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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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28 預言者は試される ③

大変お待たせしました。

わたしはさっきの自分の席まで歩き、またトーガを脱いで椅子へと座った。


「...陛下に助けてもらったね」

席に着くなり隣のフィロンは前を向いたまま、無表情でそう言った。


「...ええ、そうですわね」

まだ長椅子に座りながらこちらを見る皇后様の視線をわたしは感じたが、今はそれよりも自分自身が激しく動揺している事に気が付いた。


(それよりも...)

わたしは座って自分の手をぎゅっと握った。


未だ心臓がドキドキと高鳴っている気がする。

陛下の命で自分の顔を上げた時、無意識のうちにわたしは陛下を見つめてしまったのだ。


(…陛下の方は見ないようにと気をつけていたのに)


どうしよう。


どうしたって気になってしまうのだ。

陛下が一体何故あんな手間をかけながらわたしと文を遣り取りしようとしたのか。


(何だかおかしいわ、わたし…)


あんなに恐れていた陛下なのに。

今なぜこんな事を陛下がしたのか知りたくて仕方がないなんて。


軽く首を振りながら思い直す。


(わたしったら...何を考えているの)


陛下にもし理由があっても無かったとしても...きっとわたしに教えてくれる筈はない。

(陛下はそんな甘い方ではないわ)


その時、わたしの傍を通った奴隷の小さく呟く声が聞こえた。


「おお…これはそろそろ…始まりますな」


すると今まで楽し気な会話が流れていた大広間に、ザワザワとした声が聞こえ始め、ふと上座の方を見ると、ドロレス執政官やクイントス・ドルシラ始め第三評議会の面子が続々と集まっている。


その集団の中に見た事の無い元老院の議員達も混じっている事から、明らかにこれから()()が始まる合図の様だった。


 *****


丁度その時また賑やかな音楽が鳴り始めた。


それと同時に高い大広間の天井を覆っていた無数の天幕がザア-ッと音を立てて四方へと開き始めた。


大広間の真上には雲一つ無い青空の広がる真昼の空が覗き、太陽の眩しい光が大広間に居る全ての人々を照らしている。


大広間にいた元老院議員達から期待に満ちた歓声が上がった。

「おお…素晴らしい空…快晴だ。太陽神『メサダ』も見守っておる…」


既に太陽神メサダを奉る神殿からも『本日日蝕が起こるであろう』という連絡も来ていたが、残念ながら後付けの様な形になってしまっている。


何故なら最初に預言を降ろし起こる事を伝えた『コダ』神と、次いで日時まで指定した『レダ』神――二神の神託の方が、帝国内の話題としてはずっとセンセーショナルであったからだ。


もともと最初にレダとコダの預言者が神託を降ろした通りの『皆既日食』は本当に起こるのか、そしてそれが果たしてどんな風に見えるのか、皆が興味津々だった。


会場の元老院貴族の机と皇族の御馳走がのる大理石の机の上には、奴隷によってオモチャの様な太陽を直接見なくても済む為の小さな穴(ピンホール)を開けた観測器具が、次々と人数分配られ始めている。


会場に集められた皆が、この世紀の天体ショーを楽しみにしていたのである。


「レダの預言者・コダの預言者。前まで来る様に」

第三評議会の長であるクイントス・ドルシラの声が響いた。


預言を直接降ろしたコダ神とレダ神の預言者二人共に、皇帝ガウディの御前に来る様命ぜられたのである。


 *****


先程と同じ様にトーガを纏い、わたしとフィロンは上座の方へと並んで歩いた。


二人で並んで歩くと途中元老院の議員達から声があがるのがわたしの耳にも聞こえる。


いつも謁見の間や元老院会議室では深々と白いマントを被って登場していた為、わたし達の顔を初めて見た議員も多いのだろう、彼等は口々に囁いていた。


「おお…流石、姉弟神ですな。あの蜂蜜色の髪と碧い瞳…そっくりですぞ」

「はて…おもしろい。マヤ様はかつて王女であったのに、どちらかと云えばフィロン殿の方が堂々としておりますな」

「それにしても流石…豊潤の神々を司る預言者ですな。大変お美しい…」


わたし達は足を止めると、陛下の座る長椅子の前で並んだまま頭を軽く下げた。


「レダの預言者参上致しました。陛下、皇后陛下」

「コダの預言者参上致しました。陛下、皇后陛下」


全く同じ台詞だったけれど、感情を入れない様にと抑揚の無い声になってしまったわたしとは正反対に、フィロンの声は流れる様に美しく、まるでアレクシア様の様に音楽的だった。


ヨアンナ皇后様から『ほう…』と感嘆のため息が漏れた。


それと同時にヨアンナ皇后陛下の横に座る三人の姫君が、

「わあ…あんな綺麗な男の人、姫見た事ないわ…」

「声までとっても綺麗よ…」

とお互い母親そっくりの亜麻色の髪の小さな顔を寄せてひそひそと話している声が、わたしの耳にまで聞こえてくる。


フィロンにもしっかりとその声が聞こえていたのだろう、少し顔を上げて彼は姫君の方へとほんの少し微笑んだ。


わたしにとっては、以前の世界で言うアイドルが軽くファンサする様な事だったけれど、姫君にはその刺激で充分すぎたらしい。


三人とも真っ赤になり、その場で『きゃああっ…!』と姫君に相応しいとは言えない甲高い声を上げていた。


その時『うおっほん!』と分かりやすいドロレス執政官の咳払いが聞こえたかと思うと、軽く演説を始めた。


「皆の者。最初に皆既日食がある事を告げた『コダ』神の預言者フィロンと、皆既日食の日時と現象の細かい詳細を追求した『レダ』神の預言者マヤ――二人の有益な神託により、この宴は催される事になった。これから起こる現象は大変稀有で素晴らしいらしい。是非皆でこの世紀の太陽と月のショーを観覧しようではないか」

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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