23 レダの加護において ②
なかなか更新できなくてすみません。
時折泥とぬかるみに足がはまってしまいそうになりながらも、わたしは必死に歩いてニキアスについて行った。
息が切れて苦しかったけれど、ニキアスへ手を引いてもらい何とか土砂の流れから逃れる場所に来られたらしい。
いきなり魔法が消えた様に、不気味な音を立てながらまた泥の津波が麓へと流れて行くのをわたしは呆然として見た。
木々が折れ割れながら元に流れ落ちて行く大量の泥を見下ろしてから、樹々が倒れ少し剥きだしになった山肌を見上げる。
(これは…)
「ニキアス…早く此処を離れましょう。これはまだ序盤の様だから…」
わたしはニキアスを振り返って彼へ伝えた。
ニキアスはわたしに尋ねた。
「――どういう事だ?これで終わりではないのか?」
「ええ。まだ終わりじゃないと思うわ…」
わたしは小説の文章を思い出していた。
(ええと、確か小説では…)
『その山のシルエットを変える程山肌は深くえぐれ、それは稀にみる程の土砂崩れの規模を表していた』
と書いてあった。
ニキアスへ説明しようとした瞬間、また地面が揺れた。
ほんの僅かだけど数秒間ゴゴ…と音を立てて地面が上下したのだ。
また土砂崩れかと思ったが、見た感じでは土が崩れる様子は確認出来ない。
(え?…嘘でしょう?…まさかこのタイミングで地震が起こったの?)
幸い私たちの所では再び土砂崩れは起こらなかったけれど、コロコロと小石がまた転がってきた。
(――イヤな予感しかしないわ)
時折不気味な地鳴りを鳴らす山をわたしは青ざめながら見上げた。
「行こう、マヤ」
ニキアスはわたしの顔を見ると直ぐにまた手を取って引いていった。
******
ニキアスと土砂崩れの起こった場所を迂回しながら避難して歩いていると、何処からか動物の鳴き声がしてきた。
どうやら動物の…犬の声のようだった。
「キューン…、キューン」
甲高い子犬の様な声だ。
「ニキアス…少し待って下さい。犬の声が聞こえますわ」
わたしはそう声をかけたけれど、前へと進む事しか考えていないニキアスは
「数匹土砂の下敷きになっているのかもしれんな」
とその声を無視して先にどんどん進もうする。
わたしはニキアスの泥だらけのマントの端を掴んだ。
「ニキアス。ね、ちょっと待って…」
「そんな猶予は無い」
「もう…」
どんどんと先へと進もうとするニキアスをその場に置いてわたしは犬の声のする方に足を運んだ。
するとやっとニキアスは大きく舌打ちして足を止めた、
声のする方向は木々が倒れている。
どうやらその下敷きになって横たわる動物がいる様だ。
さっきからキュンキュンと鳴いているのは下敷きになっている動物ではなくその近くで鳴いている子犬だった。
「あっ…!」
木に潰されているように横たわっているのは、先ほどの犬の集団の大きなリーダー犬だった。
白っぽい銀の毛並みの大きな身体の後ろ脚には、大きな木の枝が貫通している。
白い毛並みはその部分だけ赤く染まっていた。
どうやら起き上がろうとしても、樹の枝が邪魔して上手く動けないようだった。
わたしの姿をみると大きな犬は半身だけ起き上がって、歯を剥いて威嚇してきた。
わたしは犬に向かって手をそっと伸ばした。
「ーーガアァッ!!」
まるで(触るな!)と言っているかのように、犬は牙を剥き出しにして吠えたが、倒れた樹の枝が後ろ脚を楔の様に固定しているので動けないのだ。
「マヤ!」
後ろからニキアスの声がした。
彼はわたしの後ろを追いかけてきたようだった。
「こいつらにまた襲われると厄介だ。今の内に行こう」
ニキアスはちいさく震えながら、ずっと威嚇して吠え続ける仔犬を見下ろして言った。
******
わたしはニキアスを見上げていった。
「ニキアス…」
「ダメだ、マヤ」
「お願い…ニキアス。お願い…」
わたしの懇願する声に諦めたのかニキアスは明後日を向いて盛大なため息をついた。
「…どうするつもりだ?まさか助けるつもりじゃないだろうな?」
わたしはニキアスへ頷いて言った。
「そのつもりですわ。だから…手を貸してほしいの」
ニキアスはわたしの言葉を聞くと無言で目を瞑り、苦虫を噛み潰した様な表情をした。
(多分この犬には分からないだろうけど)
わたしはニキアスの反応に構わず、今度は倒木の下敷きになっている犬へと振り返って言った。
「助けてあげたいの。威嚇しないでくれる?」
下敷きになっている犬はわたしをしばらく見つめていたが、諦めたように目を瞑ってゴロリと横たわった。
「…ありがとう。かなり痛いと思うけど頑張ってね…」
わたしはまだ近くで威嚇している仔犬に向かっても呼びかけた。
「あなたの親かしら?…分からないけれど。とにかくあなたの仲間をわたしは助けたいの。怒らないでいてくれる?」
唸るのは止めたが、毛を少し逆立てている仔犬に向かって、わたしはゆっくりと少しずつ手を伸ばした。
「いい子ね…」
よく見ると親犬に似て白銀の毛並みをした子犬は、金色の不思議な目の色をしている。
「さあ…いい子ね。落ち着いて。あなたを撫でさせて…」
すると仔犬は、最初指先が触れた時にビクっと身体を揺らしたけれど、徐々にその緊張を解いていったようだった。
そして軽くわたしの手の匂いを嗅ぎ、そのまま静かに頭を少し撫でさせてくれた。
金色の瞳で見上げた仔犬は、わたしの手の平を少し舐めるとフルっと尻尾を振って、倒れている親犬の頭側の方へ走っていった。
お待たせしました。
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