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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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11 王子はメサダ神殿へ向かう ②

男子は16歳で成人です。


フードを深く被り直した美人はギデオンにぺこりと挨拶すると、人込みの中を優雅にスルスルと泳ぐ様に前の方へと進んで、何処かへとその姿を消した。


「アナラビ!」

丁度ギデオンの真後ろの方からタウロスの声がする。

ギデオンが後ろを振り返ると、人々の波の頭の上一つ分はしっかりとタウロスの頭が飛び出ているのが見えた。


ギデオンが腕を上げて手を振ると、タウロスはやっとギデオンに気付いた様に人込みをかき分けながら、近づいてきた。

皆このまま神殿へと向かうメサダ神の信者の波である。


「全く…今日は信者が多すぎますな」

「メサダが今回の皆既日食の件で何も言わないから、皆心配になってここまで参拝に来るんだろ」


「…レダ神が神託を出して国民にアピールしていると云うのに、メサダは一体何をしているんだ」

少しイライラした様に呟くギデオンの言葉の端に険を感じたタウロスは、隣で真っ直ぐ前を見ながら歩く王子を見つめた。


「確かに…信者向けに新に神託があっても良さそうではありますが、メサダ神から()何もないという事なのでしょうか」

「メサダはオレ等だけが情報を共有できていればいいと思っている。確かに国民の心理を混乱させるにはいきなり正体不明の現象が起こった方がやり易い。でもそれはもう既にレダの預言者によって断念させられた。だったら今度は信者を少しはフォローしろよ」


タウロスは眉を顰めてアナラビへと注意をした。

「アナラビ…そんな言い方は…」

「分かってるさ…『不敬』だろ?神サマの御心ってヤツは誰も分かんないもんな」


ギデオンは鼻を鳴らしてそう言うと、機嫌が悪くなった様に黙ってしまった。


 ******


神官等が使用する関係者用の扉はメサダ神殿の裏手にある。


その扉からギデオンとタウロスは、メサダの神官の誘導で神殿の中へと入った。ガランとした高い天井の造りは物音や声が良く反響する。


誰かがぼそぼそと話す声がギデオンの耳にも響いてきた。

神殿内の松明の光の中、立ち話をしている一人はこの神殿の神官長であり、もう一人は――。


「…マ…」

(マヤ…?)

長い蜂蜜色の髪が、松明の光で艶やかに光っている。


一瞬王女を思い浮かべたギデオンは、思わず息を飲み心の中で呟いた。

(…こんな場所に彼女(マヤ)がいる訳が無いのに)


「――誰ですか?」

ギデオンの息の音を聞いて、蜂蜜色の髪の人物が気が付いた様にくるりと後ろを振り向いた。


それはなんとさっきギデオンがぶつかった碧い瞳の花の様な美人だったのだ。


 ******


「おお…これは、アナラビ様、タウロス殿ようこそいらっしゃいました」

神官長はアナラビとタウロスを確認すると、歓迎する様に大仰に両手を広げ二人へと挨拶をした。

その動作は大きいが、やはり人形の様に神官長の表情は変わらない。


「…久し振りだな、神官長…」

アナラビは蜂蜜色の髪の人物を野良の猫の様に警戒しながら、小さく挨拶を返した。


タウロスも神官長へ挨拶をすると同時に、隣に立つ見知らぬ人物についての質問をした。

「…ご無沙汰しておりました神官長様。して…そちらの御方は?紹介していただけますかな?」


「こちらの方はフィロン様です。()()()()()()()()の方ですよ」

「な…皇宮付き!?」

「アウロニア皇宮ですか?」


神官長が答えた言葉に、ギデオンとタウロスは同時に警戒するように尋ねた。

それを聞いたフィロンは、曖昧な微笑みをふわりと浮かべて答えた。


「ふっ…随分と警戒をされるみたいですが、ボクは『コダ』神の預言者です。こちらのメサダ神の神殿からコダの神殿へは資金的な援助も頂いているので、定期のご挨拶に伺ったところですよ」


「――ん?『コダ』神…?」

フィロンの言葉を聞いたギデオンは、裏路地にあるアジトでの会話を思い出して思わず呟いた。

実はさっき聞いた『フィロン』の名前も、ちらとは引っかかっていたのである。


「おい、そいつ(コダ神)って…確か、皆既日食を『太陽の光が消えて空が闇に包まれる恐ろしい災いが起こる前兆』って言った神じゃねえか?」

「――アナラビ!」

注意する様にタウロスは声を上げたが、もう遅かった。


「ああ…そうです。その通り」

フィロンは花が咲く様に微笑みながら言った。


「派手なレダ神の『神託』の発表で霞みましたが、ボクの神の『神託』はそうでした。ふふ…よくご存じですね。皆あまり知らない様ですが」


 ******


「ふふ――ははっ…だから、そんなに警戒をしないでくださいよ」

アナラビとタウロスが途端に強く警戒の色を濃く浮かべると、フィロンは可笑しそうにコロコロと笑った。


「特に先程から後ろにいる()()()――アナラビ君でしたっけ?ボクは敵ではありませんよ」

「お…男の子!?」

フィロンの言葉にギデオンは『馬鹿にされた』と言わんばかりに大声を上げた。


ギデオンがその言葉に過剰に反応したのは、自分が丁度悩んでいる事をフィロンに図らずも指摘されてしまった様に感じた為である。


「おいッ、フザケんなよ、訂正しろ!オレはとっくの昔に成人してるんだぜ!?」

「ああ、そうですか、それは失礼しました。ずっと背中の毛を逆立てている()()の様で可愛らしかったので、つい…」

「何だとッ!?」


「アナラビ…ここで大声を上げて抗議しても、先程からの貴方の落ち着きのない態度で明白です。ここはメサダ神様の御前ですよ。少し静かになさって下さい」

「…ぐっ…」

口を挟んできたタウロスにも自分の子供っぽさをがっつりと刺され、ギデオンは渋々とその口を閉じた。


それを見て小さく笑ったフィロンは、自分の羽織っていたマントをするりと脱いだ。

そして鮮やかな花の入れ墨のある方の腕で神官長の胸辺りにそっと手を置くと、人形の様な神官長の顔を見上げて妖艶に微笑んだ。


「それでは…神官長様。ボクは先に部屋でお待ちしております」

「お、おお…そうですな。フィロン殿のお時間が迫っておりますし。私も直ぐに向かいます」


「…それでは、お二方様。ボクはこれで失礼いたします」

慌てた様に返事をする神官長を残し、フィロンは優雅にアナラビとタウロスへと挨拶の礼をした。


そしてそのまま案内もつけずに、神官達が住まう私室が並ぶ廊下の奥へとひとり歩いて行った。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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