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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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35 女神のククロセアトロ ①

大変お待たせしました。

『ククロセアトロ』とはギリシャ語で人形劇という意味です。


エピソードが長くなったので分ける事にしました。

午後にまた次の話しを投稿いたします。


『…始まりがある故に終わりもいつか必ずやって来る。それが必然なのだ』


――いいえ。


いいえ。

終わらせはしない。


絶対に。


 *****


目を開けると――わたしは椅子に座っていた。


(ここは何処…?)


自分が一瞬何処にいるのかが理解らない。


戦士の鎧をまとう逞しい男達の中に、アウロニア皇軍の旗を堂々と掲げている者もいる。


わたしは足元へと跪く屈強な男達を見下ろしていた。

自分の目線がいつもよりずっと高い場所にあるのだ。


そして同時に気付いた。


ここは…。

(この場所は謁見の間だわ…!)


謁見の間にある玉座(ソリウム)の場所――いつもガウディ皇帝陛下が座る其れにわたしが座っている。


(どうしてこんな処にわたしが…!?)

驚いて身じろぎして、ふと視線を下へと降ろした瞬間、わたしは思わず息を呑んだ。


「…!?」

お腹が異様に膨れている。

紫色のトーガの下の真っ白なチュニックを丸く大きく盛り上げる膨らみがある。


――まるで

(に…妊娠してるの?わたし…)


何時?

誰の子供をわたしが…?


そこにわたしを優しく気遣うような、低い豊かな声が聞こえた。

「…どうした?マヤ、大丈夫か?」


ハッと気づいてわたしはその声の持ち主を見つめた。

(この耳に馴染んだ声は…)


ニキアスだ。


皇帝ガウディの座っていた筈の王座の椅子に、眩しい程真っ白なチュニックに皇帝の印の深い紫色のトーガを巻くニキアス=レオスが座っている。


(どうして…?)


どうしてそこ(玉座)に――死ぬ運命だったニキアスが座っているの?


 ***** 


状況はさっぱり把握できなかったけれど、いつもだったら静まり返っている筈の謁見の間は、何故か興奮と熱狂と暴力の匂いで溢れている。


(ニキアスが玉座に…何故…!?)


長く伸ばしていた艶のある髪を大分短く切っているからか、形の良い額が際立っている。


最後に会った時のは確かにあったニキアスの左の額から目の茶色い痣は、こちらを向いた顔を見る限り今や完全に消えていた。


まるで()()()()()()()()かのようだ。


そしてその額には――皇帝が付ける黄金で出来たダイアデム(冠)の月桂樹の葉が眩しく煌いていた。


――まさか。

(まさか…ニキアスが皇帝に…なったの?)


呆然としてニキアスを見つめるわたしに、彼は心配そうに言葉をかけた。

「マヤ…我が妃よ。安定期に入ったとは云え、()()()を宿す大事な身だ。無理はするな」


()()()


という事は。

お腹の子は。


(ニキアスの子供…?)


「……は、はい……」

状況に理解が追い付かなくて、それ以上言葉も出ない。


(…どうして?)

何なの…これは夢なの?


夢だったとしても

(何故こんなにハッキリとしているの?)


「皆の者、よくやってくれた。此度の戦の勝利は、そなたたち皆の活躍による物だ。それぞれの活躍に見合った褒章も期待してもらって良いぞ」


朗々とした力強いニキアスの声と同時に、おおっとした兵士達の雄たけびが大広間に響き渡った。


そうこうするうちに、鎧を付けた兵士達は次々に汚れた大きな麻袋を持ってきた。

「陛下…弑逆者達の首です。この極悪人達をどうぞその目でご確認下さい」


――弑逆者?


(極悪人を確認する…?)


すると麻袋の中身はゴロゴロと無造作に、白い布を引いた謁見の間の床の上へと転がされた。


「――っ!?」

それを見たわたしは、引き攣った声を上げそうになった。


(嘘でしょう…?…な、生首が入ってる…!)


呆然とするわたしの目の前で斬首された首が、まるでボールの様に転がされてから、皇帝であるニキアスが確認できるように正面を向けて次々と並べられていく。


(何なの…これは。何の映像なの…?)


まさか、これは予知夢?

これは『神託』だったのか?


検分される為に並べられた首の顔へ視線をふと移した瞬間、わたしは思わずその場で立ち上がりそうになった。


「……あっ!?」


それはまだ20歳前後の少年の首だった。

変わり果てた姿になったとはいえ――あの顔を見間違えはしない。


(ひどい。何てこと…)

癖のある鳶色の髪と整った顔は血に汚れ、特徴的な黒子が口元に見える。

快活に輝いていた赤い瞳はカッと見開かれてはいるが、空洞の様に光を失っていた。


(…ギデオンだわ)

『亡国の皇子』の主人公――ギデオン=マルス王子だ。


(どうして彼の首が切られているの?)

わたしの知っている『亡国の皇子』では、最終的に玉座に上るのはギデオンだった筈だ。


そしてその隣には生前はさぞ華やかだったろう、ブルネットの美しい少女の首も置かれている。


(あ、あの少女は…あの時に会った…)

見覚えのある少女の顔は、以前ゼピウスに居る時にニキアスのテントで会った事のある『陛下の遣い』としてやって来た女官だ。


(確か…カーラと言っていたわ)

ギデオン王子に関係のある少女だったのか。


そして同じ様に、ぼんやりと記憶のあるあの時会った盗賊団の者達と思しき首も次々と並べられていく。


その中で、あの岩の様な巨体だったのタウロスの首も、顔や頭に無残な傷を負った状態で見つかった。


最後にわたしが見た事の無い――白っぽい金髪の壮年の男性の首も並べられた。


そしてそこで、皇帝の椅子に座るニキアスの隣から一際年若い男の声が聞こえた。

「…これで反乱軍『アドステラ』の一味は殲滅した事になりますね、陛下」


皇帝ニキアス=レオスは満足そうに、玉座の傍らに立つ淡い金髪の天使の様な面影を残す美青年を見上げた。



お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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