38(幕間)Gesto delle corna
大変お待たせしました。
*イタリア語:Gesto delle corna(角の手振り)不貞・背信のジェスチャー
コルナは、イタリア語で角を意味する。
現代イタリア語の「cornuto」には、「角の生えた」の意味の他に、暗喩として「寝取られた」「浮気された」の意味がある。
岩の様な大男――タウロスは書状を読み終わると、黙って腕組をしながら壁に寄りかかる、すらりとした細身の鳶色の髪をした端正な顔の青年へと告げた。
「…残念です、アナラビ。やはりアウロニアの方でも何事も無く終わったそうです」
「くっそ…やっぱりそうなのか…何でなんだよ」
ギデオンは悔し気に呟いた。
(これが火種の一つになり…反乱軍『アドステラ』の華々しい戦いの幕開けになる筈だったのに)
『メサダの書』の言葉は一体何だったのだ。
(メサダは何故介入しないんだ。ふざけやがって…!)
再び自身の中で沸き起こるメサダ神への不満と怒りを感じ、ギデオンは思わず舌打ちをした。
それを普段通り『行儀が悪い』とタウロスに聞き咎められたが、ギデオンは無視をしてプイと横を向いた。
ギデオンは皆既日食が始まる前の数日間から、アウロニア帝国内での反応を注視していた。
『皆既日食』が旧アウロニア帝国領内でしか見る事の出来ない天体のショ―として、各地でイベントや催し物の一環として盛り上がっているのを横目にして、何かしら不穏な動きが起こるのを待っていた。
実際――ギデオンの内心では一縷の望みをかけて、『何か起こるんじゃないか』とジリジリとしながら、アウロニアがひっくり返る様な何かを…メサダ神が何かをしてくれるのではないかと待っていたのだ。
しかし一行に何かが起こる気配が無く、それどころか帝国では各地で出店やイベントも行われかなり盛り上がって終わってしまった。
メサダ神の神官と連絡を取っているタウロスの表情も、かなり拍子抜けをしていた様子だった。
小さな子供の様に爪を噛んでいるギデオンを見たタウロスは、また一瞬口を噤み、僅かに間を開けてから話し出した。
「…アナラビ、それからもう一つお知らせしたい事が…」
「何だ。悪いニュースか?」
「ええ…いや、分かりません」
「分からない?…分からないって何だよ」
イライラした様にこちらを見上げたアナラビの顔を見たタウロスは、少し岩の様な巨体を揺らしてから口を開いた。
「ゼピウス国の第二王女…いや元王女と云うべきでしょうね。あのレダ神の預言者が、正式にガウディ皇帝の愛人になったそうです」
その台詞を聞いた瞬間、ギデオンの瞳が見開かれた。
*****
「――は?……マヤ…王女、が?」
「そうです。そう帝国内で大々的に発表されました」
「は?…な…でも…」
『マヤはニキアス将軍の恋人ではなかったのか?』と疑問を思わず口に出しそうになってから留まった。
その代わりに暫くして『ハハッ』と乾いた笑いが、整った形の唇から小さく漏れ出た。
「…そうか。あいつ、自分の兄貴に寝取られたのか」
(…今でもあの森で戦った事を思い出せるぜ)
ギデオンが攫ったゼピウス国のマヤ王女を取り返す為に、単騎でも後を追跡してきたあの男――素晴らしく美しい容姿を持ちながらも、強靭な肉体を持つ強い戦士、ニキアス=レオス将軍の姿を。
ギデオンは剣を交えた瞬間の冷え冷えとした殺気を思い出した。
あの恐ろしい程の執念で王女を追いかけてきた男が、実の兄とはいえ大人しく自分の女を奪われたままでいられるとは思えないが。
(アウロニア帝国へと戻ったあの男は、はたして大人しくこの内容を受け入れられるのだろうか?)
「タウロス…その決定をマヤ王女が拒否しているって話はないのか?」
「いえ、そこまでは…」
タウロスは体格の割に小さな顔を振ってギデオンに答えた。
「いずれにしろ、敗戦国の王女に選択権は在りませぬ故…」
「まあ…それはそうだな」
あの蜂蜜色の髪と碧い瞳の女を巡って、兄弟仲にちょいとでも不和が生まれれば、アウロニア帝国の新たな火種にもなる可能性があるのだが。
「…ハハッ…ちょっと面白くなってきたな」
さっきとは違い黒子のあるギデオンの口元には、面白がるような笑みが浮かんでいた。
お待たせしました。m(__)m
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