70(幕間)友人 ②
お待たせしましたm(__)m
ガウディ=レオスは自分の寝室で目を覚ました。
(ここは…)
見慣れた寝台の風景に違和感を覚えてゆっくりと起き上がる。
一瞬ぐらりと目眩に襲われたが、そのまま周囲を見渡した。
「おお…陛下。良かった、安心いたしました。もうずっと目覚めないのでは無いかと、このドロレス、心底心配いたしましたぞ」
寝台の隣に椅子を置いて座っていたドロレス執政官は、ふくふくとした指で目尻に浮かぶ涙を擦った。
「ドロレスか」
「大変良くお休みになられておりましたな。お身体のご様子は如何ですか...」
「…今は特に何も無い。それよりも余は何故ここにいる?余を運んだのは...お前か?」
「ご心配なく、私でございます。陛下はなんとも至らない愛人のところで倒れたのです。何かあってはいけないと、こちらのお部屋に直ぐにお連れ致しました」
「ドロレス...余はマヤ王女のところに居た筈だが。王女はどうした?」
「ご政務は会議も含めて後日に予定を組み直しております。どうぞ今日はこのままごゆっくりとお休み下さい」
「ドロレス...」
ガウディはじっと無表情のままドロレス執政官を見つめた。
暫く黙っていたドロレスだったが、ガウディに何度か云われしぶしぶと話し始めた。
「ええ、ええ…分かりました。彼女は今...地下牢にいます」
「地下牢?何故だ?」
「ちゃんと独房に入れる様に衛兵には伝えましたよ」
「ドロレス。理由を云え」
苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべたドロレスは
「陛下。今回あの女狐…いえ娘には、陛下のお身体の変化に何らかの形で関わった嫌疑がかかっております。元々陛下は夜お休みの時でも短時間の睡眠でいらっしゃいますし、出先であんなに意識が無くなる程昏々と眠った事など未だかつて無かったでしょう。
陛下の知らないところで密に何かしらの…得体の知れないモノを飲食に盛られた可能性も否定出来ません」
ガウディはドロレスを少し見つめると小さくため息を吐いた。
「そんな間抜けな真似をするか。今回の余の眠りとあの娘の行動に何ら関係はない。エシュムンに『一粒だけ』と言われていた丸薬を、余が余計に飲んだだけのこと」
ドロレス執政官とガウディ皇帝の間に恐ろしい程の沈黙が落ちた。
「なんと...とうとう。そんなに症状が進んでいるとは...。何故私に伝えて下さらなかったのか...」
ドロレスが悲痛な声を上げた。
「...お前は余の身を過剰に心配するのが、ちと鬱陶しいのだ」
「なんと...臣下が君主の身を案じるののどこがいけないのですか?」
「そういうところだ」
ガウディはあっさりそう言うと、寝台から降りて寝巻きに室内履きのまま、スタスタと部屋の出口へと歩き出した。
それを見たドロレスは慌ててガウディの前に立ちはだかった。
「何処へ行かれます、陛下」
「地下牢だ」
「いけません…!せめてエシュムン様が来るまでお待ちください」
「もう何ともないと言ったぞ」
「陛下いいですか、お聞きください。皇宮付きのレダの預言者を止めた今、あの娘は数多くいる愛人の一人でしかありません。他の側妃・愛人等と同等に扱わねば、皇宮内から不満が出ます。しかも元敵国の王女だという事もあって、もう既にちらほらその声が聞こえ始めているのです」
ガウディはいやに真剣な表情で訴えるドロレスを見下ろした。
少し考える表情をした後、
「成程…黒幕はヨアンナか」
と言って呟いた。
ドロレスは慎重に言葉を選びながら言った。
「…皇后陛下は愛はいらなくとも地位には固執するお方だと…ご存知ですよね。彼女はあの娘の寵愛がされいずれ子供を…男児を生むのではないかと、警戒しております。皇宮内は彼女の力の強く及ぶ処。娘がレダ神の力を未だ持っていたとしても……」
「…まあ、危険ではあるか」
ガウディは小さく薄ら笑いを浮かべた後真顔になった。
「その通りです。下手をすれば、陛下の御身にまで…あ、駄目ですって。お待ちください」
ドロレスの言葉に納得したかと思いきや、ガウディは今までの会話が無かったかの様に、またスタスタと歩き始めた。
「お待ちください。どうしてもであれば…せめて代わりの家来に迎えに行かせます故…」
ガウディはぴたりと足を止めた。
そして珍しく穏やかな表情を浮かべたまま、しがみ付く様に後を付いて歩くドロレスに言いきかせる様に話し始めた。
「ドロレス。お前にも何度か言っているが、余は物語の中の『アウロニア帝国の皇帝』という一片に過ぎぬ。ここまで進んでいれば、例え今物語の途中で余が倒れたとて『亡国の皇子』は止まらぬ」
「陛下…」
ドロレスはぶるぶると唇を震わせ下を向いていた。
「そんな事を仰ってはいけません、陛下…」
その姿にかつて義弟ゼノを殺すために屋敷に忍び込み、ガウディの前で夾竹桃の枝を握り締めていた少年が重なった。
「…そしてその役目ももうすぐ終える。ドロレス、お前をただの臣下だと思った事はない。13の歳にお前に出会い、皇帝の地まで上り詰めたのは『ヴェガ』の力だけでなく…お前とエシュムンの手助けがあってのこと」
「陛下…」
皇帝ガウディ=レオスは半泣きになって立ち尽くすドロレス執政官に、彼等が出会ってからはじめての頼み事をした。
「友よ、行かせてくれ。皇帝として埒外の行動はこれで最後にすると約束する」
お待たせしました。m(__)m
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