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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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81 運命のパズルのピース ③

おまたせしましたm(__)m


クラウディア=パレルモ神官とニキアス=レオス将軍は、『レダ』神殿の美しく鮮やかなモザイクタイルで彩られた廊下を並んで歩いていた。


クラウディアは隣を歩くニキアスを少し見上げて言った。

「本当にごめんなさい。お力になれなくて…」


「…いや、こちらこそ。いきなり尋ねて、朝食まで馳走になった。話を聞いてもらっただけでも有り難かった」

実際今はここを訪れる前よりも、大分気持ち的には落ち着いていたのだ。


横を向けば、隣を歩く彼女は女性にしては背が高かったので、直ぐに視線が合う。

ニキアスは穏やかに微笑みながら、クラウディア=パレルモを見つめた。


彼女が着ている襟の詰まった白い神官服は、夢の中でも見たが『レダ』神の神官特有の物だ。


お仕着せの神官服を着た姿でも、クラウディアの堂々とした立ち姿は巷で女神『レダ』の現身と言われているのを納得できるものだった。


ほんの少し頬を赤らめたクラウディアの表情に、ニキアスは気付いた――が、その反応はニキアスにとっては日常茶飯事だったので、礼儀正しく視線を外した。


実際ニキアスにとって、男女関係なくこんなに短時間で打ち解けて話す事が出来る相手は珍しかったと言える。


(昨日は要件のみだからと神殿の入口でそそくさと書状を受け取っただったが…)

今日は久しぶりの『レダ』神の神殿で、ゆっくりと時間を過ごしているという事も関係しているのかもしれない。


その時ふとニキアスにとって自分が『神』に祈るという行為は、『レダ』神が初めてだった事を思い出した。


 *****


生みの母が出て行ってから(ニキアスもその辺りの詳細は知らない)自分の面倒は、殆ど会った事のない実父の大公家で見てくれていたらしい。


何故なら――大公閣下の代わりなのか自分の様子を見に来る嫡男ガウディが、時折来ては、生活に必要な物品を運び入れてくれたからだ。


連絡さえすれば足りない物も補充してくれたから、真に生活に困窮する事は無かった。


ニキアスは当時自分の様な身分の愛人の子供にも援助してくれ、時に遊んでくれる義兄ガウディを心から慕っていた。


しかしまだ子供だったニキアスは、自分以外は奴隷しかいない屋敷の中で実質ほったらかしにされ寂しさを覚える事も多かった。


その後――ニキアスは事故死と聞いていたが、実父である大公家で奥方が亡くなった。


そしてそれから一年もたたない内に、大公の側妃達の邸宅に押し入った凶悪な強盗に因って、無残にも邸を焼かれただけで無く――側妃達と側妃の子供達まで命まで奪われてしまった。


不幸続きで深い悲しみに暮れた大公閣下は、元々酒に溺れていたとは言え、煽る酒量も増えて――ある日、邸の広い浴槽の中にぷかりと浮かんでいた。


当時嫡男で跡取りであるガウディが、第一発見者だった。


大公閣下は飲酒による溺死と判断された。


しかしその後まことしやかに囁かれたのは、本当に大公が跡取りにしたかったのは、側妃の息子の方だったのではないかという噂だった。


ニキアスはその噂の一つ二つを奴隷達が話すのを陰で聞いていたのだ。


大公は第二子ゼノに本当は家督を譲りたかったのではないか、それを知ったガウディが邪魔になる義兄弟共々を殺し、最終的に大公をも殺したのではないかという噂である。


実際その他の義兄弟も、次々に病死や事故死、又は母親共々行方をくらましている。


(多分…噂は真実だろう)

ニキアスは初めて会った時から光の無い真っ黒な昏い瞳の、無表情な顔をした背の高い少年を思い出した。


行き場の無い幼いニキアスは自分の邸に留まるしかなかったのだが、大公レオス家の跡取りとして就任した義兄ガウディは再びニキアスの前に現れた。


そして根拠のない噂をしていた奴隷達をいきなり皆殺しにしてしまった。


しかもその名目上は、今でもニキアスには真実かどうか分からない『(ニキアスに)与えていた財産を長期間盗んだ横領罪』という内容である。


長く自分の面倒を見てくれた奴隷らを殺され、真に独りぼっちになったニキアスを、義兄ガウディは大公宅に連れ帰って来た。


そしてニキアスにありとあらゆるものを与え、ただひたすらに甘やかし、自分の身や心をガウディに縛り付ける行為を行った。


(あの甘く苦い快楽の沼に陥る日々…)


今思い返せば――幼いニキアスは洗脳をさせられていたのも同然だった。


このまま()()()()()()()()()()()()()()なのだと。


しかし、ある日ふと思ったのだ。


このまま此処にいてはいけない。

これは()()()()いる。


自分はガウディの元を()()()()()()()()()()と。


ガウディの元を去る決心をしたニキアスは、止められるのを恐れガウディに行き先も告げず、いきなり大公宅から飛び出した。


 *****


逃げるのは、拍子抜けする程簡単だった。


悪いとは思ったが財産の無いニキアスは、義兄宅からこっそり持ち出した金品を市場で売って金に変え、街道で人の良さそうな商人の隊列に混じった。


その時のニキアスは青黒い左目を布で覆っていたが、それでも身なりの良いかなりの美童だった。


それで同情した商人達は『神殿に行って悪い左目の治癒の祈祷をしてもらう』といういささか無理のある設定の話を、大金を積まれたのもあって、あっさりと受け入れてくれた。


ただ家督を継いだ義兄上が報復若しくは連れ戻しに来るのを恐れ、ニキアスはなるべく遠くへ向かった。


街道の馬車を使って当時のゼピウス国との国境近くまで逃げのびたニキアスは、それでも長くびくびくして怯えていたが、特に何も起こらなかった。


下働きから始めた神殿での生活だったが、しばらくするとニキアスを巡って奴隷や神官の間で諍いが発生した。


くだらない争いに嫌気がさしたニキアスは神殿を転々とし、次の神殿『レダ』の神殿へと逃げた。


そこで見習い神官の手伝いを経て、運命の女性――マヤ王女に会って初めて『神』に祈るという事をしたのだ。


その後、王女の心無い言葉で再び神殿を飛び出してしまったとは言え

(全ては…マヤや『レダ』神が始まりなのだ)


だからこんなに『レダ』神の神殿で安らぎを覚えるのかもしれない――とニキアスは思っていた。


 *****


ニキアスとクラウディアはそのまま神殿の出口へと向かう階段を降りていた。


そこは階段の両端にガルデニアの樹が植えてあり、季節関係なくガルデニアの白い花が咲き続けている。

甘い香りが常に辺りに漂い、女神『レダ』神の強大で神聖な力を感じる事が出来る場所でもあった。


「あ…」

階段を降りる途中ガルデニアの樹の細い枝が、背の高いクラウディアの蜂蜜色の髪に引っかかってしまった。


「嫌だわ…取れない…」

絡まっている髪を外すのに難儀している様子を見たニキアスは、クラウディアに近づいた。


「俺が取りましょう」

「まあ…すみません。お願いいたしますわ」


ガルデニアの小さな棘の付いた枝がクラウディアの繊細な金髪に絡まっているのを丁寧に外したニキアスは、クラウディアに笑いかけた。


「さあ、取れましたよ」

「ありがとうございます…ニキアス様」


何時間にか『レオス将軍閣下』から『ニキアス様』に呼び名が変わっている。


ニキアスは一応儀礼的に微笑んだが、クラウディアはさっきよりも更に頬を染めていた。


マヤと同じ蜂蜜色の髪と碧い瞳で白皙の美貌の彼女を、ニキアスはやはりとても美しいと思う。


顔の造作や立ち姿を見れば、クラウディア=パレルモが『レダ』神の現身かと見紛う――アウロニア帝国一の美女と言われるのも頷ける。


ニキアスが接していても、気さくで賢い稀有な女性なのは間違いが無いと分かる。


けれど何故か心が動かない。


幼い頃のマヤの姿が、いつも自分の中に浮かんでは引っかかっている。


(自分が求めるのは…やはり()()マヤ王女なのだ)

と、そう改めて実感するニキアスなのだった。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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