44 皇帝の愛妾 ④
お待たせしました<(_ _)>
やっと第1部の伏線のひとつが回収出来ました…。
陛下は無表情のままわたしを見下ろして尋ねた。
「…お前に一つ聞きたい事がある。正直に答えよ」
(聞きたい事…?)
「まあ、何でしょうか」
「お前はニキアスをどの様な手管で陥落させた?」
(手管?)
「…は?え、いえ…そのニ、ニキアス様ですか?…あ、あの…」
いきなり何を尋ねるのかと思えば――。
(わたしが『ニキアスをどんな風にくどき落としたのか』を聞きたいって事なの?)
質問の内容に唖然としてしまったわたしは、恐る恐る陛下の顔を仰ぎ見た。
(まさか…この場で冗談をおっしゃっているのかしら?)
けれど陛下は真顔というか、いつも通り無表情だった。
どうやら恋愛トークがしたくなったという訳でもないらしい。
それに陛下は決して軽々しく冗談など言わないだろう。
突然の質問にわたしは驚きつつも、恋人である女に対しノンデリ過ぎる質問内容に少し――いや、かなり反抗的な気持ちが起こった。
(何故そんな事を...)
いくら陛下とはいえ何故そんな内容に答えなければならないのか。
しかも『口説き落とした』かだなんて。
しかし次の質問で、わたしのその反抗心は簡単に消えてしまった。
「正確には…お前がニキアスを女神レダとを、どのようにして繋げたのかを聞きたい」
*****
「え…?」
(それは一体どういう意味…?)
レダ神と繋げた?
(わたしが...ニキアスを?)
「あの…仰っている意味がよく…」
『分からない』と言おうとしたところで、陛下はわたしを光のない真っ黒い瞳で見下ろしながら言った。
「ニキアスは以前より――ゼピウス国陥落の為出陣する前だ――も、何故かレダ神と密接に繋がっている。ゼピウス国から帰って来てから気づいたのだ」
陛下の言葉の意味をわたしは一瞬理解出来なかった。
「わたくしが…ニキアス様を、ですか?」
(わたしが、繋げた?)
「ええと...女神様と、ですか?」
「そうだ。同じ事を何度も訊くな」
「も、申し訳ありません。あの、でも…失礼ですが、ニキアス様が信仰されていらっしゃるのは、確か戦の神ドゥーガ様だったのでは…」
「今もその筈だ。ニキアスはもともと『ドゥーガ』の息子として信仰が厚い。
事実お前に会う迄は、ドゥーガに身も心も捧げて鍛錬し、軍と闘いと己の研鑽に全ての時間を捧げていた。少なくともここ数年の間はそうだ」
陛下は更に続けた。
「…今になって戦神では無くあの女神の干渉が強くなったのは、間違いなく何か理由があると踏んでいる。違和感があるのだ――通常のニキアスの行動原理をは異なる何かを感じる」
「い…違和感…でございますか?」
わたしは鸚鵡返しの様に陛下の言葉を繰り返した。
(わたし…そんなに深く考えていなかったわ)
手管云々という事は、わたしにニキアスに何かをしたと陛下が疑っているという事だ。
従来の『亡国の皇子』とは違うニキアスの態度の変化とは、単純にわたし――悪評高いかつての許嫁のマヤ王女が改心したのを、ニキアスが許し、尚且つ愛してくれたのだと勝手に思っていたのだが。
(実際はそうでは無かった…という事?)
「そうだ。このタイミングで戦神では無くあの女神の干渉が強くなったのは、間違いなく理由がある。そうなると女神と直接繋がっているのはマヤ、お前だ。お前が何等かの方法で女神と義弟を繋げた以外には考えられぬ」
陛下はそう言うと、光の無い真っ黒い瞳でわたしを見つめた。
きっぱりと断定する様な陛下の口調と眼差しに、わたしは思わず口ごもってしまう。
「わ、わたくし…でも、わたくしは何も…」
そう言われても、思い当たりそうなことは何も無い。
(わたし…何もしていないわ。そもそもレダ神様への祈りすらまともにやった事が無い。この国に来てレダ様の神殿にすら行った事もないというのに)
わたしは思い切って陛下に更に詳しく訊いてみようと思った。
「あの、陛下の仰っているのは…今現在のニキアス様の行動に影響を及ぼしているのは、『ドゥーガ』神では無く『レダ』様が関わっているという事ですか?」
陛下は小さくため息を吐いた。
「その通りだ。とは言えど…あの女神はニキアスが生まれる前よりあやつには執着していたのだがな」
(…どういう意味なの?)
「陛下、それは一体…?」
「そのままの意味だ」
陛下の口調は恐ろしい程冷え冷えとしていた。
「あやつの為に、我が母も…女神の操り人形の様に動かされていていたな。最後は…随分あっさりと見捨てられたが」
「操り人形?」
(見捨てられた?)
気になる単語が沢山出て来てしまった。
(陛下のお母さまが…見捨てられた…?)
陛下のひび割れた低い声は、物分かりの悪い子供へ諭す様な話し方だった。
「――よいか。あの女神は自らの目的達成の為に周りの人間を上手く自分の駒の様に使う。直接神の力を人に行使するのは、禁止事項に抵触するからな。家系・環境・状況を操り、調整したその結果――人間がその行動を取る様に仕向けるのだ」
わたしは半ば呆然として、陛下の話しを聞いていた。
そんな話を簡単に信じられない。
(そんな…女神様が…ただ私欲で動いて、わたしも含めた自分の信者達を翻弄するなんて)
この――神様達の居る世界観とはいえ、余りに信じられない話だ。
それに…もし仮に陛下の話しを信じるならば、一つ疑問が浮かび上がる。
(どうして陛下はそんな事を知っているのかしら?)
*****
そうは思ったが、まず陛下に自分の身の潔白を証明しなければならなかった。
(わたしはレダ様とニキアスを繋げる様に女神様に願ったり、行動を起こしたりしていないわ)
わたしは陛下を見上げながら口を開いた。
「わたくしは決して…」
けれど、その時。
「…あ…!」
ふと…あの事を、わたしははっきりと思い出した。
(ちょっと待って…確か…)
わたしはニキアスへと自らを捧げた時の事を思い出した。
それは実際に彼と寝た夜のことではなく、その前の――彼に『わたしの全てを捧げます』と、女神の前でニキアスに誓った時の事だ。
(確かあの時、わたしは…)
彼の前で膝を折って…両腕を胸の前で交差し自分の頭を深く下げた。
今となっては思い出せないけれど、何故あの時――わたしはあの姿勢になったのだろう。
(あの時はあの姿勢と祈りが正しいと思っていたから…)
けれど、あれは。
あれはまさに、神へ祈りと供物をささげる祈りの姿勢ではなかったか。
そしてレダの預言者であるわたしが、神へと全てを捧げる祈りでもあった。
そしてあの後わたしの頭に響き渡った…喜びの言葉。
あれはきっとレダ神によるものだ。
『でかした。今回は良くやったぞ、マヤ王女』
まさか――あれが?
(嘘でしょう?)
わたしの全身から一気に血の気が引いて行くのが分かった。
*****
まさか。
(そんな事って…)
まさかそんな…。
(まさか、あれが…わたしのあの祈りが…)
ニキアスへ『全てを捧げる』と約束した…自らの処女を捧げる祈りが。
レダ神へ同様に祈った事がニキアスとレダ神とを結びつけてしまったというの?
大いなる神へと祈る時には、必ず神前へと供物を捧げるもの。
そしてその『供物』が大きく価値のあるほど、神への祈りは届きやすいとされる。
この場合供物は多分…わたしの『純潔』になる。
レダ神の預言者であるわたしが、それを捧げた相手――つまりわたしがニキアスをレダ神として見立て、彼に祈りを捧げた時に。
間接的に女神様と彼を結びつけてしまった…のだろうか?
そしてニキアスは約束通りわたしの『純潔』を受け取った。
(だからきっとあの時…レダ様の声が響いたんだわ)
『今度はでかした』
わたしは首をぶんぶんと横に振った。
(でも、そんな…そんな事って…!?)
陛下は無言のまま、わたしを真っ黒い瞳でただじっと見つめていた。
お待たせしました。m(__)m
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