9(幕間)友人 ①
謁見の間には既に誰も居なくなっていた。
衛兵も下がらせてガランとした広間には、ガウディの指が鳴らす肘掛けの音だけが響いている。
本日一番大きな会談の相手である東のコルダ国からの使節団の相手を終え、ドロレス執政官は玉座に座るガウディを見上げて言った。
「いつに増しても…今日はご機嫌が悪い様ですね、陛下」
「そんな事は無い」
「いつもと椅子の叩き方が違います」
「……」
玉座に姿勢を崩したまま座るガウディは、椅子の肘掛けに置いた指をトントンと規則的に鳴らしている。
「…執務の予定が大幅に狂っています。先日丸々一日分無駄にされた仕事を消化して頂かねば」
「分かっている」
「――陛下」
「何だ」
「あの女狐を何故傍に置いておくのですか?」
「何の事だ」
前を向いたままガウディは無表情に言った。
ドロレスは玉座に姿勢を崩して座るガウディを真っ直ぐに見上げた。
「――先日の事が私の耳に入っていないとお思いですか?」
ガウディは椅子を叩くのを止めてドロレスを見下ろすと、小首を傾げながら薄っすら笑った。
「…いや?お前は皇宮内の事はいつでも何でも知っている」
「不敬だと思われるかもしれませんが…あの女は危険です。いつニキアス様の…いや、我等の敵方に回るか分かりませぬ」
「危険?…ふふ、おかしな事を云うなドロレス。戦力も持たぬ、たかが女一人の細腕だ。それにもう滅んだ国の王女だろうが」
「その様な意味ではありません。御存じでしょう?――私は以前から言っておりますが、あの娘はレダ神の手先です」
******
ドロレス執政官はすうと息を吸うと、一気に言ってのけた。
「敵を自陣に引き入れる危険性など、私が今更言わずとも陛下には分かっておられる筈。此度の戦に関係の無いバアル様はいざ知らず、フィロンの時にも反対したのにレダの預言者まで引き入れる始末…私が陛下の回りを自分の子飼いで囲うのは全て貴方を守る為ですぞ」
滔々と恨めし気に話すドロレスをガウディは珍しく面白そうに見つめていた。
「分かっている。ドロレス…お前が余を心配をしている事は」
はあはあと息を切らしながらドロレス執政官は、でっぷりとしたその身体と撒き毛を揺らし慌てて平服した。
「…も、申し訳ありませぬ。つい…」
「よい。面を上げろ。昔からの友人の大切な忠告として聞いておく」
「……」
「ではこちらからも一つ言っておくぞ。これは余から友人としての忠告だ」
「…何でございましょうか」
ドロレスは膝を付いたままゆっくりと顔を上げてガウディを仰ぎ見た。
緊張と少しの警戒を浮かべた表情の友へと、ガウディは真っ黒な瞳を猫の様に細めて言った。
「アレクシアが安定期に入ったそうだ。そろそろ会いに行ってやれ」
その言葉を聞いた瞬間、ドロレスはスン…と真顔になって固まった。
「――では…私めはこれで失礼いたします、陛下」
ドロレス執政官は立ち上がり礼儀正しく臣下の礼をすると、身体を揺らしながら謁見の間を出る為に歩き出した。
ガウディは珍しく『くっくっくっ』と小さく笑いを漏らしながら、遠ざかる執政官の背中へと声を投げた。
「ドロレスよ――確かに伝えたぞ」
お待たせしました。m(__)m
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