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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
169/260

82(幕間)共犯者たち ④

残酷描写あります。苦手なかたお気をつけ下さい。

2部『vice versa』アウロニア帝国編はあともう一話で 一応終了です。


(…冷たい)

ゼノが目を覚ました時、辺りにはガツガツと何か固い物を削る音が鳴り響いていた。

自分の身体の下になる地面は固く――そこから凄まじい冷気が昇って来る。


(寒い…)

ゼノは思わず身震いをした。


自分が何故か手足を縛られ猿ぐつわをされて、何か袋の中に入れられているのが分かった。

日は昇っているのか片目でも、目の粗い布を透けて明るい光が見える事に少し安堵する。


けれど――どうもおかしい。


自分は自宅の邸でワインを吞み若い女奴隷に悪戯をして楽しんでいた筈だ。

(ここは何処だ?)

ガツンと一際大きな音が響き渡った後、ガランとこれまた大きな物を転がす音が響いた。


「はあ――…」

大きく上げた声はどちらかと言えば若い男の声だった。

どうやら近くにいるようだ。


(こいつ――一体何をやっているんだ)

誰に対してこんな事をしているのか分かっているのか?

おれは大公閣下の息子だぞ。悪戯にしてもこんな事は許されない。

(絶対に仕返しをしてやる――徹底的に)


ゼノは縛られた状態でも身体を思い切り左右に振り動かして暴れた。

「うう―!!」

くぐもった声しかでなかったが、側にいた者には分かったらしい。


「分かった、分かった。出してやるからそう暴れるなよ」

声の主は麻の袋からゼノの身体をゴロンと物を転がす様にして出すと、ゼノのしていた猿ぐつわを丁寧に外した。


優しい言葉と声の主にゼノの背筋は凍った。

ゼノの顔の上で屈み込み真っ黒い眼を月の様に細めて笑う。


「…ほら、これでいいか?ゼノ」

自分の義兄――ガウディだった。


「久しぶりだな。いや…母上の葬儀の時にお前は来てくれていたな。

物陰に隠れていたから俺には挨拶をしてもらえなかったが、分かっていた…」

そう言うとガウディは立ち上がって、ゼノの顔をまじまじと覗き込んだ。


「あ…義兄上…」

「お前の目の調子はどうだ?…痛みはないか?完全に失明したと聞いたぞ、気の毒にな」

ガウディは獲物を弄ぶ様に薄笑いを浮かべ、小首を傾げて優しくゼノへ尋ねた。


**********


ゼノは周りを見渡してガウディに問い詰めた。


「こ…これはどういう事ですか?一体何処に連れて来たんです!?」

「お前もここには来た事があるだろう?…母上と共に」


ガウディの言葉に、ゼノは片目ながらもう一度しっかりと景色を見た。

少し木々に雪が積もってはいるが――。


(あの林の湖だ…!)

しかもこの冷たい地面は――固い氷の上だった。


状況を理解したゼノは半狂乱で叫びながら、ゴロゴロと激しく抵抗して身体を動かした。

「あ…義兄上!義兄上っ…お止め下さい!こんな事をすれば直ぐに家の者にバレます!…父上にも…」


ガウディは薄笑いを完全に消してゼノを見下ろした。

「お前の家の者は来ない――見ろ」

そしてゼノの身体を蹴るとまたゴロンと強引に向きを変えさせた。


林の向こうに真っ黒い煙がもうもうと上がっているのが、片目のゼノでも確認出来た。

自分の邸宅のある方向だ。


「まさか…」

呆然と呟くゼノの横にガウディはまたしゃがみ込んだ。


「お前をここにわざわざ連れて来たのは…お前に直接聞きたい事があったからだ」

無表情で言う義兄ガウディを見上げてゼノは恐怖した。


*********


ガウディがゼノへと尋ねたその質問の内容は

『母上は最後何と言っていたか?』

そして

『なにかしらの神の介入はあったか?』

の二つだった。


怨み言や罵られるのならいざ知らず

(義兄上は何故そんな事を聞いてくるのか)

ゼノにはその意味が全く分からなかった。


ゼノは震え声でやっとガウディへと答えた。

「あ…義兄上とレダ神の名前を言っていました。レ…レダ神の御導きなどは有りません」

「…やはりそうだろうな。…レダが答えていたら母上は死んではいない」


ゼノの言葉を聞き自分の中で答え合わせした様に呟いたガウディは、立ち上がりまた薄笑いを浮かべた。


「ありがとう、ゼノ…最後に教えてくれて。お礼にお前を母上と同じ場所へ送ってやろう」

「ひっ…!!!」


ガウディは叫び声を上げようとしたゼノの口の中に黒い丸薬を放り込むと、鼻と口を押えて無理にそれを嚥下させた。

暫くするとビクビクと痙攣した様にゼノの身体が跳ね始めた。


「安心しろ、ゼノ…多少身体は動かせないが、ただ痺れているだけだ。

俺の声もちゃんと聞こえるし、しっかり痛覚も残っている」

「………」


ゼノは恐怖で唇を震わせてひたすら瞳をギョロギョロと動かした。


氷に刃を立て割っていた大斧をガウディは振り上げた。

そして刃では無く――斧の背をゼノの足へと思い切り叩き込んだ。


**********


ガウディは大斧と大きな石を幾つか麻袋へと入れると袋の口をしっかりと縛り、その端をゼノの足に結びつけた。

そしてまたゴロリと蹴って、先程湖に開けた穴の中へとゼノの身体を落とした。ゼノの身体はそのままゆっくりと湖の底へと沈み、消えて行った。


それを見送ると、湖の畔までガウディはゆっくりと氷の上を歩いて戻った。

エシュムンはそこで待っていた。


「終わりましたかな、ガウディ様」

「ああ…待たせたな、エシュムン」


「無事遺体を湖に沈めた様ですな」

「ふふ…遺体じゃない。意識は飛んでいたがまだ生きていた。動けない様に手足を砕いただけだからな」

「なんと…意識があるまま湖に落としたのですか?」

「そうだ。何か問題があるか?」


「それは…義弟君に少し残酷ではありませんか?」

エシュムンは呆れた様に言った。


「そうか...?俺はゼノが母上にしたのと同じ事をしただけだぞ」

ガウディは事も無げに言うと、黒い瞳をまた三日月の様に細めてエシュムンを見つめた。


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

2部『vice versa』アウロニア帝国編 あと一話で一応終了です。


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