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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
211/260

40 皇帝の愛妾 ①

大変お待たせしました<(_ _)>

ゴメンナサイ(´;ω;`)


少々長めです。


衛兵に案内された部屋は、漆喰の壁に一面鮮やかな風景と人物のフレスコ画が描かれていた。


華やかな色使いの装飾は高い天井まで続き、部屋を支える円柱にすら細かな彫り装飾が施されている。


床は白い大理石にこれまた色鮮やかなガラスや、ツヤツヤの貝やタイルが埋め込まれた幾何学模様と動物のデザインがなされ、わたしが今まで居た預言者の棟の部屋も広く装飾が施されていたけれど、それ以上に色彩が華美で豪華だった。


「わ、わあ…す、すごいお部屋ね…」

(個人のお部屋なのにこんなに…豪華でいいの…?)


部屋の豪華さに思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。

これがいち愛人の住む部屋なのだろうか?


わたしの反応を見たリラは声を潜めて返してくれた。


「ええ…マヤ様。あの…この部屋は…沢山いらっしゃる陛下のいち愛妾が頂けるものではございませんわ」

「…え?どういう事?」


リラは慎重に言葉を選んでいる様に見えた。


「このお部屋の感じ…所謂『妾』ではなく『側妃』の方がお住まいになるお部屋と同等か…もしくはそれ以上ですわ」

「そ…側妃…?でも…」

「マヤ様…わたくし実は女官見習いの時、父の伝手で位の高い側妃の方のお部屋のお手伝いをした事がございますの。その時のお部屋もこうでございました」


「…な…?」

(なんですって…?)


『側妃』?


「いち愛妾と側妃の方の立場はもちろんですが、お部屋の格の違いの理由は明白です。なぜなら――直接陛下がこのお部屋にお通いになるのですわ」


「…え…!?」

(陛下が…通う!?)

――この部屋に?


「それにマヤ様、あれをご覧ください」

リラは部屋の壁に掛かっている巨大なレリーフを指さして言った。


わたしは壁に飾ってある、ひときわ存在感のあるレリーフをまじまじと見上げた。

ウロボロスの様に巨大な蛇か、もしくは竜のような動物が尻尾に向かって口を開け、その中央には太陽と月が組み合わさっている。


そしてその中央には――陛下の部屋にあった大きなあの赤い石が埋め込まれていた。


「あれはこのアウロニア帝国の紋章…マヤ様は正式にアウロニア帝国ガウディ陛下の所有物になったという事ですわ」


わたしはリラの顔を見上げたまま、その後に続く言葉も出す事も出来ずに――そのきらびやかな部屋の中央でただ呆然と立ちすくんでいた。


 *****


「…あ、あの…」

あの日陛下の腕の中にぎゅっと抱きしめられたわたしは、一瞬訳が分からなくなった。


「三度目は…奪わせん」

低く呟いたあまりの声音の冷たさに、わたしはビクリとして思わず陛下を見上げた。


(へ…陛下…?)

わたしを見下ろす陛下の瞳はいつもの様な真っ黒な瞳なのに、視線の先にいるわたしに焦点が定まっていない様でもあった。


陛下はわたしの身体をそっと離した。

それはびっくりする程優しく壊れ物を扱うようだった。


陛下はそのまま壇の下で待つ衛兵に合図して呼び寄せた。


「この娘の座っていた椅子の所まで手を貸してやれ」

ひび割れた声で衛兵に言った後、わたしを見下ろして言った。


「…太陽が現れたら式典は終了だ。そのまま部屋まで丁重に送ってやれ」

「御意」

わたしは衛兵が手を貸してくれるままゆっくりと段を降り、そのまま元の自分の椅子の場所へと戻った。


振り返ってちらりと陛下の方を見ると、相変わらずの無表情の陛下はどこか遠くを見つめていた。


 *****


さっき見た映像の内容の整理も出来ないまま、陛下の短い言葉と共にあっさりと『皆で既日食を共に見る』という式典は終わり、ただの宴に変わる前にわたしは、痛む足首でびっこを引いている事に驚くリラと部屋へと共に戻った。


自室に戻って侍医エシュムンを呼ぶと、人の良さそうな笑顔を浮かべた彼も何かと忙しいのか、暫くしてから杖をついてせかせかと歩きながらもわたしの部屋を訪れてくれた。


直ぐに診察をしたエシュムン医師は、ひんやりと冷たい薬草のシップを痛むわたしの足首へと手早く巻いた。


「ほうほう…まあ、足首の骨には問題はなさそうですから、湿布を定期的に交換し安静にすれば二、三日で改善するでしょう」

「そうですか。ありがとうございます、エシュムン先生」


「では替えの湿布はここに置いておきますぞ」

そう言って湿布を置いた時、わたしの方を向いたエシュムンの顔からいつもの笑顔は消えていた。


「これからマヤ様は…更に激動に巻き込まれるかもしれませんな。最終的に()()()をお選びになるのか――貴女は良くお考えになった方がいい」

「ど…どなたを…?」

わたしにはエシュムン医師の言葉の意味が分からなかった。


(――選ぶ…?)

わたしは呆然とエシュムンの顔を見つめた。


選ぶってどういう事?


「…では」

エシュムンはわたしに向かって丁寧に一礼すると、またにこやかな笑顔を浮かべ、来た時の様に杖をつきながらとせかせかと歩いて部屋を出て行ったのだった。


 *****


そしてそれは夜の事だった。


簡単な夕食を食べ長椅子にくつろぎながらも、昼間のエシュムン医師の

『最終的に…どなたをお選びになるのかを良く考えた方が良い』

という言葉の意味を、わたしはぼんやりと考えていた。


(選ぶも何も…)


許嫁だったニキアス=レオス将軍に殺されない未来の為に、わたしはすでに(ニキアス)を選んでいる。

だからこそあの時――奪われるのでは無く、自ら処女を彼に捧げたのではないか。


(それに、この世界に来てからというもの…)

わたしは自分なりに『ニキアスにとってどうしたら一番いいのか』を常に考えてきたつもりだった。


時に自分自身の心の弱さが露呈して、女神の過干渉に自分自身が耐えられそうに無くなっても

(なんとか耐えてきたつもりだった)


でも、もし――ここで女神の干渉に負けて、自らの信仰神『レダ』を捨ててしまたら。

レダ神の預言者の資格を剥奪されてしまったとしたら。


(そんなわたしを…ニキアスはどう思うかしら)


『レダ』()神に誓った愛なのに。


彼は許してくれるだろうか。

あの強くて美しいニキアス=レオス将軍は。


(いえ…きっと、がっかりさせてしまうに違いないわ)


わたしは首を横に振った。


(今度こそ失望だけでなく、呆れられ見捨てられる可能性もあるかもしれない)

今までの…幼い頃からのマヤ王女の自己中心的な振る舞いを――彼はきっと忘れてはいない。


折角ここまでなんとか、小説『亡国の皇子』の流れの二の舞を踏まない様にと頑張ってきたのに。


(それが…今全て無に帰す様なことがあってはならないわ)


わたしが大きくため息を吐いた時、部屋の扉が雷の様に大きく鳴った。


 *****


「は、はい…ただいま」

リラと奴隷の一人が立ち上がり、大きくノックの音を鳴らす扉に近づいた。


そのままリラが扉を開けるやいなや、巻き毛の金髪と巨体を揺らしながらドロレス執政官が衛兵を引き連れ、どかどかと大きな足音を立てて部屋の中へと入って来た。


「ド、ドロレス様…」

わたしが慌てて長椅子から立ち上がろうとすると、執政官はふくよかな手を伸ばした。


「そのままで聞くが良い」

そしてその手に持っている丸まった書状を伸ばしながら、少しイライラした様に大声でわたしに向かって言った。


「アウロニア帝国専属『レダ神』の預言者マヤ=ゼピウス。そなたに今この場から、アウロニア帝国ガウディ=レオス皇帝陛下の『愛妾』の位を授ける。

なお異例中の異例ではあるが、そなたの預言者としての優れた資質と能力を考慮して、預言者の仕事も同時にして貰う」


「は…?あ…愛妾…?」

(あ…愛人ってこと?)


「なお預言者と権力者が深く関わるのは、癒着の観点からいって望ましくは無いが、この内容は議会を通さない陛下直々の御決定である。

その為一切のそなたからの反論、反対は許されぬ。

万が一逃走した場合、その身に重い罰が下されると考えよ」


「ま、待ってください、ドロレス様。そんないきなり…」

(なんで…?なんでわたしが愛人に…!?)


書状の内容を言い終えたドロレス執政官は、驚きであんぐりと口を開けたままのわたしを見つめた。

「…三日後に新たな身分に相応しい部屋へと移るゆえ、早々にその支度をせよ」

「お、お待ちください、ドロレス様。何故陛下がそんな決定をされたのか教えてくださいませ」


ハッと我に返って尋ねたわたしの言葉に、ドロレス執政官は追い討ちを駆ける様に冷たく言った。


「陛下の心の内は我も――誰も知らぬ。レダの預言者よ、覚悟を決めよ。そなたはこの瞬間陛下のものに成ったのだ」

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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