53 皇后ヨアンナの事情
大変お待たせしました<(_ _)>…ちょっとR15です。
苦手な方お気を付けください。
ドロレス執政官は一際大きく豪華な細工の施された扉の前に到着した。
ヨアンナ皇后の部屋は皇宮内にある個人の部屋の中で何処よりも豪華な造りになっている。
衛兵達が扉の両隣をしっかりと警護しているが、ノックをしようとした瞬間、岩の様に屈強そうな衛兵が執政官に小さく声を掛けた。
「ドロレス様…申し上げにくいのですが…今皇后様は手が離せない状態でいらっしゃいまして…」
ドロレス執政官は頬を震わせるとキッと目を細め、そのまま巨漢の衛兵をじろりと睨み上げた。
「皇后陛下が私を直ぐに来る様にとお呼びになったのだ。私が『忙しくて手が離せません』と上申したにも関らずな。いいから開けろ、今直ぐにだ」
「は、はい…」
巨体を若干縮こませる様にした衛兵はようやく返事を返し、大きな表開きの扉を音を立てない様に静かに開けた。
執政官が部屋に入ると、お付きの女官と奴隷がずらりと扉の左右横並びで並んで立っているのが見えた。
いきなり開いた扉に気づいた女官の一人がぎょっとした様な表情でドロレスを見た。
執政官の突然の登場に、隣でぺちゃくちゃと世間話をしていたであろう女官と奴隷達の殆どが慌てた様に顔を伏せる。
ドロレスは鼻をスンと鳴らすと、不快気に眉を顰めた。
部屋の中で何やら甘ったるい香りのする煙が充満し、執政官は纏わりつく様に漂ってくる煙を手で払いながら、目的地へと真っ直ぐ向かった。
香の煙の発生元であろう部屋の扉は薄く開かれていた。
その中から隠しようもない程大音量の女の嬌声と複数の男の笑い声が聞こえてくる。
「またか…」
ドロレス執政官は、たぷたぷとした顎を震わせて小さくため息を吐いた。
そしてそのまま部屋の奥へと進み、目の前にある皇后の寝室の扉を勢いよく開けた。
*****
むせ返る程の不自然な甘さのある煙が薄暗い部屋に漂っている。
見れば部屋の一画に大きな香炉が置かれ、そこから煙が立ち昇っているのが見えた。
大の男が三人寝転がってもまだゆとりのある豪華で広いつくりの寝台がギシギシと軋む音を立てている。
その寝台の上では鍛えられた滑らかな背中の男が、薄闇に浮かぶ豊満で白い尻に向かって激しく腰を振っているのが見えた。
寝台の男が激しく腰を打ち付ける音が部屋に響く度に、獣の様にくぐもった女の声が絶え間なく聞こえる。
暗がりに目を凝らしたドロレスは、宝石の髪飾りを付けた亜麻色の髪の女が、四つん這いになっているのが見えた。
ヨアンナ皇后の髪飾りの宝石の一部が僅かな蝋燭の光にキラッと照らされて光っていた。
彼女は男に後ろから腰を打ち付けられているだけでは無かった。
結い上げられた亜麻色の髪が更に崩れるのも構わず、別の――目の前で膝立ちをする浅黒い肌の男の股間に夢中で顔を埋めている。
執政官は忌々し気に目を細めると、寝台の近くの寝椅子で寛ぐ三人目の男に目をやった。
全裸で長椅子にだらしなく腰を下ろし、下卑た薄笑いを浮かべながらワインボトルを直に口を付けて煽る仕草は、お世辞にも貴族階級の所作とは言い難い。
しかし顔立ちは非常に整っており、豊かな金髪と適度に筋肉の付いた長身で役者あたりかと推察された。
(さぞやモテるだろう――しかし…)
恐らくヨアンナ皇后が身に付けていただろう金と宝石のネックレスを、冠よろしく頭の上に乗せている姿は、はたから見ればとても滑稽だった。
ドロレス執政官は足元にある煙を上げている香炉を抱えると、三人目の金髪の男に向かってつかつかと歩き、背後から声を掛けた。
「おい、お前。部屋を出ろ」
呼びかけられた金髪の男の反応は鈍かった。
酒に酔った表情でぼんやりとドロレスを見上げて、暫く目が泳いでいた。
その男の顔に全く見覚えは無かったが、相手はドロレスの顔に焦点が合うと急に引き攣った声を上げた。
「ド…ドロレス…執政官様…!」
金髪の男が真っ青になりながら慌てふためいた。
「何故ここに…!」
床に散らばった己のチュニックとサンダルを掻き集めだした瞬間、頭に乗せていた金のネックレスが床の敷物の上に落ちる。
ドロレス執政官は服を拾い集め終わった男に、自分の持っていた香炉を押し付けた。
*****
すると金髪の男の悲鳴のような声に驚いたのか、寝台で行為に夢中になっていた三人の男女も一斉にドロレスが立っていた方向に目を向けた。
「え…!?」
「ド…ドロレス様…!?」
ぎょっとして青ざめた顔の男二人とは正反対に、皇后ヨアンナは驚く様子も無く平然とした顔をしていた。
「――まあ」
ヨアンナ皇后は声を上げた。
慌てて寝台を降りた男達とは真反対に、何事も無かったかの様に落ち着いた優雅な仕草で床に落ちた絹のガウンを取り上げた。
そのまま豊満な自分の裸体に巻き付けると執政官へと尋ねた。
「ドロレス様…一体何時いらっしゃったのですか?」
「皇后様にはご機嫌宜しゅう。お取込み中を邪魔して申し訳ありませんな」
執政官は『申し訳ない』の感情が全く感じられない平板な声で答えた。
「…覗きとはご趣味が悪すぎるんじゃなくて?事前に声を掛けて下されば良かったのに」
「しかし私の公務を遮る程の急を要するお呼び出しかと思われましたので」
皇后陛下と執政官との間の緊張感の漂う会話に挟まれた三人の男は、服と靴と香炉を抱え殆ど裸の状態のまま、無言で寝室を出ていこうとした。
その縮こまった三つの背中へと皇后ヨアンナは呼びかけた。
「――今日はありがとう。三人共帰る時に、扉の前でお小遣いを貰っていって頂戴」
三人の男は目に見えてビクッと身体を震わせると、這う這うの体で皇后の寝室から立ち去った。
お待たせしました。m(__)m
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