86 虚無の魂 ①
大変…大変お待たせしましたm(__)m
一応R15とさせていただきます。
マヤ王女は自分の掌に置かれた食べかけの桃をじっと見つめた。
白い果肉の表面には、先程ガウディ皇帝から急かして口に運ぶ様命じられた自分の歯型が幾つも残っている。
滴る果汁も相まって僅かに褐色に変色した桃の肌が妙に生々しく感じた。
王女の中でさっき感じた後悔の念が小さく頭をもたげてくる。
視線を感じてふと自分の顔を上げると、目の前にはガウディの無表情な顔がほんの僅かの距離まで近づいていた。
マヤは思わず目線を反らせた。
「…わ、わたくし…やっぱり…」
「もう遅い」
ガウディのひび割れた声が耳元で囁かれると同時に、舌先が耳朶を這い小さく歯を立てられた。
「あ…へ、陛下…」
「早う…でなければ――お前を喰う」
「痛っ…!」
そのままガウディの吐息が首元にかかるのを感じたマヤは首筋に鋭い痛みを覚えた。
「へ、陛下…噛むなん…て……」
痛みにガウディの顔を仰ぎ見たマヤは思わず抗議の声を上げたが、途中でそれは尻すぼみになって消えた。
「あ…」
間近で見るガウディの真っ黒い瞳の奥に確かに見える情欲の火を確認したマヤは、いきなり顔がかあっと火照るのを感じた。
王女は顔を伏せ小さくその身を震わせた。
「お、お許し下さい。わ、わたくし、やはり…」
「――赦さぬ」
首筋まで赤く染まったマヤの顎を指でそっと持ち上げたガウディは、潤むマヤ王女の海の様に碧い瞳をじっと見つめた。
「お前は選りによって『桃』を使い余を部屋に招き入れた。その代償は高くつくと思うがよい」
マヤの目の前の真っ黒い瞳は三日月の様に細められている。
皇帝はうっすらと笑いを浮かべていた。
*****
ふわりと身体が浮き上がるのを感じると、わたしはいきなり寝台の中央に放り投げられていた。
両手で持っていた白桃がコロコロと寝台の外へと転がっていくのが目の端に映る。
身体が寝台の上でバウンドしたと同時に大きな影がわたしの上に覆い被さる。
普段纏う気怠そうな雰囲気は何処にいってしまったのか、驚く程素早い動きで陛下はあっという間にわたしの身体を組み敷いていた。
「へ、陛下…」
わたしの腕を持ち上げた陛下は、そのままわたしの指に長い舌を這わせ始めた。
「…やはり甘いな」
蛇の様に赤く濡れた陛下の長い舌が丹念にわたしの指を一本ずつ舐める様は、とても現実のことだとは思えなかった。
いつもの無表情は何処に行ってしまったのだろう。
こんな明らかにわたしへの欲情を浮かべた陛下の顔を見た事が無い。
視線を感じたのか、陛下は目を三日月の様に細めながらわたしを見つめた。
「…怖いか?怯える姿もガルデニアの花の様に愛らしいが」
「…あ…」
――愛らしい?
(あの陛下が?)
陛下の言葉もわたしは半ば呆けながら聞いていた。
かつてあの浴場でも噂されていた様な甘い言葉を紡がず、前戯も無く性に対してほぼ無関心というか機械的というか――所謂そんな感じの陛下のイメージと結びつかない。
恐ろしいのはそれだけじゃなく、薄笑いを浮かべた陛下の
「さあ、その愛らしい顔が痛みと快楽で歪むのを余に見せよ」
言ってる内容がかなり――危険であるのだ。
呆然としたままのわたしの上に馬乗りになった状態の陛下は、何か小さく呟きながらわたしの腰に巻かれたサッシュを解き、剝ぐようにチュニックを脱がしていった。
衣擦れの音と共に聞こえるのは鼻歌混じりの陛下の声だけだった。
(?…何この歌)
(…もしかして…)
何故かそれに聞き覚えがある気がするのは
(多分だけど…)
昔のマヤが、ゼピウス国のレダ神の神殿で
(聞いた記憶がある気がするわ…)
赤ちゃんを連れた若い母親が歌いながら子供をあやしているのを何度か見た記憶があるのだ。
(――子守り歌?)
薄い笑いを浮かべたままの陛下は何故か古くからザリア大陸で伝わるレダの子守歌を歌っていたのだった。
*****
ガウディは子守歌を歌いながら、マヤ王女の衣服を手早くはぎ取っていった。
王女の目の端には、さっきまで着ていた自分の衣服が皇帝によって次々と積み上げられているのが映った。
怯えた瞳の王女は既に諦めてしまったのか抵抗らしい抵抗はしなかった。
来たばかりの痩せぎすだったマヤ王女の身体には、いつの間にか豊かな生活で付いた白い肉が優美な曲線を描いている。
しかし白く膨らむ胸元が顕わになった瞬間、マヤは慌てた様に両腕で交差しガウディの視線から逃れようとした。
「…今一度お前に問うが」
ガウディは頼りない下着一枚になった王女を見下ろして訊いた。
「己が哀れだと思うか?」
「わ、わたくしでございますか?」
「そうだ」
ガウディはマヤの細い顎を掴むなり、ぷっくりとした唇にそのまま食む様に唇を重ねた。
「――は、んん…っ…」
「口を閉じるな。無理にこじ開けられたく無くば舌を出せ」
「ん…あ…」
小さくマヤの口が開いた瞬間、口腔内へとガウディの赤い舌がぬるりと侵入した。
王女の小さな歯列をくまなくなぞる様に動いたガウディの舌は、マヤのそれを見つけると蛇の様に絡み付いて吸った。
鈍い水音が何度も繰り返し聞こえ、深い口づけのため息と共にマヤの唇の端から透明な唾液が流れ落ちた。
息継ぎも出来ないくらいマヤの舌と口腔を蹂躙したガウディがようやく唇を離すと、マヤは涙で潤んだ碧い瞳でガウディを見上げた。
「…へ、陛下、お聞きください。わたくしは…」
「聞かぬ」
マヤの言葉を無視したガウディは、長い指で王女の両腕をくるりと一つに纏めた。
さっきまで王女の腰に巻いていたサッシュの長い布を衣服の山から引っ張り出すと、そのまま抑える様に寝台に押し付け、細い手首の自由を奪う様に器用にぐるりと巻き付けた。
「…え、何を…」
「これでお前はニキアスに言い訳が出来た」
「二、ニキアス…?」
ガウディは薄笑いを浮かべ、義弟の名前に怯える様に反応したマヤ王女を見下ろした。
「ふ…抵抗も空しく自由を奪われ犯された、とでも言えば良い。まああ奴なら許してくれるだろう」
そのままガウディは手を伸ばすと、
「勃っているな」
と王女の白い胸の頂で小さく震える蕾を指先でぎゅっと摘まんだ。
「…あぁっ…!」
「良い反応だ」
仰け反る王女の耳元で笑う様に囁いたガウディは、自らのチュニックを勢いよくバサリと脱ぎ捨てた。
「…されどお前の立場で犯されたも陳腐な言い草か」
ガウディの細い身体に強靭な細い筋肉が巻き付き、普段さぞ自堕落かと思われた生活の様子は微塵も感じられない。
皇帝は為す術も無い王女を揶揄する様に言葉を続けた。
「マヤ…お前の信仰する女神が本当に居るのなら、何故この窮地にレダは助けに来ないのだろうな。そうは言っても地下神殿の真上では女神とて手を出せんのかもしれんが」
その時――マヤ王女は気付いた。
ガウディの引き締まった腹部の一部に、小さく黒い色素が広がっている。
(あれは…)
小さな花の様な黒い痣を見てマヤは息を呑んだ。
(あれは『ヴェガ』の…)
あれこそが――『ヴェガ』神の呪い。
ニキアスの左目にあった青黒い痣よりも範囲は随分と小さいものだったが、ニキアスのものが可愛いものと思える程、その真っ黒い小さな痣は禍々しいオーラを放っていた。
お待たせしました。m(__)m
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