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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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80 運命のパズルのピース ②

お待たせしました<(_ _)>

「まあ…ニキアス様…いえ、レオス将軍閣下が?」


白い神官服に身を包んだクラウディア=パレルモ神官は、下女に手伝って貰いながら丁度蜂蜜色の髪を梳かし終えたばかりだ。


身支度を済ませてこれから朝食を摂る前だったが、神官長の秘書からの報告を聞いて、朝からの来訪者の正体に驚いた。

「はい…先程馬で直接来られました。神官長様もこれから朝の拝殿と祈りの儀式があるのだが、と戸惑っておられまして」


『レダ』の神殿は、特別な日で無い限り一日中礼拝できるようになっている。


高い身分――貴族の多くは余程の事が無ければ、朝食後諸々の会議や用事を済ませてから馬車や馬でやってくる為、昼前後の時間での参拝となる事が多かった。


こんな朝の時間に来るなんてことは滅多にない。


既に神殿にいる神官長も詳細を把握していない様子だ。

「皇后陛下への書状はきちんと閣下にお渡しした筈なのだが…何か不備でもあったのだろうか」

としきりに首を傾げていたらしい。


そもそも昨日用事は済ませて、レオス将軍はとっくに首都の城へと向かっているところではないのだろうか。


(一体何の御用なのかしら…)


「…何事かあったのかしらね。それでニキ…レオス将軍閣下は、どちらにいらっしゃるの?」

「はい。本日はお約束をしていないのでお待ちいただくかもしれないと、応接間の方へとご案内しております」


「分かりましたわ」

クラウディアは神官の言葉に頷いた。

「わたくしが対応致しますと神官長にもお伝えなさい」


取り敢えず身支度を終えたクラウディアは、鏡の前でいつもより入念に自分の姿をチェックすると、神官用の白いマントを被ってニキアスの待つ応接間へと向かった。


 *****


『レダ』神の神殿の応接間は、皇宮並みに広く豪華であった。


壁には農耕を中心とした鮮やかなタペストリーや、樹々や花々の美しいフラスコ画がふんだんにあしらわれている。


富を表すような金で出来た細かな装飾の付いた家具や、真っ白い大理石の祭壇の細工はいかにも手が込んでいて、貴族等の寄付や援助する財力の多さを表していた。


「お待たせして申し訳ありません、レオス将軍閣下」


クラウディア=パレルモ神官が応接間に足を踏み入れた時、ニキアスは座って待っていた。


何か考え事をしている様子だったが、クラウディアの姿を見ると直ぐに立ち上がり、礼をした。

「朝早くから申し訳ない。約束もしていないのに早く対応してくれたのに感謝する。皆の手が空くまで待っているつもりだったのだが…」


「お気になさらず…それにレオス将軍閣下をお待たせするなんて出来ませんわ」

「しかし…たしかこの時間は朝の祈りの儀式があっただろう」

「まあ、その通りですわ、レオス将軍閣下。流石によくご存じですのね」


「いや…その…」

クラウディアとしてはニキアスは『ドゥーガ』神を信仰していると聞いていたので、他の神殿の儀式をよくご存じだとストレートに褒めただけで、嫌味でも無かったのだが――ニキアスはかなりバツの悪い表情を浮かべていた。


クラウディアは微笑むと、ニキアスの向かいの椅子へと優雅に座った。


そのまま部屋にいた神官へお茶の準備を頼みながら

「それで…今日はどういったご用事でいらっしゃったのでしょうか?」

と尋ねた。


「いや、その…」

クラウディアに続いて椅子に腰かけたニキアスは、一瞬言いにくそうに口ごもった。


その様子を見たクラウディアはほんの少し驚いていた。


(まあ…本当にどうなさったのかしら)

今日のニキアスは鎧は装着せず、ほぼ私服に近い恰好であった。


腰丈のチュニックに馬に乗る為なのか、アウロニアの市街地では珍しいブレーと呼ばれる珍しいズボンを履いている。


鎧やきっちりとしたトーガを身に付けている時とは異なり、黒髪を緩くまとめ農夫や騎馬民族が履くようなブレーを身に付けているニキアスは、美しく整った容貌は変らないのに、何処か素朴であった。


ただ昨日と較べると大分砕けた格好だったのに対し、ニキアスの表情は曇りがちで歯切れも大分悪い。


「…申し訳ないが、実は何故ここに来たのか、自分でもはっきりと分かっていないのだ」

「それは一体どういう…?」


「…何といったらいいのか、自分でももどかしいのだが…」

ニキアスはスッキリとしない表情を浮かべたままクラウディアに説明をしようとした瞬間――。


キュルキュルと小さな音が聞こえた。


「…?…」

(何の音かしら)

ニキアスとの会話に集中していたクラウディアは、訝し気に辺りを見渡した。


再びキュル…と音が鳴ったのと同時に、真向かいのニキアスが大きな手で顔を覆っている。


よく見れば形の良い耳朶が、ほんのり赤く染まっていた。


可愛らしい音を立てた主は顔を覆ったまま

「急いできたので…水しか飲んでいないのだ……無作法で済まない」

と掠れ声で言った。


クラウディアは声を上げて笑いそうになるのを必死で我慢した。


目の前の図体の大きな男が可愛らしいお腹の音を鳴らしたのは可笑しかったが、それよりも

(取るものも取らずに急いでこちらに来たのね)

と恥ずかしそうなニキアスへの同情の念が湧いたからであった。


「…お気になさらず、レオス将軍閣下」

クラウディアは澄まし顔で言った。


「実はわたくしも朝食がまだですの。宜しければ御一緒にいかがですか?」


 *****


最初は辞退していたニキアスだったが、クラウディアがその場に居た神官へ二人分の朝食を運ぶように伝えると諦めた様に座り直した。


クラウディアはその様子を見て微笑みながら

「では朝食が来るまでの間、将軍閣下のお話をお聞かせ願いますか?」


ニキアスは少し間躊躇っていたが、部屋に残った下女や奴隷達が朝食を持ってくる準備をし始めると、観念した様に話し始めた。


「…馬鹿馬鹿しいと自分でも思っているのだが、実は…」

この神殿を出てからの記憶が大分曖昧で、何故か『この神殿に再び来なければ…』と副官であるユリウスに言った事も覚えていない事。


夢に『レダ』神に似た女が頻繁に表れ、嫌な夢だった事は覚えているのに、その夢の内容を覚えていない――との内容を、少しずつだが話し始めたのだ。


「今日ここに来たのは…昨日ここを訪れた時に、何か…自分の様子がおかしくなかったかを確認しに来たのだ。その時の原因があるのならば、何か…手がかりが見つかるかもしれないと思ったのだが...」


丁度その時、下女と奴隷達がフルーツやパン、ヤギのチーズの乗っている皿や粥の入っている壺を持って部屋へと入って来た。


神官がニキアスの前に次々に朝食の皿を置いていくが、自分の考えに浸っているニキアスは気が付かない様子だった。


ニキアスの話を聞くには聞いたが、神官クラウディアにもその夢の意味は全く分からなかった。

そもそも何故『ドゥーガ』神の信者のニキアスが、『レダ』神の夢も見るのかも意味不明だった。


(残念だけど…将軍の仰っている意味が全く分からないわ…)


クラウディアは朝食用の軽めのワインを飲みながら、話しを聞く限り自分が協力出来そうな事は何も無さそうだと考えていた。


ただ不思議な事だが――貴重な朝の祈りの時間を割かれたとしても、クラウディアはこのニキアスとの時間が無駄だとも思わなかった。


物思いに沈む絵画の様なニキアスの姿をクラウディアはじっと見つめていた。


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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