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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
184/260

13 噛み痕 ①


頭が重い。

「うう…ん…」


激しい頭痛と共に吐き気がする中でわたしは寝返りを打った。

横になった身体に下の布の感触は素晴らしく心地よく、ふと気づけば背中が温かい。


そしてわたしは、自分がショーツの様な下着一枚の裸同然で、何も身に纏っていない事にも気づいた。


(え?な、何故…?)

(どうしてわたしは服を着ていないの?)


混乱する自分の記憶を必死で手繰り寄せ…ハッと思い出した。

わたしは陛下の書斎で倒れたのだ。


陛下の書斎で――?。

(わたし…何で倒れたっけ?…)


倒れた理由がなんだったのかを思い出せない。

(確か…確か陛下に『ニキアスに会いたいか?』と訊かれて…)


『ガウディ、お前に安息の時と地は無い…』

その後――その後…わたしは陛下に向かって呪いとも取れる神託をしてしまったのだ。


一瞬また喉の詰まるような息苦しさに襲われた瞬間、何処からか手がドサッとわたしの身体の上に落ちて、わたしは背中側にグイと引き寄せられた。


「!?」

(え?何?…誰?)


疑問ばかりの混乱する頭のわたしは、背中にいる人の温かい腕の中にぎゅっと抱きしめられていた。


恐る恐るわたしは後ろを振り向いた。

わたしを抱き締めている人を見て、思わず声を上げそうになるのを我慢する。


「!??」

(――陛下!?)


そこにはわたしの腰に手をまわし深く寝息を立てているガウディ陛下がいた。


(な…何故陛下がいるの?)

救いと何と言うか、陛下は簡単なチュニックを羽織ってはいた。

ただしそれでもわたしをぎゅっと抱きしめて、その身体をピタリと寄せているのは変わらない。


一体何がどうして、こんな展開になったのか。


その時、僅かに身動きをした陛下は

「マヤ…」

と低い声で呟いた。


「!?」

その呟きがあまりにもニキアスの声に似ていて、わたしは思わず混乱しそうになった。

うっすら思い出す記憶の中で聞こえた声は…ニキアスでは無かったのか。


『愛している…マヤ』

と耳元で囁いていた声は…。

(一体…誰?)


わたしは寝息を立てている陛下を肩越しにそっと見上げた。


(まさか…陛下?)


 *****


陛下がまた身動きをして、掛物を引き上げわたしの肩にかけた。


「…身体が冷えている…」

と言って、そのまま陛下はわたしの髪に顔を埋めてしまう。


すると、いきなりまた昔の記憶――陛下のお母様のエレクトラ様の記憶がフラッシュバックした。


『…母上、母上。またこんな所で眠って、風邪を引きますよ』

少し高めの…少年の陛下の声を思い出して、また苦しくなる。


この記憶の混乱と胸の苦しみ――どうしたらいいのだろう。


「?…マヤ?…起きたのか?」

陛下が気付いてギシッと寝台を揺らし、少し起き上がった気配がした。


(いつもはわたしを『レダの預言者』としか呼ばないのに…)


いつもの陛下のひび割れた様な声に、ほんの少し…わたしを気遣う様なニュアンスが含まれている気がするのは気のせいだろうか。


わたしは頑なに目を閉じて、眠っているふりを続けた。


(…だって今更このまま後ろを振り向いて…『起きています』と陛下に顔を合わせる勇気もないもの)


理由を付けなければ、更に自分の気持ちが落ち着かなくなりそうだった。


すると今度は小さく鼻を鳴らす音が聞こえて、陛下が大きな手でわたしの髪を掻き上げた。


(…え?)

いきなりわたしの首元が涼しくなったと思うと――陛下が顕わになった耳と首筋に小さくキスを落としてきた。


(やだ、ど…どうしよう…!)

そのままするりと陛下の手が前に伸びて、わたしの胸に触れた。


「――!!」

(だ、駄目…!これ以上は…!)

陛下の手がわたしの胸を大きく揉み上げ、首筋を強く吸われた次の瞬間。


「へい…――あ、痛っ!?」

わたしはたまらず声を上げた。


なんと――ガウディ陛下がガブリと首を噛んだのだ。


 *****


「やはり起きていたか、レダの預言者」

「ひ、ひどいですわ…いきなり…か、噛むなんて…」

思わず批難がましい口調になりながらも、わたしは首を押さえて、震えてながら後ろを振り向いた。


「加減した。そんなに強い痛みを感じる程ではないだろう」

「…そんな…」

(そんな問題ではないわ)


絶句したわたしを無表情な目で見下ろした陛下はそのまま寝台を降り、掛物を握り締めたわたしに向かって尋ねた。


「…どうする?部屋に戻るか?」

「…ど、どうするも何も…」


ふと殆ど裸同然の自分の身体を見下ろせば、(多分陛下に、だろう)至る所に赤く吸われた痕と歯型が薄っすら残っている。


「――!?」

(そんな…意識の無かった間に一体何があったの?)


呆然と自分の身体見つめるわたしを見た陛下は、ため息を小さく付いた。


「…エシュムンを呼ぶ。特に問題が無ければ迎えを呼ぶから、自分の部屋へと戻るがいい」


 ******


陛下はエシュムン医師を呼ぶ為に、寝室を出て行ってしまった。


(そんな…)

『わたしが意識の無い間に、一体なにがあったの?』


(もしや…恐ろしい事だけど)

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』


掛物をひたすら握り締め、自分の身体に残された痕を見ながら、頭の中でひたすらその考えがグルグルと回る。


そのままどの位の時間が経ったのだろう。


(…どうしよう…どうしてこんな事に…)

混乱する記憶と、パニックに陥りそうな感情でまたも自分がいっぱいになっていた丁度その時――コンコンと、部屋の扉を軽快にノックする音が聞こえた。


「おお…マヤ様。やっと起きましたか」


そこには、白髪の侍医エシュムンが診察用の鞄を持ち、扉を開けて立っていた。


そしてその後ろには陛下も立っている。

陛下は既に正式なトーガを身に着け、そのまま政務へと向えそうな恰好に着替え終えている様だった。

 

 *****


わたしの様子を見たエシュムン医師は、傍らに立つ陛下を怪訝そうに見上げた。

「…おや、陛下。まだ彼女は混乱状態とお見受けますが?…落ち着いたのではないのですか?」


「いや?俺を見て普通に怯えているからな。少なくとも、もう意識はハッキリと戻っている筈だ」

「そうですか。ではお身体を拝見させて頂きますかな」


エシュムン医師は寝台に近づいて鞄を寝台の横に置くと、わたしの恰好を気にする様子も無く、淡々と診察をし始めた。

「はいはい、では…マヤ様。お口を大きく開けて頂けますかな?」


「…余は政務へと向かわねばならん。この忙しい最中、一日まるまる業務が滞った。これ以上はドロレスが限界だろう。

エシュムンよ、後は任せた。診察が終えたら、侍女を呼ぶように伝えろ」


陛下はわたしの診察の様子を一瞥すると、エシュムン医師へとそう告げて、足早に部屋から出て行ってしまった。


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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