56 新たなるレダ神の預言者 ④
大変お待たせしました…(m(__)m)すみません
「素敵な人…]
アウロニア帝国の首都ウビン=ソリスのレダの神殿に夕陽は既に落ちて影が伸び、見上げた空には薄闇が広がっていた。
皇帝の宮殿が見える窓辺でひとりしばらく佇みながら、クラウディア=パレルモは小さく呟いた。
「あんなに完璧な男性がいるなんて…不思議ね」
艶のある蜂蜜色の髪は一纏めにされてあり、その形の良い小さな耳の上には甘い香りを放つ小さなガルデニアの花が挿してあった。
所在無げにウロウロと歩きながらクラウディアは雲一つない夜空を見上げた。
彼女の高鳴る鼓動と呼応するかのように小さな星々がチカチカとはっきり瞬いている。
『あの男こそ――お前の運命の男です』
女神レダの美しく慈悲深い声がクラウディアの頭の中に響き渡った。
クラウディアは独り言ちた。
「こんな風な…運命の出会いがあるのだわ…ニキアス様」
*****
「クラウディア…内密に対応して欲しい客人が神殿に来られた。この皇后陛下への書状を皇宮に持って行くように渡してもらいたい」
クラウディアは下階級の神官への講義を終え、これからレダ神へと午後の祈りを捧げようとしていた矢先、何故か突然の来訪者の出迎えと神殿内の案内を含めた対応をするよう神官長に命じられたのだった。
「まあ…わたくしが、でございますか?」
(一体何故?)
訪問者に対応する神官は他にたくさんいるというのに――と思わず漏らしそうになったが、クラウディアは堪えた。
神官長直々の命では致し方がない。
クラウディアは渋々了承をした。
「…承知いたしました。してどなたが来られるのでしょう」
「ニキアス=レオス将軍閣下が参られる」
「まあ…では急ぎ準備してお迎いに上ります」
クラウディアはそう言うと神官用の白いフード付きマントをサッと羽織り、
(お祈りは後ね…申し訳ありません、レダ神様)
と心の中で呟きながら訪問者一行の元へと足早に向かった。
(レオス将軍様がわざわざ…何故この神殿に?)
クラウディアに当然のごとく疑問が湧いた。
――ニキアス=レオス将軍と言えば、世事に疎いクラウディアでもその名前は知っている。
若くして武人として誉高く功績も着々と上げ
(アウロニア帝国皇軍『ティグリス』の将軍で皇帝陛下の義弟君に当たるお方でもあるわ)
帝国の四つの皇軍がそれぞれ――今回空で起こった珍しい『皆既日食』による民衆の不安の軽減を治め、それに乗じた混乱が起きない様に各地に派遣された事は、レダの神殿内でも参拝者の間で持ちきりの話題でもあった。
(確か…将軍はレダ神の信者では無かった筈だけど…)
いつどこからアウロニア帝国に帰ってきたのだろうか、クラウディアは知らなかったのだが、なんとその件の将軍が――数人の供も連れていきなりこの首都ウビン=ソリスのレダの神殿を訪れたのだ。
そして神殿の入口にある階段の下まで降りると、クラウディアはフードを外し、目の前の訪問者一行へと優雅にお辞儀をした。
「こちらの神殿にわざわざご足労頂き…ありがとうございます、レオス将軍閣下」
彼女の前には簡易的な鎧を身に纏う数人の従者と共に、完璧な容姿を持つ黒髪の美丈夫が立っている。
彼はクラウディアを虚を突かれた様に見つめていたが、直ぐにその目線を反らせた。
「そんな…似ている…」
鎧を着た美丈夫の隣に立つ線の細い淡い金髪の青年も小さくそう呟くと、少し驚いた様にクラウディアをじっと見つめて、そのまま隣のレオス将軍を仰ぎ見た。
(…何かしら?)
その態度を不思議に思ったクラウディアは、ちらりとニキアス=レオスを見上げた。
女性にしてはかなり長身な部類であるクラウディアだが、それでも目の前のニキアス=レオス将軍は少し見上げる程背が高かった。
「いや――神官殿、突然こちらの神殿を訪れた事をお詫びする。忙しい中…手間取らせて済まない」
明らかに取り繕う口調ではあったけれど柔らかにそう言ったニキアス=レオス将軍は、クラウディアに対し優美な所作で挨拶を返した。
「…ではこちらが神官長様に頂いたものでございますわ。このままどうぞ皇后さまへお渡し頂く様にお願いいたします」
クラウディアはレダの神殿の印の付いた書状を、レオス将軍に向かって両手で差し出した。
ニキアス=レオス将軍は手を伸ばして受け取ろうとしたが、途中でハッとした様に手を止めた。
「…ユリウス、受け取ってくれ」
「分かりました、ニキアス様」
傍らの淡い金髪の少年に頼むと、レオス将軍はそのままクラウディアから距離を置く様に後ろに下がった。
*****
(何だか避けられているみたいだわ)
レオス将軍はいまや心なしか目線を反らす様にしてクラウディアと会話をしていた。
「いや…神殿内の案内は結構だ。これ以上の長居は迷惑になる。私は直ぐに皇帝陛下の元へと戻らねばならぬ」
別れの挨拶を手早くしたレオス将軍は、そのままさっと踵を返して数人の供と共に神殿の出口方向へと向かおうとした。
すると傍らにいた淡い金髪の少年だけはその場に残り、少し興味深そうに目を輝かせてクラウディアに質問をした。
「いや、失礼になったら申し訳ないのですが…やはりその、信仰が深いと神官の方もまた…女神様の様にご容姿が似るものなのでしょうか?」
「ユリウス行くぞ。我等の用事は済んだのだ」
声を掛けたレオス将軍の方にサッと振り向き、ユリウス少年は悪びれもせずに続けた。
「しかしニキアス様…こんなにレダ神様に似たご容姿の方そうそういらっしゃるものでは有りませんよ。マヤ様以上に…」
「ユリウス…!」
少し咎めるようにレオス将軍は遮った。
――マヤ様?
クラウディアにはその珍しい異国風の名前は何度も耳にした事があった。
何と云っても神官長が悔しそうに何度も口にした名前でもあったから。
『もう少しで…元老院へとお前を推薦する事が出来たのに。あのマヤ王女…異国から来た売女がまんまと陛下を騙して皇宮内に入り込んだのだ』
『あの女が帝国付きのレダ神の『預言者』に成りあがった所為で、レダ神様は嘆いておられる。我が国に相応しい人物こそがあの地位に就くべきなのに』
この淡い金髪の少年――ユリウスが語っているのは、
(…多分だけど…)
――『ゼピウス国第二王女 マヤ姫』に違いない。
クラウディア=パレルモ神官は何故かそう確信を持った。
お待たせしました。m(__)m
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