40 (幕間)記憶 ①
短くてごめんなさい…
昔の話になります。
「ゼピウス国からきた預言者の姫はワガママだ」
炊事場で奴隷達がひっきりなしに噂している。
レダの神殿でニキアスは神官らの洗濯物を抱えながら、何回かそれを聞いた。
アウロニア国内では国内での派閥対立が混迷を深めていた。
アウロニア国王派と王弟公の息子でガウディ執政官が先導する若い新興貴族らを交えた貴族派の間での権力争いが、水面下で激化していた。
王宮を離れたニキアス自身には全く関係のない権力争いだ。
ニキアスは曲がりなりに王弟公の息子だが、母親はルチアダ神殿の踊り子という身分で低すぎた。
数だけは多くいた『カス』のような存在だったのだ。
義兄ガウディにとってもそれは同様で、力が無さすぎる為政治的な脅威にはならず利用価値もほとんど無い。
ニキアスは自分の立場をよく分かっていた。
大公から世話してもらっていた邸宅を出てどこかの神殿での神官職を目指していた。
それなら現世の権力争いに巻き込まれる事も無く、食いっぱぐれる心配も無い。
真面目に修行にいそしんでいれば、もしかしたら神官職に就いて神の加護を貰えるようになる可能性だってある。
ニキアスが七歳になる前に、神官職を目指して大公の邸宅を出た。
下働きから始めたが、元々の賢く数字関係に強かった事もあり、八歳になるとただの下働き職から、神殿の神官の補佐の仕事もするようになった。
その頃すでに、ニキアスの面布をつけていてもわかる美貌とスラリとした姿態に寄ってくる女が出始め、雑魚寝状態で生活する中ニキアスは、年上の使用人の女性に寝こみを襲われることが多かった。
ちょくちょく年上の女性らがニキアスの元に訪れる中、その内に神官である男性まで夜間来るようになり、痴話げんかまで発展する騒ぎになった。
周囲が鬱陶しくなったニキアスは十歳の年、その神殿を出て違う神殿へ移動する事を決めた。
次に訪れたのがマヤのいたレダ神の神殿だった。
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初めてマヤを見た時あまりに小さい少女なのでびっくりした。
自分より二つ、三つ年下なだけなのにそれよりもずっと幼く見えた。
ただ口を開くとやたら達者で、毒舌も時に聞かれたが、大抵の言葉はやるべき事をやらない使用人や奴隷、式典の手順や方法を守らない神官に向けられたもので、決して不快になるような類いのものではなかった。
むしろ預言者である為に努力する姿勢は誰よりも真摯で、好感が持てた。
小さな身体でレダ神の像の前に跪きて祈り天から差す光に打たれながら神託を求めてひざまずく姿は、『神々しい』と言っていい程美しく印象深かった。
(――彼女は選ばれた人間なのだ)
ニキアスはマヤ王女が羨ましかった。
王女でありながら、神に選ばれし預言者でもある彼女の存在が。
お待たせしました。
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