67 女神のククロセアトロ ⑤
R15 ・BL・近親相姦要素内容あります。
嫌な方はお気をつけ下さい。
ニキアスには、寝落ち寸前の副官ユリウスが一体何の話をしているのか、さっぱり理解出来なかった。
しかしふと思い出した。
(そう言えば…以前にも同じような事があった)
先日まで居たゼピウス国での事である。
何時の間にか、元ゼピウス国の高官クレメンスの部屋に自分がいた。
『いた』というか『いつの間にか移動していた』のだが、クレメンスと会う約束をしていたかも曖昧で、実際面会場所へと向かった記憶が無い。
ニキアスは隣の寝台に眠るユリウスを見た。
もう16歳だと云うのに、ユリウスはあどけない寝顔で寝息を立てて眠っている。
ユリウスの残した言葉が気になって仕方が無かったが、流石に可愛らしい寝姿の副官をわざわざ起こしてまで訊く気にはなれなかった。
明日朝に確認しようと考えたニキアスは、音を立てない様にそっと隣の寝台に横になった。
(...眠れない)
小さな寝台の上で、何度か寝返りを打ちながら一応目を瞑ってみたが、本当は眠りに落ちる事を恐れてもいた。
(また…悪夢を見そうだ)
その予感は的中した。
*****
ニキアスは何処かの場所に立っていた。
ここ最近見る夢のひとつだと、直ぐに分かった。
目の前が薄っすらと明るく光り、その光の中二人の男女が睦みあっている。
小柄な女が発する喘ぎ声には聞き覚えがあり、鞭の様に細い身体付きの男は、ニキアスが良く見知った人物に似ている。
女は男の身体の上に乗っていた。
ただし、その女は横たわる男の足の間に顔を埋めているためか、顔が見えなかった。
蜂蜜色の長い金の髪が艶やかに光りながら、上下に激しく揺れている。
殆ど顔は見えないのに、それに吸い付く唇が出す湿った吸引音は、ニキアスの耳にもはっきりと聞こえた。
(止めてくれ)
豪華なクッションが山のように積まれ、そこに寄りかかるようにして横たわる男は、女の少し紅潮した白い尻を抱え込む様にして顔を埋めていた。
男の顔も見えなかったが、ニキアスは直ぐにその男の正体が判った。
その長身と鞭の様な筋肉のついた裸体に見覚えがあったのだ。
(止めてくれ)
(もう)
男は細長い筋肉の付いた手で、女の丸い尻を撫でたかと思うと『パシン!』と音を立てて叩いた。
女の身体がビクリと震え、薄桃の皮膚にうっすらと赤い花の様な跡が広がった。
驚きの声を上げた女が仰け反った瞬間、蜂蜜色の髪の隙間から女の顔が見えた。
(マヤ…!)
アウロニア帝国に残してきた恋人マヤ王女だった。
マヤは振り返って男の方を見た。
あんな風に豊かな髪を掻き上げながら、クスクスと悪戯っぽく笑うマヤの表情を、ニキアスは今まで見た事が無かった。
クッションの影から細く筋肉のついた長い腕が伸びた。
『アウロニア帝国』の紋章の入る指輪を付けた男は、その指先でマヤの頬を撫でた。
男の手の成すがままに心地良さそうに目を閉じたマヤは、この上なく幸せそうに見えた。
男はマヤの唇に親指でそっと触れた後、彼女の華奢な肩から腕へと滑らかに手を沿わせそのままマヤの手を取った。
そのまま男と指を絡ませ合ったマヤは、再び男の身体に乗り、足の間にくっきりと屹立するモノの上に躊躇する事無く腰を下ろした。
蜂蜜色の髪を振り乱しながら、マヤは歓喜の声を上げ始めた。
(止めてくれ…!もうこれ以上は見たくない)
男の上で自ら腰を振る白い身体を目の前にして(夢だ)と頭では分かっているのに、ニキアスは思い切り叫んだ。
(止めてくれ!マヤ!!)
その瞬間、あの黒い炎がメラメラと一気に自分の中で燃え上がる。
それに呼応するかのように、目の前に繰り広げれる痴態の映像も一気に黒い炎に包まれた――。
かと思うと、いきなり辺りがすうっと真っ暗になった。
(消えた…?)
ニキアスはまたひとり闇の中に立っていた。
(いつもの夢だったのか…)
只の悪夢かと安堵の息を吐いた時、ニキアスの真後ろから耳元に囁く様な女の声が聞こえた。
『ニキアス…』
*****
ニキアスはハッと後ろを振り向いた。
そこにはマヤが立っていた。
(マヤ…?)
先程の――裸体のままで、淫らに男の身体の上で腰を動かしていた時とは全く様子が異なっている。
きっちりと襟の詰まった神官服を着た彼女は、白い身体を覆う様なマントを羽織っていた。
『ニキアス…わたくしを愛してる?』
小首を傾げながら、マヤは可愛らしくニキアスに尋ねた。
「…愛している」
ニキアスはそう返した。
勿論そうだ――神にも誓ったのだ。
『本当に?』
『本当に…わたくしを愛しているの?』
目の前にいるはずなのマヤが、遥か遠い存在に感じたのは何故なのか。
「勿論、愛して…」
言いかけたニキアスの言葉を遮る様に、マヤはまた小首を傾げた。
『...でも、変ね?おかしいわ。だって、ほら…』
白い神官服を着たマヤがスッと腕を上げて、ニキアスの後ろを指差す。
『…見て。何故貴方があそこにいるのニキアス?』
マヤの細い指に導かれる様に後ろを振り向くと、そこには今よりもずっと若かりし日のニキアスの姿があった。
*****
『何故あそこにいるの?』
そこにいたのは確かに16歳のニキアスだった。
先程のマヤと同じく、寝台に横たわっている鞭の様な男の身体の上に乗っている。
その光景を見てニキアスの顔から血の気が引いた。
(あれは…)
長い黒髪を揺らしながらあの男の上に腰に乗っている姿は、先程のマヤの姿が重なってしまう程そっくりだった。
ギシギシと激しく寝台が軋むほどの音を立てながら、青年になりつつある時期に『ドゥーガ』の神殿で鍛えた身体は、絶頂を迎える前にうっすらと汗ばんでいた。
指輪をした男としっかりと指を絡め、獣の様な声を出して男の上で快楽に腰を動かすニキアスは、自分でも嫌悪感を抱くほど恍惚とした表情を浮かべていた。
「止めてくれ…」
ニキアスは小さく呟いた。
(あれは…)
あれは俺の意思では無い。
(――義兄上の命令だった)
(あの時の俺にはどうしようも無かった)
これは――忌まわしい記憶だ。
いっそ忘れてしまいたい、思い出したくない記憶。
「止め...」
思わず頭を抱えたニキアスの背後から、同情を滲ませたマヤの声が聞こえた。
『いいのよ、ニキアス。わたくしには貴方の気持ちが良くわかる…』
『可哀想に…貴方の所為じゃないわ』
『あの男には誰も逆らえない。誰も貴方を責めたりしない』
『貴方は…悪くないのよ』
『ニキアス…わたくしを見て』
マヤは手を伸ばすと、蒼白になったニキアスの手をいたわる様にそっと取った。
『貴方は悪くない…全ての原因は別にあるの…』
マヤはその白い顔に『預言者』に相応しい清らかな微笑みを浮かべた。
海の様に碧い瞳が揺らめき、花の様な唇から漏れる息からは、何故かガルデニアの濃厚で甘い香りがする。
『わたくしも貴方も…あの男の所為で幸せになれないの。愛しいニキアス…分かっているでしょう?』
ニキアスの中でマヤの声は――まるで頭の芯から痺れさせる甘い毒の様に響いていた。
お待たせしました。m(__)m
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