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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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20 それは嫉妬(?) ②

お待たせしました。

フィロンは不機嫌な表情を浮かべたまま廊下を歩き、コダの預言者兼私室である部屋へと入った。


そのまま纏っていたトーガを外し、傍らの侍従に渡すと

「少し疲れたな。休みたいから…業務は後にして少し横になるよ」

と寝室の方へ向かった。


後ろ手で静かに扉を閉めると、フィロンは寝台にゴロリと横になった。


そのまま羽毛の入った絹の枕を引寄せて抱えると、先程会話したマヤ王女の青白く引き攣った表情と、動揺の現れで小さく震える声を思い出した。


『もう…もうわたくしに嫉妬をされるのも、いい加減になさいませ。とてもお見苦しいですわ』


「ふ…」

口を押し付けた絹の枕の隙間から、フィロンの吐息と声が思わず漏れた。


「…くっ…ふ…」

(王女には相当…皇宮内の噂が()()()()()様じゃないか)


「ふっ…く…は、ははっ…はっ…ははっ…ああ…いけない…」

(これは...侍従に聞かれてしまうな)

そのまま大声で笑ってしまいそうになるのを、フィロンはやっと堪えた。


「『わたくしに嫉妬』ねぇ…」

フィロンは小声で呟いた。

 

 *****


(あの能天気な…自分の事しか考えれない王女は、やはり自己中心的な阿呆なのだろうか?)


自分が()()()()()()()()()していると、本気で思っているのだろうか?

(まあ、確かに…流石に()()はするか。あんなに簡単に陛下の部屋に泊まる事ができるのだから)


ここに来てからのフィロンは、ガウディの動向を注意深く見るようにしている。


『ガウディ皇帝がマヤ王女を寵愛している可能性がある』という噂を裏の情報から知ったのは、大分前の事だ。


『私室』に泊まったのも裏から聞いたが、最初は信じられなかった。


あの…神経質なほど注意深く、警戒心の強い陛下が、自分の領域内(テリトリー)に他人を呼ぶだけでなく、そのまま泊めるなんて。


元々小さかったその噂を、少しずつだが大きく広めたのはフィロンだった。


(…火種と混乱は大きく煽った方が、後々都合がいい)

フィロンは小さくふふ、と笑った。


 ******


ガウディ皇帝はどうやら無神論者らしい。


もともと非常に警戒心の強いガウディ皇帝だったが、皇宮内一画とは云え、何故か預言者が住む棟を立て、そこに預言者を引き入れた。


その中でも最後まで『皇宮付き預言者』として、預言者自体を皇宮内に留めさせる案に反対したのは、ドロレス執政官だった。


『宗教』と『政治』の分離をすべきだから、と彼は表面上訴えてはいたが、『ガウディの懐に他者を入れたくない』という魂胆は見え見えだった。


(…この皇宮内は誰かが誰かのスパイをしている)


自分についていたあの少年の侍従ですら、ドロレス執政官か陛下の奥方達か、元老院貴族の誰かの息がかかっていると、フィロンは知っている。


()()()()フィロンは間者だ。


ガウディの身辺を探り、このアウロニア皇帝の住む不思議な空間を調べる為に

『コダ』神とその神殿から送りこまれてきたのだ。


まず首都内で指折りの娼館で男娼として働いたフィロンは、アウロニア元老院の貴族と()()()()になった。


そしてその太客の裏パイプを使って、手間を掛けて皇帝陛下へ『コダ神の預言者である』と自分を売り込む事に――見事成功した。


『皇宮付き預言者』になって皇宮に潜入出来、晴れてガウディの身辺を探りやすくなったと思ったが、思わぬ手痛い誤算があった。


『この皇宮内の――特に中心部分を神の加護の力で探る事が出来ない』という事だ。


実は以前から『皇宮内の中心を視る事が出来ない』――その噂はあった。

『メサダ』神殿の預言者や神官長までもが、同様の事を云っていた。


けれど、皇宮内の――しかもど真ん中に潜入出来る人物は極極限られていて、その情報の真偽はずっと長い間、曖昧だったのだ。


この皇宮内では何故か――『コダ』神の加護は、使えない。

何度祈っても『コダ』神への祈りは届かず、神の声も聴く事が出来ない。


昔一度だけこのザリア大陸を旅する賢者バアル様にも、訊いて見た事がある。


『何故この皇宮内で神の力を感じる事が出来ないのですか?』と。


『神託』を受けるにしろ『預言』をするにしろ、神の息吹が感じられない場所にいるのでは、そもそも『預言者』としての働きができないではないか。


「それは私にも分からない」

『ドゥーガ』神の預言者は一言で言った。


「まあ、少なくとも…この場所で特定の神の加護を祈る事を、陛下は望まれてはいないという事かな。

どうしても『祈りたい』というならば、事前に伝えておけば首都内の神殿に行くのは許されている」


バアル様は『そうしたらどうかな?』と穏やかな笑みを浮かべた。


「陛下に許可を貰って『祈り』に行くと良い。どうしても『祈り』の場所を制限されるのが耐えられないというのであれば、上申すれば此処を立ち去るのは何時でも出来るぞ」


 *****


(…何てことだ)

フィロンは心の内で舌打ちをした。


ガウディの近くに行って監視をするつもりなのが、

(結局囲われて監視を受ける対象になってしまった)


現時点では先に進む事も出来ず、後戻りも出来ない。

(あの用心深い陛下の懐に入る事も出来ず、簡単にこの皇宮から出て行く事も出来ない)


フィロンはあのヒョロリと背が高く手足の長い――昆虫によく似た無表情な顔の男を思い出した。

真っ黒い深淵の様な瞳は、数少ない閨の時ですら何を考えているのか、本当に分からない。


(もしこれがガウディの計略のひとつだったのならば…恐ろしい男だ)


『メサダ』神の預言書によれば――着々と時間は差し迫っている。


ガウディの広げた目くらましの様な煌びやかな蜘蛛の巣に、フィロンはいつまでも大人しくかかっているつもりは無かった。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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