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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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45 星の記憶 ⑥

お待たせしました<(_ _)>

 それは先日、私が水鏡のある部屋で古い蔵書――『亡国の皇子』を見つけてから暫く経った時の事だった。


 ヴェガ神の神殿の簡素な寝台の上、彼の腕枕の中で、私は彼の体温と共にうとうとと心地のよいまどろみを感じていた。


 私達神々には基本、地上の生き物達の様な『眠る』という概念は無い。


 しかし――不思議なことだが私達は深く瞑想し、強く念じて意識を飛ばせば、この星と酷似する幾つもの世界を見る事ができる。


 正確には意識だけの影の様な姿だが、この星と似たような生き物が存在する世界を渡り歩く事が出来るのだ。


 そんな時私の耳にカチャリという音、そして()()()()()が開く様なギィ…という音が聞こえて来たのだった。


 *****


 その音が聞こえた私は、慎重に起き上がった。

 どこの部屋の扉が開いたのか直ぐに分かったのだ。


 腕枕の主――ヴェガ神を見れば、彼は目を瞑り広い胸はゆっくりと上下して、まるで眠っているかの様だ。


(…違う世界に行ってらっしゃるのかしら)


 私は静かに寝息を立てるヴェガの頬を、起こさない様に指先でそっと撫でた。


(こんなにも心が満たされている)

 私がこんな感情になるなんて。


 かつて初めてヴェガ神に会い畏敬の念に震えていた時の…若く力不足な私を思い出すと、不思議な気分だ。


 するとまた微かに、ギィ…と軋む音が私の耳に聞こえた。


 それからの…私が起き上がりヴェガの寝室を出た時の事は、何故か遥か昔の記憶の断片の様に曖昧になっていて、はっきりとは思い出せない。


 ただギィと軋むその音は、覚えている。

 まるで私に『こちらにおいで』と誘っている様だった。


 後にどうしてあの時あの部屋へと足を運んでしまったのか?と理由を問われれば、私はこう答えたろう。

 ()()に『()()()()からだ』と。


 *****


 扉の開く音に呼ばれた様に私は足音を忍ばせながら、あの書斎へ続く廊下を早足で歩いていた。


 時間をかけるのは好ましくない。

 私は少し焦っていた。


(早くしないと、ヴェガ様が目を覚ましてしまうかもしれない。その前に早く…)


 また部屋へ入ったのをヴェガに知られたら、あの時の様に間違いなく部屋から締め出される。


 下手をすれば、この社から直ぐにでも追い出されてしまうかもしれない。

(…それどころか入ってはいけないと云われたお部屋に入った事で、二度と会って下さらなくなるかも…)


 ヴェガ神の怒りを恐れ、私の足取りは徐々に重くなり――とうとう止まってしまった。


(やはり…止めるべきかもしれない)


 ()()()()()()()()()()


 もしもまた見つかってヴェガ()に『もう会えない』と云われてしまったとしたら。


(そんな事…)

 私はきっと――耐えられない。


 その時、私の目の前をすうっと白い小さな影が走り抜けて行った。


 *****


(何かしら…今のは?)


 その白い影はほんの幼い――子供の姿だった。

 その幼児は黒髪で粗末な腰布一つを身に付け、しかも裸足だ。


(一体誰なの?冥府のヴェガ()の神殿に入って来るなんて…)


 人間の子では有り得ない。


 最初、私は黄泉の洞穴の淵から私を突き落とした幼児神『メサダ』かと思った。

 しかも目の前の半裸の幼児は、まるで足が宙を浮いているかの様に、走っているにも関わらず足音を立てない。


 けれど直ぐにおかしいと思った。


(違う。あの子供は…『メサダ』神では無いわ)


 メサダ神の身体はもう少し小さな乳児に近い姿である。

 そして常に世界を照らす太陽の光その物の様に、強く眩しく輝いていた。


 しかし目の前の幼児の身体は半分透け、まるで霞が掛かっている様だ。


(まるで…)


 そうだ、むしろあの姿は…。

(私達が…ここでは無い()()()()()()()()()姿()の様だわ)


 その子供は半分開いたヴェガ神の書斎の扉の目の前に立ち、黒髪を少し振ってキョロキョロと辺りを見渡すと、そのままヴェガ神の書斎の中へ吸い込まれる様に入って行った。


 その瞬間、また微かにギィという音を立てて、ヴェガ神の書斎の扉がゆっくりと閉まっていく。


(あ…待って!)


 このままでは扉がまた閉まってしまう。

 そして少なくともこの神殿に私が居る間、二度とは開かれないだろう。


『待って…!まだ閉まらないで…!』

 小さく叫びながら、私は前の方へと手を伸ばした。


 次の瞬間、伸ばした腕をすうと引っ張られる様な感覚と共に、私はヴェガ神の書斎の中へ飛び込んだ事に気付いた。


 *****


『今のは…』


 何故か先に部屋へと入った筈のあの黒髪の子供の姿は見えなかった。


『あの子供は…何処に行ってしまったのかしら』


 腕を何かに引っ張っられた事に驚きつつも、子供の姿を捜して私は振り向き、ゆっくりと部屋の中央――書斎の机と水鏡のある方向へと目を向けた。


 そして、その光景に驚きの余り目を見張った。

『一体あれは、何…?』


 水鏡がぼんやりとほの白く光っている。


 その水鏡の真上にあの件の蔵書『亡国の皇子』が、水面からかなりの高さを保ちながら不自然に浮かんでいた。


 そしてその膨大な頁数の紙は、誰も触れていないのも関わらず、『ざあぁっ』とヴェガ神殿の周りの草原が一斉に靡く様な音を立てて、めくられていたのだった。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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