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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
3.亡国の皇子
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5 赤い石 ②


「探し物…」

陛下に訊かれてからわたしはしっかりと陛下を見つめて答えた。


「――はい見つかりました。ニキアス様の義妹になる方とお話する事が出来ました」


ニキアスの父親違いの妹『ルチアダ神』の預言者でもあるアレクシア様だった。

「アレクシア様と…沢山お話をする事が出来ましたわ。ルチアダ神のお声は聞こえないとは仰っておりましたが、お身体はお元気そうでした。素晴らしい演奏も聞かせて頂きましたわ」


「そうか…それで?」

「あの…それで、とは?」


陛下は書状の筒をまだ手の平で弾ませている。

「これがまだ必要かどうかを聞いている」


わたしは慌てて確認する様に陛下へと尋ねた。

「で、でも…それってバアル様のお手紙ですよね?わたくしが送らせて頂いたお手紙のお返事ですわよね…?」

「そういう事になるな」

「でしたら…」

(それは見たいわ)


「これを見る必要があるか?お前は答えをもう得たのだろう」

陛下はそう言って、折角の書状を机の上にポイと無造作に転がしてしまった。


「でも、せっかくお返し頂いたお手紙ですから…それに」

少し椅子に座り直してわたしは話し続けた。


「わたくし…バアル様の御手蹟がとても好きなのです。前回頂いた時も文字がお手本の様にお美しくて…」


陛下はわたしの話を止めずに見つめていた。

わたしはそのまま話し続けて良いという合図だと思い、頷いてから話を続けた。


「実は前回頂いたものも何度も見返して…わたくしその文字の真似をさせて頂いているのです。

レダの神殿に居た頃もその後も…アウロニア語の文字の練習を致しましたが、残念ながらバアル様の文字の様に達筆の者はおりませんでした。

公用語となったアウロニア語ですが、書籍として見るのはさすがにゼピウス国内では難しかったので…」


「――分かった。もう良い」

陛下はわたしの話を遮る様に言った。


(いけない、つい話過ぎてしまった…!)

わたしは慌てて口を噤み陛下の顔を仰ぎ見たが、不思議な事に不快になっている表情は浮かんでいなかった。


「好きにするがいい」

と言った陛下は、なんと書状の筒をわたしに向かって大きくポーンと――投げた。

大きく弧を描いた書状はわたしの膝の上へと落ちて、勢いよく弾んだ。


「――ッ!!」

そのまま床に落ちてしまわない様に、わたしは慌ててその書状を抱え込んだ。

「…あぶなっ…」


血の気が引いたわたしの表情を見て陛下は鼻を鳴らすと、書斎の椅子からスッと立ち上がった。


「――そこで読め」

そう言うとわたしを書斎に残し、また書斎から歩いて出て行ってしまった。


「い…いいのかしら…」

わたしは一人残された陛下の書斎でバアル様のお手紙を読む事になったのだった。


 ******


少しドキドキしながらバアル様からの書状を見ると前回と同じしっかりと蝋封されている。


「…あ、どうしよう」

それを見てわたしは思わず椅子から立ち上がった。

糊のようにしっかりと書状に蠟がくっついている為

(…ペーパーナイフが欲しいわ)

とわたしがウロウロと捜しながら迷っていると、陛下が書斎へと戻ってきた。


何故か手には桃の山積みに入った籠を持っている陛下は、わたしが丸まったままの書状を持っているのを見るなり、呆れた様に言った。


「遅い。まだ開けてなかったのか」

「あの…蝋封を開けられなくて…すみません」


陛下はそれを聞いて小さくため息を付くと

「――貸せ」

と言ってわたしから書状を取り上げた。


陛下は籠を書斎に机の上に置き、机の上の小さなペーパーナイフを取り上げるとスッと書状の蝋にナイフを入れてわたしに渡した。

そして書斎の椅子に座るなり籠の中の桃を剥き始めた。


わたしは丁寧に書状を広げると、バアル様の手紙に目を通し始めた。

それは相変わらず綺麗なアウロニア語の書体の文章だった。


 ******


『――マヤ王女様。


丁寧なお手紙をどうもありがとう。

歳の割に頑丈だからそんなに心配をして頂かなくても大丈夫だが、その優しいお心遣いに感謝する。

私も先日テヌべ川の南側の下流の確認とその近くのデリの神殿を訪れた。


結果は陛下にお伝えするつもりだが、近々コタとルミナの神殿の地形や植物事情と治水を視察しに行く向かうつもりだ。

そこでは多分調査にもっと時間を要するだろう。


私は()のプライベートについては全く分からない。

彼が意図的に触れたがらないからだ。


けれど貴女が皇宮で不安で心が潰れそうになるのも仕方が無いと思う。


そして彼の為に何が出来るか考える事は決して無駄では無く、彼の為にもなると思う。

少なくとも寂しがりやで愛を欲しがる彼にとっては、自分を想ってくれる存在があるという事が一番の救いになる筈だ。

貴女は貴女の場所で彼に真の愛を送りなさい。


私が言えるのはそれだけだ。

ドゥーガ神の預言者 バアル』


「バアル様…」

美しく整った手紙の文字がわたしの涙で滲んで見える。読み終わった後には前回と同じ様に胸がじんわりと温かくなった。


(――わたしがこうしてニキアスを想って動く事は無駄じゃない)

『ニキアスにもきっときっと伝わる筈…』

とわたしは手紙をそっと胸に抱きしめた。


するとそれを見ていた陛下は、手に持った白桃の皮を剥きながら唐突にわたしへ質問した。


「――ニキアスに会いたいか?」

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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