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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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24 式典の出席 ②

大変お待たせしました。

すっかり宴に出席する準備の終わったわたしは、白いマントを深く被り、リラと共に衛兵の誘導で大広間へ向かった。


「マヤ様は…大広間に行かれるのは初めてになりますわね」

「そうね…いつも元老院の会議場や謁見の間に行っていたから、今回が初めてになるわ」


するとリラは頷いて説明を始めた。

「大広間は謁見の間とは違ってもっと…何と云うか、畏まらなくても大丈夫な場所ですわ。とても大きく広い部屋で、主に海外の使節団の方々の歓迎会や、この間のニキアス将軍様の凱旋の宴などにも使われました。何と云っても今回大広間が選ばれたのは、屋根が開閉式で開く為空がはっきりと見えて、件の『皆既日食』とやらをはっきりと観測出来る為だと父も申しておりました」


「まあ…、それで空を…『皆既日食』を見る事が出来るのね」

(宴の途中で観測するという訳ね)

納得したわたしはそれからはリラと他愛も無い話をしながら廊下を歩いた。


「今回は皇后さまもご出席されますから、殊更華やかになるでしょうね」


「皇后さま…?」

(そうだったわ)

すっかり忘れてはいたが、陛下はご結婚されてお子様もいらっしゃったのだ。


「ヨアンナ皇后陛下ね。わたしは初めてお目に掛かる事になるから、粗相の無い様に心がけないといけないわね」

「対外的な行事でなければ、あまり陛下ご夫妻で揃う事はございませんから、珍しい事でございます」


大広間へと近づくに連れ、ルチアダ神の奉られた『ルチアダ大神殿』を訪れた時の様な竪琴・縦笛・パンフルート・バルバットなどの楽の音がそれぞれ微かに聴こえ始めている。

まるで以前の世界で聞いた事のあるオーケストラの音合わせをしているかのようだ。


大広間入口には屈強な衛兵が門番の様に仁王立ちをしていて、入場者を細かくチェックしていた。


すると衛兵の一人が、リラに向かって言った。

「侍女の方は式典の会場内には入れませんので、このままこのカーテンの裏の控室で皆既日食が終わる迄お待ちください」


「まあ、せっかく一緒に来たのに…」

「お許し下さい。いつもより無礼講形式の宴になりますので、入場の制限が厳しくなっております」

「マヤ様、大丈夫ですわ。わたくし控室でお待ちしております。そちらでも皆既日食は見れますし、宴会のお食事も頂けますから」


わたしは控室へ向かうリラに向かって頷くと、大広間入口で衛兵による入念な身体検査を受けた後大広間の中へと入った。


 ******


天井の高い大きな広間だった。

上座にあたる部分は他の場所よりも一段高くなっており、豪華で大きな長椅子が置いてある。

目の前の大きなテーブルには塔のように高く花と果物が色とりどりに飾られている。


(…あ、あれは…)

飾られている果実の一つは白く大きな丸い桃――『ルナ』だった。


「マヤ様、どうしました?」


思わず足を止めて桃を見つめていたわたしを不思議に思ったのか、衛兵が尋ねた。わたしは慌てて首を振った。


「ええと…ごめんなさい、何でもないわ」

「ではこちらへどうぞ」


衛兵はわたしを会場の下手に設置してある椅子の並べられた場所へと誘導した。

羽織っていたマントを衛兵へと預け設置された椅子に腰かけると、少し離れた場所でバアル様が誰かと話をしているのが見えた。


話し相手とは、でっぷりとした身体に白い艶のあるトーガを纏った豊かな巻き毛のドロレス執政官だ。


バアル様と話し終えてからドロレス執政官はわたしをチラッと見ると、フンッと鼻息を鳴らして上座の方へと歩いて行った。


「おはよう、マヤ姫。昨日は慌ただしくなって済まなかった」

わたしへ近づきながら、バアル様はにこやかに挨拶をしてくれた。


「いつもお美しいが今日は大変華やかだな」


そしてわたしの頭からつま先までサッと目を配ると、バアル様は少し小声のふざけた口調で言った。


「――女性は本当に大変だな。全く恐れ入る。身支度に男の十倍は掛かるに違いない」

「まあ…バアル様。十倍は言い過ぎですわ。でも五倍位は掛かるかもしれません」

バアル様の軽口に笑って返答すると、バアル様はいきなりわたしに向かって真顔になった。


「冗談ではなく酒が振舞われ宴が進むにつれ、元老院の貴族等も無礼講になり会場は乱れた場になりがちだ。マヤ姫、身にお気を付けなさい。ここにいるのは、貴女の美しさをただ眺めて満足するだけの節度のある者たちばかりではない。ご自分の身はご自分でしっかりと守られよ」


バアル様のシリアスな口調と忠告の内容に、わたしは驚いて思わずあんぐりと口を開けた。

バアル様は真剣な表情からそのまま薄っすら微笑んだ。


「旅立ちの準備もあるので私は早々に退出する事になるが、どうかお気を付けて。決しておひとりで行動してはいけない」

「わ、分かりましたわ」


わたしはしっかりと頷いた。

ちらりと元老院の貴族等が座る長椅子の方に目を配ると、既に会場に着いているトーガをきっちりと着こなした貴族と思われる者の数名が、わたしとバアル様の方を見て耳打ちをしながら会話をしているのが見えた。


(気を付けなきゃ…)

一番最初のニキアスのテントに連れて行って貰った前と、状況は似ているかもしれない。


(隙を見せると危ないんだわ)

妙な緊張感と不安を伴って椅子に腰かけていると、楽の音が雅やかに始まり、続々と貴族等が会場に入って来た。


人が増えてザワザワと騒がしくなる大広間に、次々と奴隷が酒と小菓子を長椅子の前のテーブルの上に置いていく。


「御機嫌よう、マヤ王女」


優しく声を掛けられ『誰だろう?』とふと顔をあげると、そこに佇んでいたのは優雅にトーガを着こなしたフィロンだった。


フィロンも薄っすら化粧をしているらしく、何時に増して女性的で――背の高い美女に見える。

長い金髪はわたしの様に編み込んであり月桂樹の葉が頭上に乗っているのが見えた。

「これ、よろしくね」

フィロンは近くに立つ衛兵を呼び、彼にマントを渡すと艶やかに微笑んだ。

少し顔を赤らめた衛兵が慌ててマントを預かって去っていく。


「顔色が悪いね。本当に『皆既日食』が起こるか心配で昨夜は眠れなかったんじゃない?」

フィロンに薄笑いでそう言われ、わたしは今更ながらその事にも気づた。


(はあ…何か色々と胃が痛いわ)

プレッシャーと不安と緊張で、まだ何も始まっていないのに既に疲労感を感じる。

わたしは小さくため息を吐いた。


するとその時、楽の音が一度完全に止まり人々の騒めきも消えた中、ドロレス執政官の甲高い声が響いた。


「ヨアンナ皇后陛下のお出ましです。皆の者面を下げよ」


その時、上座の裏に出入口があるのだろう、ドロレス執政官の言葉と共に亜麻色の髪をした30才そこそこの美女が、小さな女の子を三人伴って現れたのだった。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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