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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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32 星の記憶 ①

レダ神の記憶が出てきます。大変お待たせしました。


私達は数億年前――この星の外から石と金属の塊でやって来た。


惑星の表面で私達は幾つかに砕け燃え尽きていく中、バラバラになった私達は、運良くこのザリア大陸に『七つ星』として落ちたのだ。

そして星のひとつは、ザリア大陸の中で一番深い亀裂の奥へと姿を消した。


ただの星の光に過ぎなかった私達を、この惑星に生きる生物の多くは直ぐに『神』として崇め出した。

それは私達にとって不思議で新鮮な感覚だった。


(ただの光なのに)


生き物の祈りは長い時間を経て私達の力になっていき、私達は生き物の想いの化身になった。

そこから多くの生き物の営みを見つめながら、私達もそれぞれ自我を持った。


その中でも人間こそが生物の中で最も強く・明確で複雑な意思を持っていた。


彼等は私達にそれぞれに名前をつけた。

そしてその役割で祈りを捧げた。


織糸のように色を変えながら少しずつ交差して生まれる想い・祈り。

そして、命の光と死の闇。


そうして私達は徐々に祈りの力を強く持つ人間と同じ姿を取りはじめたのだった。


 *****


(え…?)

不思議だった。

部屋の空気がいきなりガクンと下がって寒さを感じる位だ。


大広間の屋上は、広く開いている為に宵闇の様になっている空が見える一方、窓から見える地平線は薄明るい。

(…太陽が隠れ始めたから気温が下がっているんだわ)


大広間の各箇所の床には申し訳程度の灯りが燈され、なんとか人の隙間をぬいながらも少しずつ陛下の方へさり気無く近づく様に歩く。


(痛い、ああ…まずいかも…)

今のところ何とか歩けるけれど、確実に足首のじんじんとした痛みが強くなってくる。


でも早く陛下の所に行かなければ。

(完全に月が重なってしまう)


不思議な事に、もう空を見なくてもあと数分で完全に月が太陽を覆い隠すのがわたしには分かった。


「…本当…すごいですわ…ほら、姫達もこれで見て…黒い影がどんどんと大きくなって…」

女性達の言葉に紛れて皇后陛下の声が聞こえた。


何やら望遠鏡の様な筒の形の物を覗いているが、この時代に完全に太陽の光をカットできるガラスなどがあるのかは不明だ。


心配だが、それよりも早く――()()()()()()()()()()()()()


(皇后様には見つからない様にしないと…)

彼女に目を付けられては厄介だという気持ちと、理由は分からないがほんの少しだけ後ろめたさが心を過る。


(…でも)

『ガウディ陛下にわざわざ呼ばれているのだから仕方が無いじゃない?』

と何故か言い訳をする自分に気が付く。


わたしは痛む足首を少し引き摺りながらふと気づいた。


「え…?」

(寒い…)

吐く息が真っ白になる程の寒さだ。


(おかしいわ…こんなにこの会場って寒かったかしら?)


 *****


私達が降り立った時大地は冷えていて、そこに対応できるものしか生き残れない。


生物は生まれては消え、また新たな命の火が音も無く消えるのをただ繰り返す日々の繰り返しだ。


兄弟・家族…最初は一つであった私達も、ばらけた後は全く別の自我を持って立っていた。

この時点で何を『力』とするかで、各々の成長は異なった。


その為かやっと人間が私たちを神として奉り祭壇を造り始めたころ、最初は全く同じであった七つ星の力の均衡は完全に崩れていて、その力の差は歴然としていた。


特に二つの星『メサダ』と『ヴェガ』は光と闇を司る為、大きな力を持っていた。


その中で――光を放つ星『メサダ』は形を成さず、その明るさで小さな子供の様に残酷に様々な生物を焼いた。


そして闇星『ヴェガ』は生物全ての死を司り、人間が誕生してからは特にその畏敬の念も相まって、駆け抜ける様にどの星よりも早く人間の姿を取り始めた。


無慈悲な死の象徴――『ヴェガ』はやっと狩猟と農耕を経て祀られ始めた若い私にとっては、同じ星でありながらも全てを台無しにする恐ろしい存在だった。


普段は夜に起き日の高いうちは地下に眠る『ヴェガ』も、『皆既日食』が起こる日中は地上に姿を現した。


ある日私は、初めて影の中から現れる『彼』の姿を見たのだ。


 *****


(いけない。耳鳴りまでしてきたわ…)

ハア…と白い息が私から漏れる。


確かに太陽が月に隠れる為に気温は下がる筈だが、まるでいきなり冬の様な寒さになっている。

(寒すぎるわ...日食ってこんなに気温が下がるものなの?)


それに目の前に座っている陛下までの距離が何故なのか、果てしなく遠く感じてしまう。

薄暗い大広間の中、陛下の座る長椅子の前までやっとたどり着いた感覚だ。


「どうぞ。レダの預言者殿」

衛兵達はわたしの姿を見ると横にスッと退けた。


「あ…ありがとう」

震える寒さに鳥肌が立つ腕へトーガをしっかりと巻き付けて、痛む足首を引きずる様に、わたしは段の上で座る陛下の長椅子を見上げた。


そして――思わず息を飲んだ。

目に映ったものは、陛下の姿形をした真っ黒い塊の様な影だったのだ。


その時、また何かの記憶が蘇るかのようにジジッ、ザアーッとした妙なノイズの耳鳴りが聞こえ始めた。


 *****


大きな月の影が太陽に重なる最後の瞬間、小さな宝石の様にピカッと光ったのが見えた。


そして――真っ黒い月の周りをまんべんなく取り囲む激しく白い光だけが残る。


いきなり現れた黒く長いマントを纏う青年の姿をした『ヴェガ』神は、唇を動かさずに私に尋ねた。


『お前は――七つ星の内の一つか?』


生物で言えばどことなく昆虫の様な顔の青年の姿だ。

真っ黒い瞳は光を移さず、黒く長い髪はほんのわずかでも動かない彫像の様だ。


けれど彼の発する短い言葉にとてつもない力を感じる。


『お前の名は――何だ?』


今の私と目の前の影そのものの青年神の明らかな力の差に、自分が弱者だと覚った。


駄目だわ――彼には敵わない。

私は震えて反射的に膝を付いた。


『は…はい。レダと申します』

(とても同じ瞬間に生まれた『星』とは思えない)


『そうか。美しい色だな』

その言葉に私は思わず顔を上げて『ヴェガ』を見つめた。


『美しい、色…ですか?』

私はヴェガに尋ねた。


『美しい』とは私にとって意味は無い。

が時に彫像を造り私を奉る人間が使う言葉でもあった。


『…何故か、と?』

ヴェガは無表情に私を見下ろし小さく小首を傾げた。


『その姿は生き物の祈りの色だ。その濃い金髪は豊かな実りの穂を示すもの。空と海の色の瞳は人々の安寧な営みと成長を願うもの。

花の色の唇もその身に纏う植物もそうだ。

全てが人を始め生き物への繁栄を願うもの。故に美しいと云ったまで』


(私の姿は、ここに生きる人々と生き物の願いの色…)


(ヴェガ)の言葉は私の中で、何故か私を奉る人々の祈りよりもストンと腑に落ちた。


するとグルっと首を回しながら昏い大地を見つめた『ヴェガ』は、小さく意味深な言葉を呟いた。


『…まだ人が溢れてはいない。破滅はもっと後の時代か』


またピカっとした激しい光が日食の終わり告げると、その言葉だけを残し彼はすうっと細くなる影の様に姿を消した。


(…破滅?)

破滅とは何だろう?


『破滅って何の事だったのかしら…?』

この地に降り立って初めて、私は昏く闇に包まれる『ヴェガ』の存在とその言葉が気になったのだ。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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