34 ピュロスの行方 ①
ちょっとR15かな?嫌な方はとばしてね
(...嘘でしょう?)
左目に付けていた面布を外したままなんて。
暗闇にようやく目が慣れてきたわたしにもニキアスの青混じりの濃いグレーの美しい瞳がきちんと両眼見えた。
(小説内では外している記載は無かった筈だわ)
例えそれが入浴中や入眠中、閨であってもだ。
外す事があっても、それはやむを得ない場合だけの筈なのに。
(それが…なぜ?)
わたしは思わずニキアスの左頬に自分の右手を伸ばしていた。
彼の左の頬にわたしの指先が触れた瞬間、ニキアスは人に慣れていない動物のようにビクリと身体を震わせた。
そこには爛れなど無い滑らかな皮膚の感触のみがあった。
ニキアスはそっと左頬を触るわたしの手の上に自分自身の手を重ねた。
「マヤ…怖いか?」
ニキアスがそっと尋ねた。
その質問の意味が彼の左目の痣の事なのか、これから彼がしようとする事なのか分からない。
「こ…怖くはないですニキアス様…でも…」
「...でも?」
ニキアスはそのまま滑らかな動作でわたしの右手から腕へと唇を滑らせ、時折音を立てて小さくキスを落としていく。
動作が妙に――手慣れている。
(え?すごいスマートでびっくりする...。
小説には書いてないからニキアスの恋愛経験が分からないんだけど...)
わたしは以前の世界で一応経験はあるから処女ではない。
ただ多少経験はあってもそんなに多くも無い。
(むしろ年の割に少ない方だったかもしれないけれど)
少しずつだけど確実に昂ぶって行く気持ちを抑えながら、わたしは彼に尋ねた。
「ニキアス様…あの、確か戦の間は…」
(『女を抱かない』って言ってた筈...)
ニキアスはふっと小さく忍び笑いをした様だった。
「安心しろ。その通り…破瓜はしない。少なくとも帝国に戻るまでは」
「ニキアス様…あの、それは…」
(破瓜はしない?その前まではするって事?)
彼は質問には答えずそのまま寝台にゆっくりとわたしの身体を横たえた。
*********
「マヤ…俺はただ君の体温を感じたい。苦痛は与えないと約束する。でも嫌なら以前の時の様に俺を拒絶して欲しい」
そう言いながらニキアスはわたしの寝間着をゆっくりと少しずつはぎ取っていった。
ニキアスの言葉にはたとわたしは思い当たる。
(以前の時の様にって神殿でマヤがニキアスへと放った『ヴェガ神の呪いよ』の件の事?)
もうあんな酷い拒否なんて出来ない。
それにニキアスは冷静であっても、冷酷な人間ではない。
それはほんの少しニキアスと一緒にいただけでも彼が小説の中とは違う優しさや気遣いを持つ人間だと分かった。
旅中の振る舞いから乱れた性生活をしていない男性なんだろうなとも予測はつく。
そんな事を考えているとニキアスは唇を重ねながら軽く微笑んだ様だった。
「ぼうっとするなんて...随分と余裕があるな、マヤ」
「そ、そんな…」
『...余裕なんてありませんわ』
そう言おうとした瞬間、今度は少し角度をずらして唇を重ねたニキアスはその舌先でわたしの唇をつついた。
「…口を開けて」
優しい口調の言葉に誘われる様に唇を薄く開くと、ニキアスの濡れた舌がぬるりと入ってきた。
歯列の前をなぞりそのまま奥へと舌が入り込む。
そのままニキアスの舌は歯列の裏を掠めわたしの口蓋の上をぞりぞりと舐めた。
その瞬間わたしは未知のそのぞわっとした感覚に皮膚が粟立つ。
思わずニキアスの逞しい胸板に添えていた手に力が入る。
(何?こんなディ―プなの前の時だってした事無い…)
「んん…っ…ぅんっ…」
「…ふ、マヤには刺激が強いか?ほら舌を出して…」
少し笑ったニキアスはそのままわたしの縮こまった舌を簡単に捕らえると、長くぬるりとした舌でわたしの舌の前をれーっと舐め上げると絡みつけて吸った。
唇の端から自分の唾液が流れるのが分かる。
ただひたすらニキアスの長い舌にわたしの口内の粘膜は蹂躙されていくけれど...気持ちがいい。
そしてニキアスに舌裏とその脇も器用に舐めて吸われると、わたしはだんだんと頭がぼうっとしてきてしまった。
薄暗い部屋の中で深いキスが鳴らす水音とニキアスの吐息とその身体からする僅かな薄荷の香りにわたしの感覚は支配されていく。
ニキアスは一度キスを止めてわたしの顔を見た。
「マヤ…大丈夫か?」
「…は、はい…だ、大…じょう…ぶです…」
息をひたすら切らしながら答えるわたしを見て、ニキアスは考えたらしい。
「...少し手加減しよう」
ニキアスはディープキスをやめると今度はわたしの頬と瞼に小さくキスを落とした。
そのまま首筋に唇を這わせると時折じゅっと音を立てて吸っていく。
ぴりっとした痛みと同時に起こる感覚に思わず声を漏らしてしまった。
「…あ...ぁんっ…」
「可愛い…マヤ…」
(――え?)
『可愛い?』
ニキアスがそんな事をわたしに云ってしまうの?
『マヤ王女』なのに?
ニキアスの唇はわたしの疑問とは別に徐々に下へと降りていく。
鎖骨を優しく啄ばみ軽く吸う唇の愛撫はそういう事にとても慣れた男性のそれだ。
ニキアスの唇の心地良さと自分の中から湧き上がる熱に浮かされる頭の片隅でわたしは考えていた。
(小説の中ではニキアスはいつも皇帝に排斥される可能性の高いギリギリの場所を歩んでいる男だった)
『破瓜まではしない』
それが皇帝陛下に献上するつもりなのか、わたしへの思いやりなのか分からない。
それは今のニキアスに訊いても応えてはくれないだろうから。
ニキアスははだけた夜着からこぼれるわたしの乳房を優しく大きな手で覆った。
「マヤ…何を考えている?」
既に立ち上がり始めたわたしの胸の頂の回りを焦らす様にニキアスは指先で優しくなぞった。
ニキアスはわたしを見下ろしながら尋ねた。
「――ずっと…君は何かを考えている」
「…な、何も...あぁ…考えていません…っ…」
「教えてくれ。君が今何を考えているのか、マヤ…」
わたしの両方の乳房を両手でやわやわと揉むと、ニキアスはそのまま片方の胸の頂きの回りをザラリとした舌先でなぞった。
「マヤ、どうして欲しい?…もっと…俺が欲しいか…?」
それで――その時の言葉で分かってしまった。
こんなに愛撫に慣れてスマートに見えるニキアスなのに。
ニキアスの指先が震えている事を。
ニキアスが与える快楽とは別に生まれた疑問が頭の中をグルグルと回った。
(ニキアス…どうして震えているの?)
だからわたしは愚かにも――何も考えずにその疑問を声に出してニキアスへ尋ねてしまった。
「…どうして…?」
「『どうして』...?」
質問の意味が分からなかったのだろう、ニキアスはそのままの言葉で返してきた。
「…ニキアス様…何故?何を…恐がっていらっしゃるのですか?」
その言葉を聞いた瞬間、わたしの身体に優しく愛撫をしていたニキアスの指がピタリと止まった。
お待たせしました。
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