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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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78 神の誤算 ③

お待たせしましたm(__)m

 

遠くで微かに雷鳴が聞こえていた。


『レダ』の大樹は、その枝をザワザワと揺らしていた。

未だ若々しい葉がハラリハラリと雨の様に下へと落ちて行く。


湖面に次々に降り注ぐ葉は、その鏡の様な水面に吸い込まれる時に幻の様に消えていった。


「何故なの...マヤ」

『レダ』神は自分の娘(マヤ王女)を見下ろしながら、ぽつりと呟いた。


女神の足元にはアウロニア帝国の皇宮の一部がぼんやりと広がっている。


そこにはアウロニア皇帝ガウディに優しく抱えられ、自ら腕を回してその首元に顔を埋めるマヤ王女の姿があった。


アウロニア帝国の皇宮――特に皇帝ガウディ=レオスの常在する場所は、死の神『ヴェガ』神の地下神殿の真上にある。


そこはいくら『レダ』神でも簡単に自らの力の及ばない場所だ。


『預言者』(『レダ』の娘)でありながら...私を裏切るというの...?」


『レダ』神の『預言者』の代表者とも言えるマヤ王女に対し問いかけた言葉は決して届く事は無かった。


「折角生きる機会を与えたというのに…何故今になって…」


 *****


『ヴェガ』神の神殿にある秘密の書斎で、女神『レダ』が偶然見てしまった『亡国の皇子』は、いわゆるザリア大陸の運命が綴られている『終わりの書』であった。


大陸全土を巻き込む諸国同士の争いと共に、強大なアウロニア帝国の滅亡が描かれており、同時にそこに生きる人々等の信仰する七兄弟神の信仰の衰退や消滅、そして全く異なる新しい神の誕生が描かれた、長い長い物語でもあった。


最初女神(『レダ』)がその書を見た時、俄かにその内容を信じられなかった。


しかし当時の彼女の恋人――死と終りを司る『ヴェガ』神が、その書を自ら大切に保管して『レダ』には決して見せようとしなかった事から、その書に描かれた未来が起こり得る可能性を知った。


そして『ヴェガ』神が、このまま黙って兄弟神共々この大陸から消えゆく事を許容している事も知った。


それが『ヴェガ』神の真の心と知ると、『レダ』の中でじわじわと疑念と怒りが燻ぶり始めたのだ。


元々『星』自体に子を成すという概念は無かった。

けれど長らくここで生物の営みを見守り続けてきた『レダ』神にとって、この大陸は我が子同然でもあった。


自らの信仰や力が大地から、そして人々から必要とされなくなる事は、女神にとっては何事にも変えられない苦しみだったのである。


『レダ』神は、この結末を大人しく受け入れる『ヴェガ』神をも理解できず――結局恋人の元を去った。

 

 *****

 

しかしその時だった。


『レダ』神は、このまま終わりを迎える事を拒む『メサダ』神と『コダ』神がお互い手を取りあいあろうことか、二神のとって都合の良い未来の結末へと書き変えようする企みを知ってしまった。


二神の計画――偽りの『亡国の皇子』つまり『メサダ』の書の存在を知った後、『レダ』神はそれを逆手に取る事を考えた。


その肝となる存在のひとつが、自分の『預言者』()マヤ王女の存在だ。


実は元の歴史(『亡国の皇子』)の中では、ゼピウス国侵略の戦争時にマヤ王女とニキアス将軍は()()()()()()()()()


婚約を知らされた時に出会ったのが最後に、そこから二人の運命は完全に分れていた。


彼女は、()()()()()()()()()()()()()()に、あの閉じ込められた塔の小さなバルコニーから()()()()()()()()()()()()()()()


ニキアス将軍がマヤ王女に最後に会った姿とは、閉じ籠られていた高い塔からの身投げする姿であった。


本来であれば真実の『終わりの書』――『亡国の皇子』では、ゼピウス王国の滅亡と共に『()()()()』は()()()()()筈なのに、何故『メサダ』の書の上ではマヤ王女が生きてニキアス将軍に出会えたのか。


それは登場人物として重要であるニキアスとガウディの間に決定的な亀裂を入れる為に、『メサダ』神と『コダ』神が仕組んだ計略であった。


つまり『メサダ』神と『コダ』神の計画に因って、マヤ王女は生かされたのである。


「だからこそ...あの時に死ねなかったというのに...」

女神『レダ』は小さな声で呟いた。


身投げしたマヤ王女の後継者、次の『レダ』神の『預言者』は、アウロニア帝国の『レダ』神の神殿にいる女神官クラウディア=パレルモだった。


しかしマヤが身投げした時点で、クラウディア=パレルモとニキアスの間に全くの関係性は存在しない。


ニキアスと女神との関係が経たれてしまう恐れた『レダ』神は、敢えて()()()()は二神の計画を知りながら、その企みに乗った。


そして生き延びたマヤ王女を使って、ニキアスを誘惑させたのだ。


()()()()()()()()()()()り重要人物のひとり――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に。


「成功したと思ったのに…結局パレルモを出すしかないとは…」

『…運命は何てままならないのかしら』と女神は絶え間なく葉が降ってくる『レダ』の樹にもたれかかりながら呟いた。


『レダ』神の真の目的は、この大陸の七兄弟神の信仰を不動のものにする事。


そしてニキアスを使って自分の『娘』と番わせ、アウロニア帝国をザリア大陸で永遠なものにする事だった。


そしてかつては『レダ』神の娘だった…今ここに存在する『マヤ王女』とは、『メサダ』神や『レダ』神に因って運命を歪められた――本来は死んでいた筈の女、この場に()()()()()()だった。


 *****


女神は我が娘に囁き声で問うた。

不思議でならなかった。


「何故なの…?教えて」

何時の間にかマヤとガウディはぴたりと寄り添う様に立っている。


マヤの手は自然とガウディの頬に伸ばされ、ガウディはマヤを抱き寄せて、その指先は王女の唇をそっとなぞっている。


その姿は遥か昔、若かりし女神がそうやって寄り添って『ヴェガ』神と過ごした日々を思い出させた。


「…あんなに…ニキアスとの関係をお膳立てをしたはずなのに…」


何故マヤ王女は、あんなに無防備にガウディに身を預けているのだろう。


故郷ゼピウスを侵略する様に命じた張本人に。


非道にもアウロニアに来たばかりマヤの身体を奪った男に。

自分と自分の愛する相手を心無く引き裂き、預言者の資格を取り上げ愛人に貶めた男に。


「どうしてガウディを…『ヴェガ』神を受け入れられるの...?」


女神はただそこに佇んで二人をずっと見つめていた。


(私には…出来ない)


『ヴェガ』神と共に過ごした在りし日の幸せな記憶が、今なお『レダ』神を苦しめていた。


「教えてマヤ...出来ないの…どうしても…」

その囁き声には、女神の悲痛な叫びが込められていた。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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