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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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46 得体の知れない人物

大変お待たせしました<(_ _)>



「ニキアス様。とうとう明日…僕等アウロニアに帰れるんですね」


ゼピウスの簡素な執務室で、ニキアスは残りの仕事の引き継ぎについて最後の書類にサインをすると、ユリウスへと手渡した。


「そうだな...これで任務完了だ。胸を張って帰国出来るぞ」

ニキアスは、ほっとした様に息を吐き嬉しそうに自分を見るユリウスを見返し微笑んだ。


「僕…早く帰ってアウロニアの自宅のお風呂に浸かって、自分の部屋でゆっくり身体を休めたいですよ」

とユリウスは、年相応の口調で愚痴をこぼした。


「ここじゃお風呂に入る事さえままならなかったので…」

「ふふ、お前がそんな事を云うとは…珍しく音を上げたか?先日の戦続きの方がずっとテント生活で過酷だったろうに。お前にとってはこの滞在の方が辛かったらしいな」

「だって、ニキアス様…以前の戦は僕も初めてで、多少は興奮状態だったんですよ。殺るか殺られるかの状況で、ゼピウス国の兵士ならともかく、周辺の国民まで目を配れる状況ではなかったし…」


揶揄する様な口調の上官へと、ユリウスは頬を掻きながら少し恥ずかしそうに抗議した。

それから少し言いにくそうに小声で話を続けた。


「少なくとも…僕等の軍が引き揚げた後にゼピウスに入って戦地の管理をしていた筈のペトロス将軍率いるレオ軍がこんなに土地を荒らしたおかげで、半分屍の様になっているゼピウスの民が目に入って気になって仕方がなかったですし…」

「…そうだな。お前の言う通りだ」


ニキアスは、いつもの様にユリウスの話しに優しく相槌をし、落ち着いて話を聞いてくれている様にに見える。


普段のニキアスと一見変わりは無い様に見えたが、ユリウスには何故かニキアスが心ここに在らずに感じた。


だからニキアスへと尋ねたのだった。

「…ニキアス様、先日のクレメンス高官のお話…何か引っかかる事でもあったのですか?」


(敏い少年だ)

真っ直ぐに自分を見上げて質問をする少年に、ニキアスは思わず笑った。

「ふ…なぜそう思う?ユリウス。その場にお前は居なかっただろう?」


「はい。ですが、その時から何やらニキアス様のご様子が上の空と云うか、何か考えていらっしゃる様に見えましたので…。僕の考えすぎかもしれませんが不穏な内容だったのではないか、と」


流石副官と云うべきか、ユリウスはニキアスの事を良く観察している。

ニキアスは,まだ自分よりかなり目線の下がるユリウスの淡い金髪を優しくポンポンとした。


「…副官のお前が心配する様な事では無い。クレメンス高官に念のためにと情報を確認しに来ただけだ。とは言っても…()()()の価値はゴミの様な代物だったのだがな」

「ゴミ...?そんな情報をわざわざクレメンス様が…?」


まだ納得のいかない口調のユリウスへと、ニキアスは丸めた書簡を渡し、話を打ち切る様に指示を出した。

「さあ、その書類を早く伝令部に届けてくれ。でないと明日の帰国の時間が分からず、今直ぐにでも帰りたい各部署の兵士らから苦情が出てしまうぞ」

「わ、分かりました。直ぐに持っていきます」


ニキアスは、慌てて部屋を出るユリウスの姿を目で追いながら微笑んだ。

しかしパタンと部屋の扉が閉まると同時に――その笑みは消えた。


 *****


「なんだと…?前王家の血縁…?」


クレメンス高官はこの小さな会議室には二人しかいないのに、なぜかいつの間にか声を潜めている。


「そうです…。とは言え、情報の信憑性は今一つなのですが」

「では戯言ではないか?わざわざ俺が訊く価値もなかろう」

「いえいえ…ただ情報の出どころが、どうやらコルダ国の外交官らしいのです。しかも前王家と関わりのある人物が、その人物の信頼を勝ち取っているらしいのです。それに…わざわざ虚偽の情報を我が国へと流す必要性が無いではありませんか」

「……」


(クレメンスの言っている事、もっともらしい事ではあるが)

確かに本当にコルダ国の外交官からの情報であれば、背景にコルダ国が付いている可能性は否定出来ない。


(しかも、もしその情報が真実であれば…)

義兄がアウロニア国から追い出した前王の家系の生き残りが、コルダ国の援助を受けアウロニア奪還へと牙を剝く可能性は十分にあるのだ。


「…前王家と関わりのあるとは、どの様な人物なのか?」

ニキアスはクレメンスに尋ねた。

「見かけは…どの様な風貌だった?」


クレメンスは思い出そうとする様に唸りながら首を捻った。


「それが…コルダ国の高官を伴って私のところに訪れた人物は、深くフードを被っていたので…けれど、これといった特徴のない顔の男でした」

「特徴のない男…?」

「そう…何やら人の印象に残りにくい風貌の壮年の男です。ただ白っぽい金髪でしたな」

「それだけでは何とも分からんな」

「あと、そうですね。メサダ神を信仰しているとの事でしたが…」


ニキアスはクレメンスに見えない様に小さくため息を吐いた。


「…いいか、クレメンス殿。お分かりだろうが、この大陸の殆どの民が太陽神『メサダ』か、もしくは豊饒の女神『レダ』を信仰している。

確かに前王家も『メサダ』神を信仰していた筈だが、それこそ大まか過ぎる情報だ。そんな内容では帝国へは詳細な報告が出来ない」


するとクレメンスは、ニキアスへ試す様な口調で尋ねた。

「そうですね…でしたら将軍自らが、その人物に直接会ってみてはいかがですかな?」


 *****


ニキアスは思わずクレメンス高官を怪訝な表情でじっと見つめた。

(…何を考えているのだ、クレメンスは)


クレメンス高官の提案は、一歩間違えればかなり危険だった。


自分が直接――しかも義兄に連絡無く、前王家にかかわる人物と密会したとなれば、バレてしまった時の義兄の恐ろしい怒りは火を見るよりも明らかだ。


ニキアスは最後ガウディにあった浴室での出来事を思い出し、血の気が引いた。

(義兄上なら…あの義兄上ならすわ反逆か、と考えるかもしれない)


「…俺がか?」

「ええ。ニキアス将軍が直接面談されれば、その人物の人となりが分かるのでは、と思いまして」

「クレメンス殿…何をお考えか?俺はもう近々帰国する予定が決まっていて、忙しい。そんな曖昧な情報のみでは、得体の知れない人物に会う時間など裂けない」


するとクレメンスは意外にあっさりと意見を翻した。

「そうですか…それは残念です。お役に立たない内容で申し訳ありませんな」

「…いや、構わん。また何か分かったら帝国の方へ報告をお願いしたい」

「それは勿論です。帰国の道中の安全をお祈りいたします」

「ありがとう、クレメンス殿」


会議室を出ようと踵を返したニキアスへと、クレメンス高官は声を掛けた。


「…もしお気持ちが変わりましたら、私にご連絡下さい」


ニキアスはクレメンス高官の言葉を聞こえなかった風を装って、返事をしなかった。

そしてそのまま足早にクレメンスの部屋を歩き去ったのだった。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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