10 王子はメサダ神殿へ向かう ①
あまりピンとこないので、サブタイトルを後ほど変更するかもしれません
「――んで、結局?」
香辛料の香りと僅かに下水の匂いが漂う喧騒な市場の中通りを速足で歩く彼らは、片方が岩の様な巨体の男であり、もう片方はすらりとした細身の口元に黒子のある端正な顔をした赤っぽい鳶色の髪の若い男だった。
深くマントを被ったアナラビは隣を歩くタウロスを見上げて訊いた。
「何故か日蝕の情報が既に国内で明らかにされていて…オレ等がどうするって話だっけ?」
「……」
タウロスは無言だったが暫くして口を開いた。
「とりあえずコルダ国の使節団と共にお頭もこの国に入っている筈です。我等が入れないガウディ皇帝との謁見での様子は教えてくれるでしょう」
「ん…」
珍しく小さく返事をしたアナラビはタウロスを見上げた。
「なぁ、タウロスよ…ことごとく作戦が上手く入っていない気がするのは、オレの気のせいか?」
「それは…確かにその通りです。憂慮すべき事態ですから一度メサダの神殿に確認しなければなりません」
『太陽が消える』事象を使って――国内の人民のパニック状態への誘導と、皇帝への反勢力の基盤を更に踏み固めるべく動いていたアドステラ盗賊団の計画の目論見は、『レダ神』の神託の発表により作戦の途中で阻まれてしまった。
『レダ』神の預言者マヤに因る『太陽が消える』事象についての説明は、その事象は『ものの数分で終わる天体上の出来事』としており、決して『神の怒りや不吉の象徴では無い』と皇帝の前で宣言し証明した結果、その内容は『レダ神の神託』として瞬く間に国内へと広がった。
天文学者達による来るべき日の事象の説明をする講座が、各地で開かれた。
事象の詳細な説明や観測器具の使用方法や、作り方の説明を聞く講座が市内や周辺の村で開かれ、興味のある民らでその席は埋められたのだった。
この天体の動き云々に関して、何故か太陽神であるメサダの神殿は沈黙を守っている。
それはその信者に対しても同様であった。
アナラビ即ちギデオン王子は、ここ数ヶ月最近生来の能天気さが身を潜め、何故か正体不明の不安に陥る事が多くなった。
今まで全てメサダ神の導きの下、アドステラ盗賊団のお頭や側にいるタウロス、そして主に資金や手を裏で貸してくれるメサダの神殿の神官等の言う通りにしていれば大方の事はスムーズに進んでいた。
謂わば親犬に付いていく子犬の如く、先を先導してくれる大人達に囲まれた状態で『物事が当たり前の様に進んでいた』感覚に近い。
しかしおかしな事に、あの日ハルケ山でレダの預言者を拐った時にそれは変わってしまった。
メサダ神からのメッセージは何もなく、アナラビとタウロスは危うく判断を間違えそうになった。
一歩間違えれば、ハルケ山中に踏み入れてあの土砂崩れの災害の中に巻き込まれそうになったのだ。
マヤ王女の『神託』に救われなければ。
彼女はあの小さな女の身体一つでも、レダの『神託』を信じて自分の信念を貫いて盗賊等へと訴え続けた。
その姿を思い出すと『それに比べて自分は…』と自分を信じ支え続けてくれる仲間に申し訳ないと思ってしまったり、『メサダ』神はオレ達をきちんと見ているのだろうか――といった神に対する疑念も湧いて来た。
今回もこの計画が上手くいかない事に対して『メサダ』神に対する不満が、自分の中でふつふつと沸き始めている。
『もっと自分は、王になる身として自身でしっかりしなければならない』
そうギデオンが決意を新たにする時、何故か――あの雨降りしきるハルケ山に佇む小柄なマヤの姿を思い出すのだった。
*******
帝国内領、首都にある『メサダ』神殿の本殿は大神殿である。
真っ白い大理石でしっかりと建てられた神殿は大きくて太い柱が何本も並び、全体的にかっちりとしたイメージで造られていた。
参拝する信者も多いだろうに、本神殿迄の敷地の階段や歩道にはゴミ一つ落ちることなく掃き清められ管理されている様だった。
その証拠にそこかしこに髪が完全な坊主の真っ白い神官様トーガを着用する神官等がたむろしている。
表情が変わらず言葉に抑揚の無い彼らは、人形の様であったがれっきとしたメサダ神の信者である。
(全く…薄気味悪い奴らだぜ)
ここに来る度にギデオンは『メサダ』神の神官に対しそう思っているのだ。
ギデオンは神官には会った事があるが、メサダ神の『預言者』には直接会った事が無い。
どうやらこの神の預言者は、メサダの神殿の奥深くに潜み預言のみをしている人物の様であった。
ギデオンはタウロスと共に、神殿へ参拝する信者に紛れながら本神殿への通路を歩いて行った。
考え込みながら下を向いて歩く。
その為かつい確認せずに、前を歩く人物の背中にドンっと思い切りぶつかってしまった。
「あっ、悪い…」
次の瞬間、自分がぶつかった相手が振り向いて少し驚いた様にこちらを見上げた。
何故かその時、ギデオンの背中にざわっと戦慄が走った。
一瞬こちらを見つめた瞳はあの――レダの預言者と全く同じ海の色の蒼だったのだ。
そして自分より少し低い背丈でマント付きのフードを被ってはいるが、こんな場所では滅多にお目に掛かれない――驚くほど整った花の様な美人だった。
「――いいえ、大丈夫です。お気になさらず」
こちらを見上げ花が咲く様に微笑んで返した声は、高めではあるが男の物だ。
野生の勘とでも云うべきか、一瞬にしてこの人物に対しギデオンの中で警告灯が付いた。
お待たせしました。m(__)m
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク・評価いつもありがとうございます!
なろう勝手にランキング登録中です。
よろしければ下記のバナーよりぽちっとお願いします。




