫ですか?マヤ様…そろそろハルケ山の近くを通りますから余計に揺れますよ」
(そうか…だからなのね)
ニキアスと馬で来た時にもハルケ山近くの道路の舗装が粗くなっていたのを思い出した。
「わ…わかったわ」
しばらくはこの馬車酔いしそうな振動に耐えなければいけないのだろう。
その時微かに聞き覚えのある――犬の遠吠えが聞こえたようなきがした。
お待たせしました。
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