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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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89 痴話げんか

お待たせしましたm(__)m

「何だと?」


ドロレス執政官に両手で縋りつかれたボレアスは、神官服の袖を素早く払って小さく後退りし、汚物を見るような目でドロレスを見下ろした。


「まさか…この私に覗きの真似をさせるつもりか?いくらドロレス殿とも言えど…」

「覗きではありません。物音を聞くだけです」

「それは屁理屈というもの。そもそも陛下のプライバシーに踏み込む様な真似はすべきでな…」


「分かっておりますが…そこを何とかお願いします!ボレアス様」

ドロレスは再度ヴェガの神官に縋りつきこそしなかったが、拝む様両手を合わせながらボレアスに詰め寄った。


「ほんの…ほんの一瞬で良いのです。この部屋は壁も厚く『ヴェガ』様の加護が他よりも強くて、私のお抱えの魔術師ですら水晶玉で中の様子を探る事が出来ません――執政官である以上、私には陛下の安全と帝国の政治を守る義務があるのです」


「…『ヴェガ』様の加護がある場所なら尚更安全だろう。お前の言っているのは厄介な姑婆と同じだ。閨ぐらい陛下の好きにさせておけ」

途中エシュムン侍医が呆れた様に言葉を挟んだが、執政官は鼻息荒く引き下がらなかった。


「直接確認出来なければ、私が安心して業務に戻れませぬ。特にあんな事があった後の…あの女狐と二人きりなど」

ドロレスの勢いと執念深さに僅かに気圧され微妙な表情を浮かべた神官は、暫く執政官の血走った瞳を見つめた。


「ああ…ええ、分かった」

ボレアス神官は首を振ると諦めた様に小さくため息を吐き、顔を輝かせたドロレスに言いきかせる様にきっぱりと言った。


「しかし一瞬だけ。中の…危険が無いかを確認するだけだ、いいですね」

そう言って長い足で一歩前に出ると、王女の部屋の分厚い扉の前に近づいた。


そして口の中で小さく呪文の様な物を唱えると、豪華な扉の前に立ちそっと耳を当て、獣人族特有の鋭い聴覚で扉の向こうの部屋の様子に耳を澄ませた。


 *****


ガウディの口から語られる初めての過去の話しは、王女の気を多分に惹き付けた。

マヤ王女はガウディの顔に吸い寄せられたかの様に話しを聞いていた。


「陛下は…直に『レダ』様にお会いになったという訳ですか?」

「?…あくまで夢の中での話しだ。実際に会った訳ではない」

「夢?本当にそれは夢でございましたか?」

「夢で無くば何だというのだ」

「わたくしはハルケ山の麓の森の中で濃霧の中を彷徨い、実際ヴェガ神様にお会い致しました。ですから()()()()()の陛下も…」


「……」

ガウディは自分を真っ直ぐに見上げるマヤの碧い瞳を見つめた。


それは皇帝ガウディが『ヴェガ』神の『預言者』である事をマヤが既に知っている事を示唆するものではあったが、ガウディは敢えて指摘しなかった。


「…夢だと言った。余に二度同じ事を言わせるな。これ以上不毛な会話を続ける気は無い」

ガウディがけんもほろろに言い放った言葉は、いつもの気弱な王女なら返す言葉を失って諦めるものだった。


しかし何故か――今日の王女は違っていた。

不穏な空気を纏い眉を顰めたまま、王女はガウディの真っ黒い瞳から目を反らさなかった。

「不毛などではありませぬ。わたくしにとっては大事な事なのです」


「…余が女神に直接会った会わんに、なぜそこまでお前が拘る?」

「それは…」

「二十年近く前の、たかが夢の話しだ。美しく魅惑的ではあったが、同時にこの世で一番恐ろしい女でもあった。少なくともお前の様な世間知らずのちんちくりんの小娘で無かったがな」


「ち…!?」

ガウディの言葉に王女は怒りと傷ついた表情を浮かべ、小さく唇を震わせた。


 *****


暫く部屋の中の様子を伺っていた神官ボレアスは、何とも言えない表情を浮かべ片耳を当てていた扉から離れた。


「どうでしたか?ボレアス様」

「いや…なんとも」

「危険な会話は無かったのですか?」

「ああ…いや、まあ…」

「はっきり仰ってください」

「会話をしていただけだ。特に…問題ない」


長身のボレアス神官をドロレス執政官は不審そうに見上げた。


執政官の肩に宥める様に手を置いて、侍医は言った。

「ドロレス…納得したならそろそろいいだろう?さあ早く…君も執務室へ向かった方が良い」


兵士を共に何度かこちらを振り返って歩く執政官に、エシュムンは軽く手を振りながら神官へと尋ねた。


「…それで本当はどうだったのですか?ボレアス様」

「部屋の中ですか?本当になんにも無かった」

「…神官というお立場の方に無粋な真似をさせてしまい申し訳ありません」

「いや…しかし」

「ですが?」


「少なくとも全く衝突が無かったという訳でもなさそうだった」

「ほう…それはそれは」

エシュムンは子供と大人位身長差のあるボレアスを見上げた。


神官は端正な白い顔に、先程と同じ複雑な表情を浮かべていたのだ。

「まさか、あのガウディが?と何度もしっかりと聞いてしまったが…」


しきりに首を傾げるボレアスもエシュムンにとってはこれまた珍しいものだった。


「ボアレス様の口ぶり。興味深いですな」

「ああ…全くです。あの感情の無いガウディがなんと言うか…まさか痴話喧嘩らしき物をしているなんて」

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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