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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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30 預言の始まり ②

お待たせしました。

 壇上から足音を忍ばせながらそっと降りたわたしは、元老院貴族や第三評議会の議員等が集まる人の輪の方へ歩いた。


『新月によりヴェガの力は一瞬この地に満ちる…』

(あれは一体どういう意味だったのかしら?…)


アウロニア帝国に来る直前、わたしは一度ニキアスと共に――濃い藍色の空に月が幾つも浮かぶヴェガ神の神殿を訪れた事を思い出した。


あの後ニキアスはわたしに正直に愛の言葉を伝えてくれ、わたし達は神の名において愛を誓った。


わたしはニキアスに心と身体を捧げると誓ったのだ。

自らの神に誓う様に。


あの時のニキアスへのときめきと愛おしさ…今でもその気持ちを覚えている――なのに。


(何故かしら?)


不思議だった。


そんなに昔の事ではないのに、何故だかとても遥か昔に――時が経ってしまった様に感じてしまう。


わたしは小さく頭を振った。

(おかしいわ、わたし…どうしてこんな事を考えてしまうの?)


ニキアスとはこの間別れたばかりではないか。

(それにこの皆既日食さえ無事に終われば…ニキアスは直ぐにウビン=ソリスに戻って来る)


この上無く逞しく優しく美しい()()()()()()――ニキアスは()()()()かけがえのない恋人なのだ。


(…きっとニキアスが…彼がゼピウスから軍を率いて戻ってくればきっと――)

彼がアウロニアに戻ってくれば、直ぐに()()()()()()は以前の…元通りになるに違いない。


(そうよ)

わたしが今やるべきは、ニキアスが陛下を『弑逆したい』と考えない様にアウロニアでのこの場所をきちんと守る事なのだ。


「…ヤ様…マヤ様…!」


その時――大広間の柱の陰から、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。


すでに日蝕が始まっている為、会場は真剣に観測器具を使って太陽を見ようとする人以外は、自分の席(寝台)に戻って酒や食事を再開している人々が大多数だ。

 

「マヤ様…こちらです…!」

聞き覚えのある声に振り向き、わたしは声の主を確認した。


そこにはなんと――父クセナキス将軍と共に、南のベルガモン国へ日蝕の知らせと警備に向かった筈の天文学者アポロニウスが立っていたのだ。 


 *****


「…ア、アポロニウス…?どうして…」


わたしは驚いて、その場に立ち尽くしてしまった。


ニキアスの態度が何処か変だったあの日、わたしの部屋で面会したのを最後に、わたしはアポロニウスの姿を見ていなかった。


(…やっぱりニキアスと何かあったのかもしれないわ)

と心配だったのだけれど、後にわたしは評議会長のクイントス・ドルシラに、ニキアス同様、ガウディ皇帝陛下の命令で急遽お父上である(これも知らなくて驚いた)パンテーラ軍ヤヌス=クセナキス将軍と南の国へ旅立たったと聞いた。


「アポロニウス…ウビン=ソリス(首都)に戻って来たの…?」


が、良く考えたらまだ『皆既日食』は終わってない。

アポロニウスはどうしてここへと戻って来たのだろう。


わたしは柱の陰に隠れる様にして立つアポロニウスに恐る恐る近づいて尋ねた。


「本当にアポロニウスなの…?」


わたしがそう質問してしまう程、アポロニウスの風貌は最後会った時から二ヶ月以上経った今、大きく様変わりしていたのだ。


とび跳ねていたクルクルの天パの髪は今や軍人の様に短く刈り込まれ、元々線の細い研究者だった面影は少し残っていたが、身体には大分筋肉が付いたのか以前よりも、大分がっちりとした身体付きになっている。


「そうです、僕ですよ…マヤ様。アポロニウスです」

「あの…びっくりしたわ。あまりにも、何だか…その、変わってしまっていたから…」

「そうですね。あれから毎日将軍である父上に嫌という程鍛えられましたから」

「ま、まあ…そうなのね…」

「それに…ニキアス将軍に学者である事を貶められたのが悔しかったので…」

「学者である事?」

「そうです。まるで僕が勉学だけの弱者と言わんばかりの態度でした」


「え…まさかニキアスが?そんな…」

わたしはアポロニウスのニキアスを非難する様な口ぶりに驚いた。


確かにアウロニア帝国の所謂『勉学の塔』にこもりがちな学者の多くは、弁が立ち優秀だ。

けれど、軍国としてのし上がったこの国の功績や誉れの多くは、他国を征服し凱旋した軍人に向けられる事が多いのが現状でもある。


だからと言って

(あえて学者や研究者を馬鹿にするような事を…ニキアスが言うとは思えないわ)

「ね…アポロニウス、落ち着いて。そんな失礼な事をニキアスは言わないと思うわ」

と穏やかに言った。


しかしアポロニウスは、わたしの台詞が耳に入らなかったかの様に続けた。


「彼は僕の名誉ある役職を『学者風情』と馬鹿にしました。彼こそ…薄汚い踊り子の母親から生まれた癖に、由緒正しい貴族に生まれ、天文学を極めた僕の事を…あのニキアス将軍は…」


そう言うなりアポロニウスはわたしの腕を掴んだ。


わたしはグイと彼の方へと引っ張られたのだ。


 *****


次の瞬間、あっという間にわたしはアポロニウスの腕の中に抱きすくめられていた。

「ア、アポロニウス…?」

「マヤ様、この数か月の間僕がどんなに貴女にお会いしたかったことか…」


「アポロニウス、どうしたの?…は、放して…」

わたしは彼の腕の中から逃れようと、身をよじらせた。


以前の――『皆既日食』の預言の検証がされた時の――喜びで思わず抱きしめられた時とは訳が違っている。

鍛えられた男性の腕はがっちりとわたしの身体を抱き締めていて、腕や上半身を手でグイと押して逃れようとも出来なかった。


ハッと気づいて上を向くと、アポロニウスの熱い息がわたしの顔の真上に振って来た。


「マヤ様…ああ、やはり貴女はお美しい…」

「アポロニウス…い…いやっ!止めて!」


そのまま自然に唇を寄せてくるアポロニウスに恐怖を感じて、わたしは全身の力で思い切り彼の身体を押した。


アポロニウスの身体を押した反動で彼の腕からは逃れられが、厚みのあるサンダルを履いていたのもあって思い切りよろけてしまう。


「…あ!...いっ!...」


次の瞬間いきなり足首に痛みが走る。

そのままわたしはペタリと床に座り込んだ。


どうやら足首を軽く捻ったらしい。


アポロニウスは少し呆然とした様にわたしを見下ろしていた。

少し息を切らしながら、ようやく彼へとわたしは云った。


「ア…アポロニウス…あ、貴方の事は頼りに思っていたし…とても…とても、優秀な素晴らしい学者だと思って尊敬はしているわ。

けれど、だ…男性としては見ていなかったし、これからも見る事は出来ない。ごめんなさい…」


そう言った途端わたしを見下ろすアポロニウスの顔は蒼白になり、一瞬で彼の眼差しも冷ややかなものに変わった。


すると――わたしとアポロニウスの間に落ち着いたバリトンの声が響いた。


「おお、マヤ姫…こんな所にいらっしゃったか。大分捜しました」


そこに佇んでいたのは、年齢不詳の黒い肌と真っ黒い瞳、白髪を短く刈り込んだ長身の逞しい体躯――白いトーガをきっちりと纏った『ドゥーガ』の預言者バアル様だった。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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