41 街道の盗賊団 ①
アウロニア軍はゆっくりと移動し始めた。
ゼピウスに攻め入る時には『疾風のごとし』だったのが、帰路の道は半分祝賀ムードも漂って兵たちにリラックスムードが高まっている。
ナラの話によると、アウロニア帝国からニキアス以外の皇軍や部隊がゼピウス各地に到着し、ゼピウス国の名だたる武将はほとんど離散して、残党狩りにあっているそうだ。
反対勢力は今も次々に潰されている状態らしい。
ナラはマヤの髪を梳かしながら安堵した言ってから、
「これで襲撃の心配なくアウロニアに戻れますね。あっ…。申し訳ございません」
と気付いたように口許を手でおさえた。
「い、いいのよ…。そう、よね…」
思わず苦笑したが王と王妃、姉の姫君は既に他界していたから、ゼピロスの正統な王位継承者はいない事になる。
マヤは神殿に入った時点で一応継承権を手放している。
復権の手続きもしていないから、実質ゼピウス国はこのまま滅亡するのだ。
顔も見た事がなく、声も聞いた事がない設定上の家族とはいえ、高い塔から燃え上がる宮殿を見た時のマヤの哀しみと怒りを思いだすと、胸が痛かった。
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『そこが一番安全な場所ですから』
ニキアスは、帰国する前の準備でごった返す兵らの中を足早に歩き、
ゼピウス国から押収した宝物を管理するテントの中に入った。
宝物を荒らしたり、ちょろまかす不届き者もいるので、警備はその他の場所より更に厳重ですある。
ニキアスは警備する屈強な兵らの責任者を呼び、
「玉爾は俺が持つ」
とだけ伝えた。
無造作に積み上げている宝物の山から、国璽の入る一際豪華な造りの箱を捜しだし、丈夫な麻布の袋にしっかりと入れた。
「盗難防止だ。俺が陛下に直接お渡ししよう」
警備長は厳しく頷くと、
「わかりました。確かに世界一安全な保管場所でしょうから」
と、マヤと同じような事を言った。
そして、皇軍『ティグリス』は細長い形の隊列を組み、アウロニアまでの帰路を出発した。
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『街道』は道というより道路の様に立派なものだった。
道はほとんどが舗装され、歩きやすい。
砂利だけの舗装道路もあったが、土を踏み固めただけの場所は少なく、道路の幅だけで4mはありきちんと歩道もついていた。
広い所では10mくらいの幅があり、軍隊が広がって行進するのにも十分な広さだ。
兵らは、徒歩や2輪や4輪のカートや馬車をラバや小さな馬に引かせて、戦利品などを運んでいる。
わたしも皇軍の一部の、簡素ではあるが馬車に乗せてもらって移動していた。
移動の中には、ゼピウス国から連れてこられた奴隷もいたが、そんなに待遇が悪そうな感じでも無く少し安心した。
しっかりとした足取りで歩いている者が多かったからだ。
わたしも最初歩くだのと思い身支度していたが、出発前のテントに、黒仮面と鎧をつけた状態のニキアスがユリウスと共にわたしの様子を見に来て言った。
「おい…『自分で歩く』とかいうのは止めてくれないか。俺は軍の先頭に行かねばならぬのに、きみの歩みまで注意するような余裕は無い」
「あ…はい」
ニキアスのごもっともな言葉にわたしが詰まっていると、彼は更に続けた。
「きみは目立つ存在だから下手なトラブルの危険性を招きたくない。歩いてたら、ゼピウスの民等もきみの事が気になって仕方がない筈だ」
行軍に乱れが出ると言いたいのだろうか。
「…はあ、そうかもしれません」
「だったら歩かない方がいい。そんな体力の無い身体じゃ絶対に五キロも歩けやしない。それに、絶対転ぶだろう?」
わたしはニキアスへ聞き直した。
「は?転…?」
(…転ぶ?)
「ニキアス様。心配だから馬車に乗ってくれって言った方が早いんじゃないですか?」
今までの会話を聞いていたユリウスは、素直に言いましょうよと呆れたように言ったのだった。
お待たせしました。
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