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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
1.嘘つき預言者の目覚め
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25 帰路にて


「もうそろそろ行くとしよう。時間がかかってしまった」


 ニキアスは森へ戻る犬の後ろ姿を見送るわたしを促した。

 少し歩くと土砂崩れの様子は消えたが、雨足は少し強くなっている。


「…『ティグリス』に早く戻る必要があるな」

「そうですね…」


(またいつ土砂崩れが起こるか分からないわね)

 同時に起こった自身も気になる所だ。


「大丈夫か?マヤ王女」

「はい…何とか…」


 わたしが不安気に返した為か、ニキアスは時折後ろを確認しながら少し歩く速度を緩やかにしてくれた。

 わたしはぬかるんで滑りそうになりながら、ニキアスの背中の後を足元に気を付けながら歩いた。


 やっと山裾まで降りてくると、ニキアスは木に繋いでおいた馬を直ぐに見つけた。

「よしよし…よく待っていたな。いい子だ」


 ニキアスは主人を見つけて安心した様にブルルと鼻を鳴らす馬の首筋を優しく撫でた。

 そしてわたしをひょいと簡単に持ち上げて馬の背に乗せてから、そのままひらりとわたしの後ろに飛び乗った。


 それからわたしの顔を見下ろすと気が付いた様にふっと頬を緩めて笑った。


「汚れているぞ」

 わたしの額についていた泥をすっと彼の指で拭ってくれる。


 わたしはびっくりして思わず息を飲んでしまった。

 笑いかけてくれるニキアスの笑顔が余りにも優しすぎたからかもしれない。


 そのままじっと見上げているとニキアスは

「…何だ?」

 とわたしに訊いてから、ふいとわたしから目を反らせた。

「…泥がついていたから取っただけだ」


 そっぽをむく耳が僅かに赤い。


「...二…」

 ニキアスへ話しかけようとした瞬間、また大勢の犬の遠吠えが聴こえた。

 その声に弾かれるようにニキアスの馬は走り始めた。


 わたしが後ろをふりむくと薄暗くなる空を背景に、麓付近であの助けた大きなリーダー格の犬を先頭に野犬の集団が静かに佇んでいた。


 それはまるでわたし達を見送るかのようだった。


 ************


 帰路への道を走りながら、わたしはニキアスへ少しずつ質問してみた。


 少しずつだが彼は皇軍の事も含めて言葉を選びつつも話してくれた。


 ニキアスが率いるのは皇帝直属の軍のひとつになるらしい。

 他に皇軍と言われる軍は三つあり、それぞれ名称がついているそうだ。


 ニキアスはもともと『イェラキ(鷹)』という皇軍の補佐部隊の隊長だったが、今回の遠征で急遽皇軍の一つ皇軍『ティグリス(虎)』を任される事になったのだ。


 他の皇軍は三部隊とも『パンテーラ(豹)』『レオ(ライオン)』『ウルサス(熊)』といずれも大型の猛獣の名前の部隊だった。


「元々の俺の部隊じゃ無いからな。あまり帰るのが遅れると、ダナス副将軍が勝手に軍を動かす恐れがある」

 だから早く帰る必要があるとニキアスは言った。


「悪いがこのまま休憩は取らずに帰るぞ」

「はい。わかりました」


 その言葉通り馬に必要な休憩以外は取らず、ニキアスはひたすら馬を駆って駐屯地を目指した。


 山を歩き回った疲れで、慣れない馬上でもわたしは直ぐに眠気に襲われてしまった。

 馬に乗りながらも眠気に負けてウトウトしていると、ニキアスは『身体を預けてもたれるように』と言ってくれた。


 ニキアスの馬はそのまま真っ直ぐ街道を走り抜けた。


「マヤ…起きろ」


 声を掛けられて目を覚ますと、目の前にニキアスの逞しい胸板があった。

 どうやらわたしは、寄りかかってそのまま眠ってしまったらしい。


 驚いたわたしがビクっと身体を起こすと、ニキアスは

「急に身体を離すな、危ない。落馬するぞ」

 と言ってわたしをぐっと自分側へと引き寄せた。


「もうすぐ着くから言っておくが、戻ればまた半分奴隷と同じ扱いになる。何が起こるか分からないから下手に俺から離れるなよ」


 ニキアスの言葉の意味は今のわたしの身分や扱いだけではなく、もっと直接的な――身の危険の事も含めて気遣って言ってくれている様に聞こえた。


「…はい、分かりました、ありがとうございます」

 見上げてそう言うとニキアスは小さく頷いて、今度はわたしを優しく引き寄せた。


(...なんだか困るわ…)

 いや――正確に言えば困りはしない。

 けれどニキアスの対応が最初の日と異なり過ぎて、自分の方が勝手に混乱してしまっている。


 落馬しないようにニキアスが優しく囲ってくれる腕の中で、わたしは自分も理由の分からない感情のせいで困惑するばかりだった。


 そうして私たちは無事に皇軍『ティグリス』の駐軍地に戻って来れたのだった。

お待たせしました。


読んでいただきありがとうございます。

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